「リブ殿!エイカ殿!」


          透き通るその声で呼ばれた二人は、声のした方を振り返った。
          するとそこには、思った通り待ち人の姿があったのである。







          「申し訳ありません、遅くなりました」


          深々と頭を下げるその少女――は、常世の国にて皇子・アシュヴィンに仕えている。
          先ほど名を呼ばれたリブとは、言うなれば同じ職場で働く仲間……のような関係。

          そしてエイカは、アシュヴィンの兄・ナーサティアに仕える者。
          仕える相手は違えど、三人は同じような立場にある、と言えるだろう。










          「まだ約束の時間より早いですから、気にしないでください」

          「今から出れば、刻限には十分間に合うでしょう」


          おずおずと顔を上げながらも、未だ申し訳なさそうな顔をするに、
          二人はそれぞれそんなことを言った。

          その言葉に、の表情も少しやわらいだようである。















          「では参りましょう」

          「そうですね」

          「はい」


          エイカの呼びかけに対し、リブとが答えた。

          
          ――三人は、とある洞窟に足を踏み入れた。
          この洞窟は、かつての敵だった中つ国に続いている。

          ……しかし、敵として剣を交えていたのも、少し前の話。
          現在では女王に即位した中つ国の二ノ姫と、常世の皇子であるナーサティアとアシュヴィンが
          友好を結び、とても良い関係を保っている。



          そんな中、その友好関係をより良いものにしようと、両国合同で宴を開くこととなった。
          主催者は言わずもがな、中つ国の女王陛下である。
          その関係で宴を開く場所も中つ国に……というところまで話は進み、
          その先の詳細は、実際に現地で話し合う、ということに。

          そうしてその会合に出向くことになったのが、リブ、エイカ、の三人である。










          「しかし……アシュヴィン様とナーサティア様のもとから離れて、
           本当に良かったのでしょうか」


          簡単に言えば、二人とも信頼している側近と離れてしまうのだ。
          不便でないはずがないし、まして、(考えたくはないが)命を狙われる可能性もある。
          は、それが心配だった。















          「心配いりませんよ、牡丹殿。
           あの方は……あの方々は、そこまで愚かではないでしょうから」

          「エイカ殿……」

          「万が一何かあったとして、簡単に倒れるような方々ではないですしね」

          「……リブ殿」


          お二人のおっしゃる通りですね、と、も微かに笑顔を浮かべた。
          彼女の不安も、ようやく消え去ったようである。










          「そんなことより、もっと楽しい話をしませんか?」

          「それは同感ですね」


          正直なところあまり話の合う印象は持てない二人であったが、
          今回は何故か妙に意見が合っていた。

          ……しかしながら、仮にも自分たちが仕える主人についての話題を「そんなこと」呼ばわりするとは、
          怖いもの知らずであるというか何というか。


          ――いや、それくらいの心持ちでいなければ、むしろあの方々の側近は務まらないのかもしれない。
          はこっそりそんなことを考えた。















          「……ああ、そういえば二ノ姫の文にありましたが、
           中つ国ではもう桜が芽吹き始めているとのことですよ」

          「桜が……。 それは本当ですか、リブ殿」

          「はい」


          桜は好きな花だった。
          春を、感じられるから。

          哀しい出来事の、終わりを体現しているような気を起こすから……。







          「会合が終わり次第、花見をしてはいかがでしょう」

          「それもいいですね……
           ですが、エイカ殿からそういった提案がなされるとは、少し意外でした」


          がふと、そんなことを言う。
          リブも同じようなことを考えていたようで、言葉にはしないが、
          隣でこくこくと頷いていた。















          「……私もすっかり中つ国の女王陛下に毒されてしまったようです」


          宴やら花見やらの催し物が好きな人物、と言えば、彼女が真っ先に思い出される。
          だからなのか、エイカからはため息とともにそんな言葉が出た。

          ……実を言うと、女王陛下が宴を開きたいと言い出したのは、これが初めてではなかった。







          「けれど……楽しみですね」


          何度か両国合同で宴を開いたりしたが、何度やっても、飽きることはない。
          宴自体とても楽しいと思うし、それまでの準備だってやはり楽しい。

          そういった思いもあってか、は自然と笑顔になっていた。


          そんな彼女を見て、両脇に居る二人もつられて笑みをこぼす。















          「今回も楽しい宴にしましょう」

          「そのためには、きっちり働かないとなりませんね」

          「はい!」


          二人の言葉に、は勢いよく返事をした――……













































          ……――「っ……! ここは……」


          気づくと、見知らぬ場所に居た。

          ……見知らぬ場所の、はずなのに。
          何故か懐かしさを感じる。

          ここは、一体……



          ――いったい何がどうなって、自分は今この場所に居るのか。
          目を閉じて、記憶を手繰り寄せるかのように思い出す……。









          
――さんと会ってきて!――……















          「……!」


          そうだった。
          確か自分は、あの人の指示に従い、扉を開けてここに来たのだった。

          何故それを忘れていたのだろうか……
          …………否、何故今まで自分はあの回想の中に居たのだろうか。


          その疑問に答えてくれる者はない。
          しかしながら、いつまでも考え込んでいるわけにもいかない。

          そう思い始め、己と共に同じ扉を開けた人物を、まずは探そうとする。



          ――直後、近くの草陰から物音が聞こえた。
          何者かが居るのかと思い、警戒しながらその場所に近づく。
          すると、そこには居たのは……















          「「……あなたでしたか」」


          二人の声が、重なった。


          まさに今から探そうとしていた人物が現れたのだ。
          これで探す手間がはぶけた、と、
          扉を開けここにやって来たリブとエイカは、そう考えた。










          「まさか、扉を開けた直後に回想が始まるなんて」

          「あまりにも予想外の出来事ですよ」


          私たちに指示を出した者は、何を考えているのでしょうか。
          ため息をつきながら、エイカはそう言った。















          「気になることは山ほどありますが、とにかく、彼女を捜しましょう」

          「そうですね……と言いたいところですが、どうやらその必要はないようです」


          その言葉に首をかしげるリブだったが、エイカの示す方を見て、ようやく合点がいったようである。




















          「殿、こちらにおいででしたか」

          「こんな所で何をしていたのです」


          「リブ殿、エイカ殿……」


          エイカが示す方を辿った先に、の姿があった。
          そんな彼女の背中に、二人は声を掛ける。










          「とある日を、思い出していました」

          「とある日、ですか?」

          「はい」


          それは、中つ国と常世の国が友好を結び、良い関係を保って少ししたときのこと。
          両国合同で宴を開きたい、と、またかの女王陛下がおっしゃった。

          その宴は今回も中つ国で開かれることとなり、詳細を現地にて話し合う手はずとなった。
          そうしてその会合に出向くことになったのが、リブ、エイカ、の三人である。















          「もちろん、その宴もそれまでの準備もとても楽しかったのですが……
           私は、リブ殿やエイカ殿と中つ国に向かうあの道中が、とても楽しかったのです」


          他愛もない話をしながら、ただただ歩いているだけたったけれど。
          にとっては、とても尊いものだったのだ。







          「……最近では、私たち三人で共に行動する機会も減ってしまいましたので」


          忙しなくしているのは常世のためなのだし、とてもいいことなのだが。
          は、少し淋しいと思っていたようだ。















          「……ならば、また宴を開きませんか、と、中つ国の女王陛下に文を出しましょう」

          「え?」

          「それはいいですね。
           陛下からのご提案、ということにして頂かなければ、
           我々が中つ国まで出向く理由も作れませんから」

          「あ、あの……」


          二人の企みに戸惑いを隠せない
          そんな彼女に、二人は言う。














          「「ですから、また共に中つ国までの道を歩みましょう」」


          少し驚きながらも、は目の前に差し出された二つの手を迷わず取った。


















































追加メンバーへの指令:さんと会ってきて!




((あなたが望むならば、いくらでも共に歩むから))





























































          +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

            遙か十周年記念企画、追加メンバーのリブ&エイカVer.でした!いかがでしたか?

            リブはまあ、EDあるので追加メンバーにすることは決まっていたのですが、
            エイカはどうしようか正直ギリギリまで悩んでいました。
            でもあの立ち位置がすごく個人的に気になっているので(サティに対するものすごい忠誠心とか)
            今回メンバーに加えてみました。

            リブとエイカは共に側近?という共通点があったので、割とやりやすかったです。
            しかしながらゲーム中で二人が会話しているところは(たぶん)見たことがなくて、
            どういう風に会話するのかとか、どうやって呼び合うのかとかは解らなかったので割と曖昧です(え

            それと、今回はちょっと変わって、扉を開けたという描写はぼかしました。
            毎回同じじゃつまんないかな、と思いつつ撃沈……。

            ……ちなみに、二人が扉を開けた直後あの回想の中に入り込んでしまったのは、
            さんの中では、あの何気ないやり取りとかがとっても大切なものだったからです。
            彼女の回想の中に、二人が入り込んでしまったとかいう、そんな感じです。
            解りにくくてすみません……。


            とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
            追加メンバー色々とあれですが(?)、お楽しみ頂ければ幸いです^^
            宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!

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