〜左の扉〜
「……ここ、どこかの家の玄関かな?」
だが、一体どこの家の玄関だろうか。そう思った詩紋が立ちすくんでいると。
「ああ、詩紋くん!おはよう。
ったら、まだ寝てるみたいで……
悪いんだけど、起こしてきてくれないかしら?」
「あ、はい」
その女性の言葉で、詩紋は何となく状況を把握した。
どうやらここはの家で、この女性はのお母さん。
自分は幼馴染で、おそらくはを迎えに来たのだろう。
制服を着ているから、一緒に学校に行くということだろうか。
詩紋はそこまで考えて、ひとまず、
の母親に頼まれたこともありを起こすことにした。
「ここかな」
階段を上って二階に行くと、の部屋はすぐに解った。
ドアに「の部屋」と書かれたプレートがかけてあったからだ。
まずは、ドアをノックして声を掛けてみよう。
そう思った詩紋は、その通りの行動に出る。
「さん、おはよう。
もうそろそろ起きないと、遅刻しちゃうよ」
先ほどこの家の玄関にあった時計を見たら、もう7時半くらいだった。
今から家を出れば十分間に合う時間だが、実際はそうではない。
はこれから身支度を済ませ、朝食もとるのだ。
そろそろ起きなくては本当に遅刻になってしまう。
そんな詩紋の心配もよそに、が起きる気配はない。
もしかしてもう部屋に居ないのではないか、とも思ったが、
耳をすませると微かな寝息が聞こえる。
やはり、は未だ眠っているようだ。ならば早く起こさねば。
詩紋は、もう一度ノックをしてみた。
「さん、朝だよ。
そろそろ起きないと、本当に遅刻だよ」
だが、やはりが起きてくる気配はない。
詩紋はどうしたものかと迷ったが、このままが遅刻するのを見過ごすわけにもいかない。
断っていないことに気が引けつつも、その扉を開けて部屋の中へ入ることにした。
「さん?」
ベッドのそばまで近寄ってみるが、は未だすやすやと眠っている。
よほど深い眠りについているようだ、と詩紋は思った。
「さん、起きて!」
少し声を大きくして、詩紋はの身体をゆすった。
「ん〜、誰……?お母さん……?」
そこでやっとがうっすら目を開けたのであった。
だが、詩紋を母と間違えている様子。
どうやら、まだ寝ぼけているようだ……。
「僕だよ、さん!
もう起きないと遅刻しちゃうよ!」
必死になっての意識を覚醒させようとする詩紋。
そして、その努力もやっと報われたようだ。
が、大きな目を見開いてさらに大きくした。
「って、詩紋くん!?」
慌て出す。
そんな彼女を見て、ようやく起きてくれたのだとため息をつく詩紋。
「な、なんであたしの部屋に!?」
「さんのお母さんに、起こしてって頼まれたんだよ」
「あ、そ、そうなんだ……」
未だパニック状態のに、詩紋は続ける。
「とにかく、早く着替えて朝ごはん食べないと遅刻しちゃうよ?」
「え、嘘っ……って、本当だ!
もう絶対に遅刻だよ!!」
支度に平均より長い時間を要するは、時計を見、青い顔になって叫んだ。
「大丈夫だよ、さん。僕も待ってるから」
「で、でも!それだと詩紋くんも遅刻になるよ」
申し訳ないと言うだが、詩紋も譲らない。
「そんなに気にしないで。
それに、一人より二人で遅刻した方が怖くないよね」
そんなことを言ってのけた詩紋に、は何も言い返せなかった。
何故ならば、は知っているから。
この笑顔を見せるときの詩紋が、実は頑固だということを。
「……じゃ、じゃあ、なるべく早く用意するから、待っててね」
「うん、待ってるよ。
あなたのことを待つ時間なら、全然苦じゃないから」
むしろ、楽しいかな。
詩紋が続けてそう言うと、は顔を真っ赤にして慌てた。
「じゃ、じゃあ、着替えるから詩紋くんは下に行ってて!」
「うん」
そんなを見ておかしそうに、でもどこか嬉しそうに返事をし、
詩紋は階段を下りていった。
二月生まれへの指令:幼馴染になりきれ
(こんな生活をしばらく続けられるなんて 嬉しいな)
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遙か十周年記念企画、二月の詩紋くんVer.でした!いかがでしたか?
詩紋くんも初書きなのですが、もともとキャラソンも
割と聴いていたので、イメージ掴みやすかったです。
可愛いですよねー、詩紋くんv個別ドリも書きたいです。
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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