〜そのまた隣の扉〜
「へえ……ここが学校って場所か」
扉を開けた先へと進んだヒノエは、何か考え込むでもなくすぐに歩き出した。
それほど初めてやって来た異世界に、とても興味を示しているようである。
「あっ、ヒノエ先生、発見!」
「どこどこ!?」
「あっちよ!!」
何やら向こうの方からバタバタと足音が聞こえてくる。
どうかしたのかと思ったヒノエがそちらを振り返ると、
女子生徒数人が近づいてきた。
「ヒノエ先生、やっと見つけたよ!」
「全く、肝心なときに居ないんだから」
「どうかしたのかい?」
よく状況が理解できないヒノエであったが、やはりそこは冷静な彼である。
どういった状況なのか、自然に聞き出す。
「それが!先生が、弁慶先生に呼び出されたのよ!」
「弁慶がを……?」
そもそも、あの弁慶までもが教師なのか。
あの男とも同僚だなんて、考えたくもない。
一瞬そんなことを考えたヒノエであったが、ひとまずそれは忘れることにした。
「弁慶先生って、うちら生徒の中では先生を狙ってるって
すっごい噂なんだよ!」
「先生も他の先生よりは弁慶先生に対して親しげだし、
ヒノエ先生、早くした方がいいんじゃないの?」
「そうそう、早くしないと弁慶先生に取られちゃうよ!」
それはかなりまずい。
そう思ったヒノエだったが、そこであることに気付く。
「…………ちょっと待った。
姫君たち、どうして俺にそんなこと言うんだい?」
確かに、自分はを本気で想っているが。
それを周りに悟られるような真似は、していないはずなのに。
「どうして、って……ねぇ?」
「うん、そうそう」
「ヒノエ先生って、先生のこと好きなんでしょ?」
はずなのに、と思っていたのだが、どうやらそれは誤りだったようだ。
女子生徒たちには、ヒノエの気持ちはお見通しなのである。
「他にも知ってる子、けっこう居るよね?」
「うん、隣のクラスの子も知ってるよ」
「ヒノエ先生ってそういうのうまく隠しそうな感じなのに、
けっこう解りやすいよねー」
あははと笑っている女子生徒たちの前で、ほんの少し落ち込むヒノエ。
だが、それどころではないことをすぐに思い出した。
「……で、が弁慶に呼び出されたんだよな?」
「うん、そうそう」
「中庭に行くって言ってたよ」
「解った、ありがとな」
女子生徒たちに礼を言って、ヒノエは中庭へと急いだ。
「あ、ヒノエ先生!
先生なら中庭の向こうの方に居たぜ」
「おう、ありがとな」
今しがた通りすがった男子生徒が、そんな情報をヒノエに伝える。
その時点でこの男子生徒にもヒノエの気持ちが知られていることになるのだが、
を捜すのに夢中だったヒノエは、珍しく気付けなかった。
「!」
男子生徒が教えてくれた通りの場所に、は居た。
どうやら、既に弁慶は去った後のようである。
「ちょっと、ヒノエ先生!
大声でそんな呼び方しちゃ駄目だって!」
名前を呼び捨てにしたヒノエに、焦ったようにが言った。
だが、ヒノエはそんなことはおかまいなしである。
「なあ、。ここで弁慶と何してたんだ?」
「え?えーっと……」
ヒノエの問いに対し、どこか答えにくそうにする。
まさか、弁慶がを狙っているという生徒たちの話は、本当だったのか……
ヒノエがそんなことを考え始めたとき、が口を開いた。
「あ、あのね、弁慶先生がさっき……」
『今日のヒノエの寝ぐせ、直ってませんよね。面白いと思いませんか、さん』
「…………って言ってきたの」
「はあ?」
弁慶とが交わした話が予想だにしなかったものであったため、
ヒノエは珍しくも間の抜けた声を出してしまった。
「あたしは、ヒノエだってそういうときもありますよ、って
ちゃんと弁慶さんに言ったんだよ?
なのに、弁慶さんったらずっと笑っててさ」
ほんと、あの人もときどき子どもっぽいよね、とは続けた。
…………全く、弁慶がを呼び出したって聞いたから焦って来てみれば。
まさか、そんな会話がなされていただなんて。
ヒノエは、どっと疲れたような気がした。
「ま、この話はここまでにしてさ。
ヒノエ、お昼まだでしょ?」
「あ、ああ」
「じゃあ、ちょうどよかった!
あたしうちのクラスの生徒たちと食べるんだけど、ヒノエも一緒に食堂行こうよ」
「…………そうだね」
どっと疲れは出たが、まあ、と一緒に居られるならいいか。
普段から前向きなヒノエは、すぐさま頭を切り替えた。
「ヒノエ先生、どんまい!」
「私たちは味方だからね!」
……食堂に向かう途中、先ほど情報をくれた生徒や
その他の生徒たちにも、同じようなことを言われたヒノエであった。
四月生まれへの指令:高校教師になりきれ
(まだまだ時間はたっぷりあるからね 焦らないでいくよ)
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遙か十周年記念企画、四月のヒノエVer.でした!いかがでしたか?
ヒノエだってほんとは好きなんだよ!公表しないだけ。
ゲームやってると「こいつほんとなんでこんなにいい男なんだ?」
といつの間にかつぶやいています。ハイ。
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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