〜真ん中の扉〜
真ん中の扉を開けた弁慶は、とある部屋に居た。
部屋に置いてあるものから考えて、どうやら自室のようだが。
「…………おや、あれは……」
窓ガラス越しに、の姿が見えた。
どうやら、は隣の邸――家に住んでいるようである。
その上、彼女の自室と弁慶の自室は共に出窓になっていて、
その窓を伝ってなんとか行き来も出来そうなほど近い。
よって、自室に居るの姿をここから確認することが出来たのだ。
「…………しかし、妙ですね」
弁慶がそう思ったのも、当然だ。
ガラス越しに見るの様子が、どこかいつもと違ったから。
彼女にだってもちろん悩みはあるだろうが、
あんな風に生気の抜けたような顔をしているのは珍しいのだ。
そんなの様子が気になった弁慶は、自室の窓を開け、
の部屋の窓をコンコンと叩いた。
「弁慶さん!」
その音にすぐ気がついたは、慌てて自室の窓を開ける。
ガラス越しに居たが、今は弁慶のすぐそばに居た。
「こんばんは、さん」
「あ、こ、こんばんは」
改めて挨拶をされて、何となくかしこまる。
弁慶につられて返す。
「こんなに夜は更けているのに、まだ休まないんですか?」
正直、弁慶には現代のこよみはよく解らないが、
昇っている月の位置から、既に遅い時間帯であることを予測していた。
だから、そんなことを口にしたのだった。
「あ、あの……何だか、眠れなくて」
そんな弁慶の問いに、素直に答える。
弁慶は、嘘をついてもすぐに見破ってしまう相手だから、
は初めから素直に答えたようである。
「そう、ですか」
本当は、前々からが悩んでいたことに気付いていた弁慶。
だが、初めは彼女のことを信用していなかったこともあり、
相談に乗るなんてこともしなかった。
とにかく、ここで言いたいのは、
は悩んでいるときは顔にしっかり出るということ。
しかし、現在はそれすらもない。
先ほども感じたように、生気の抜けたような表情をしている。
「迷っているんですか?」
「え、」
弁慶のその問いは、唐突だった。
だが、にとっては、的確な問いだったようである。
生気の抜けたような表情に、少し、変化が生じた。
「何をすれば自分の望む道に進めるのか、どうすればいいのか、
迷っているのではありませんか?」
この世界での弁慶とは、あくまで「幼馴染」という間柄。
普段とは置かれた立場も何もかも違うというのに、
普段の彼女に言いそうなことを、弁慶は口にした。
一方では、図星をつかれてしまい、何も言えないでいる。
「弁慶さんは……」
「はい」
「どうして、解るんですか?」
いつも、あたしの考えていることを言い当ててますよね。
は続けてそう言った。
そんな彼女の言葉に一瞬目を丸くした弁慶だが、すぐいつもの笑顔に戻る。
「さあ、何故でしょうね……
僕が、いつも君のことを目で追っているからでしょうか」
君は、見ていて飽きない人だから。
だから僕は、こんなにも惹かれている。
弁慶のその言葉で、顔を真っ赤にする。
「な、何言ってるんですか!」
からかわないでください、と、は語尾を強くして言った。
だが、それが恥ずかしいのを紛らわせる策だということを、弁慶は知っている。
「はい、すみません」
彼女の機嫌が損なわれないように、一応はそんな言葉を口にする。
「うそ! 口では謝ってても、顔が楽しそうなままです」
未だ楽しそうにする弁慶を見たは、そんなことを言う。
だが、先ほどまでの生気の抜けたような彼女は、
いつの間にか居なくなっていた。
今はもう、いつのもようにくるくる表情を変えている。
…………どうやら、もう心配はないようですね。
二月生まれへの指令:幼馴染になりきれ
(あなたはやはり 笑顔が一番似合っている)
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遙か十周年記念企画、二月の弁慶さんVer.でした!いかがでしたか?
マジで弁慶さんが好きすぎます!ただい今、弁様ブームv
キャラソンも全部いいですよね。最高。
近々長編を書こうと構想を練っております^^
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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