〜左の扉〜
左の扉を開けた彰紋は、何処か部屋の中のような場所に居た。
どうしたものかと考え始めたとき、カラン、という音がして
目の前にあった扉が開かれた。
「あ、彰紋くん!」
「さん!」
入ってきたのは、であった。
そういえば、管理人はをもてなすように言っていた。
ということは、この場所でもてなせということだろうか……。
「ねぇ、彰紋くん。どこか、座ってもいいかな?」
店に入って立ちっぱなしというのも、やはりおかしな話である。
そう思ったは、そんなことを言った。
「は、はい!もちろんです。ご案内しますね」
このような場所に、を立たせたままというのも申し訳ない。
彰紋は、急いでを席まで案内した。
しかしながら、をどうもてなせばよいのだろうか。
現代に不慣れな彰紋は、迷っていた。
そんな彰紋の様子を察したらしいは、席にあったメニューを取り、言った。
「ねぇ、彰紋くん。この苺のケーキをもらってもいいかな?」
「え、あ……けえき、ですか?」
「うん、そう。それと、一緒にお茶もください。
お店の奥に行って、苺のケーキとお茶一つずつ、って言えば
用意してくれると思うよ」
戸惑う彰紋に対し、丁寧に教える。
喫茶店でバイトをした経験はないようだが、現代のことだからか、
ある程度のことは把握しているようだ。
「解りました……少々お待ち下さい、さん」
「うん!」
自分が頼りなくて、情けない。
そうも考えた彰紋であったが、が笑ってくれるなら。
今はあまり気にしないようにしよう、と思った。
「とにかく、さんがおっしゃっていた
苺のけえき、というものとお茶をお持ちしないと……ですよね」
そんなことを言いながら、彰紋は店の奥に急いだ。
「お待たせしました」
数分後、が頼んだ苺のケーキとお茶が運ばれてきた。
それを見たとたん、の表情が明るくなる。
「わあ、おいしそう!」
嬉しそうにケーキを見つめるを見て、彰紋も何だか嬉しくなる。
「どうぞ、召し上がってください」
「うん、いただきます!」
彰紋の言葉に頷き、フォークを手に取る。
「……うん、やっぱりおいしい!」
「ふふ、良かったですね、さん」
「うん!」
いつも、周りの人間に必要な言葉をかけてくれる。
自分ももちろん、神子である花梨にとっても、大きな存在だ。
また、彰紋にとっては、彼女は姉のような存在でもあった。
一歩下がって自分を見守ってくれるような、そんな彼女。
しかしながら、やはりこの人のことを愛しいと想う気持ちもある。
いつも笑っていてほしいし、つらいときは自分を頼ってほしい。
そのためには、もっと頼りがいのある存在にならなくては。
彰紋は、常々そんなことを考えていた。
「……あ、さん、お茶のおかわりはいかがですか?」
ふと、の前にあるグラスに目を向けると。
先ほど持ってきたお茶がカラになっていた。
「あ、うん、お願いしようかな」
なんだかおいしくて、もう全部飲んじゃった。
悪戯っぽく言うがなんとなく自然体のように思えて、彰紋は嬉しかった。
いつも自分たちを見守ってくれている彼女だけど。
彼女が、安らげる時間はあるのだろうか。
彼女が、気を張らずに自然体でいられる時間はあるのだろうか。
それは、彰紋にとって気がかりなことであったが。
どうやら今は、このゆったりとした時間を楽しんでいるようだ。
「どうぞ、さん」
「ありがとう!」
がお礼を言うと、彰紋はふわりと微笑んだ。
「……? 何か面白かった?」
そんな彰紋の表情に気付いた。
疑問に思い、聞いてみた。
「いいえ……ただ、さんが幸せそうだな、と思ったんです」
「え、あ……うん、あたしは幸せだよ?」
さも当たり前かのようにが言うので、何だか彰紋はおかしくなってしまった。
「彰紋くんがこうして一緒にいてくれて、
大好きなケーキを食べられて、おいしいお茶も飲める。
こんなに幸せなことって、きっとないよね」
「……!」
ああ、やはりこの人の言葉は、いつも大切なことを教えてくれる。
この人に頼ってもらうためには、まだまだ長い道のりが待っているようだ。
そんなことを考えつつも、彰紋はまた微笑むのであった。
三月生まれへの指令:ウェイターになりきれ
(やはり しばらくあなたには敵わないですね)
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遙か十周年記念企画、三月の彰紋くんVer.でした!いかがでしたか?
実は彰紋くんも好きなんですよねー!てか地朱雀が好きv
しかも東宮様ですしね…結婚したらかなり偉いですよ^^
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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