〜その隣の扉〜
その隣の扉を開けた勝真は、見慣れぬ場所に来ていた。
ここが管理人の言っていた学校という場所であろうが、
一体これからどうすればいいのだろうか。
「……まあ、ぼーっと突っ立ってても仕方ないしな」
そう言いながら、勝真はとりあえず歩き出したのであった。
「……ん?」
勝真がしばらく歩いていると、窓ごしにを姿を見つけた。
椅子に座って休憩しているようだが、何か様子がおかしい。
「…………泣きそう、だな」
そう、がどこか泣きそうに見えたのだ。
「どうして、なんてここで考えていたって仕方ない」
とにかく、のところへ行ってみよう。
勝真は、少し足を速めた。
「何してるんだ?」
「か、勝真さん……
って、学校でこの呼び名は駄目なんだった!」
しまったという顔をするだが、
この場所には、二人以外は誰も居ない。
「他に誰も居ないんだから、そこまで気にしなくてもいいだろ?」
「それでいいんでしょうか?」
「いいんだよ」
細かいことは気にするな、と勝真は続けた。
「それより、……お前、何かあったのか?」
「え……な、なんでですか?」
「なんとなく、な」
本当は、「なんとなく」ではない。
先ほどのの、泣きそうな表情が気になったから。
だが、勝真はそれを口にはしなかった。
「俺に話せることなら話してみろよ」
「でも……」
「なんだ、話せないことなのか?」
「そういうわけでもないんですが……」
いまいち煮え切らない答えを返す。
だが、最近の扱いを覚えてきた勝真は、ここで焦ったりしない。
「……そうだ、お前に渡すものがあったんだ」
「何ですか?」
勝真の言葉に、は興味津々になる。
そんな彼女の姿を微笑ましく思いつつ、勝真はあるものを取り出した。
「……お饅頭?」
「ああ。さっき、ここに来る途中で千歳と会ってな。
なんかの土産らしくて、お前に渡せって頼まれたんだ」
校内を歩いてきた勝真は、偶然にも妹の千歳と遭遇していた。
状況からするに千歳も教師をしているようだが、
その辺に関してはあまり深くはつっこまなかった。
そのとき千歳は何かで急いでいたようで、
に渡すつもりのお土産の饅頭を、勝真に預けたのである。
「へぇ〜、おいしそうなお饅頭ですね」
「そうだろ?
けど、何か気になることがあるのに食べても、
あんまりおいしくなさそうだよな」
「うっ……」
それを聞いて、言葉につまる。
勝真はさらに続ける。
「気になってることがあるんなら、話した方が楽だろ?
そうすればいい気分で饅頭も食べられるしな」
「それはそうかもしれませんけど……」
未だに話そうとしないであるが、先ほどよりは頑なではない。
勝真の作戦に、はまりつつあるようだ。
「…………笑わないでくださいね?」
「ああ、約束する」
そして、とうとう彼女は見事勝真の作戦にはまったようだ。
「ちょっと用があって……
昨日うちのクラスの生徒のお母さんと、お話したんです」
「へえ……で、そこで何か言われたのか?」
「そのお母さんが、勝真さんのことカッコいいって言ったんです」
「…………は?」
何か嫌味でも言われたのかと思い、構えた勝真であったが。
想像していなかったことを言われたので、間の抜けた声を出してしまった。
「『は?』じゃないですよ!
そのお母さんの話によれば、勝真さん好きなお母さんが多数で、
勝真さんを狙ってる先生もいるらしいし!」
さっきまでとはうって変わって、勢いで話を続ける。
「この学校は独身の先生もたくさんいるし、
あたしだって気が気じゃないんですよ!!」
言い切ったは、息切れをしていた。
…………つまり、これは。
が焼きもちを焼いてくれたということだろうか。
それが解った勝真は嬉しく思ったが、
少し気恥ずかしくて、それを前面に出せない。
「…………まあ、言わせておけばいいだろ」
「でも!」
納得がいかない様子のに、勝真は続けて言った。
「俺が気にしてるのは、お前だけだからな」
その言葉を聞いたは、顔を真っ赤にしてしまった。
四月生まれへの指令:高校教師になりきれ
(俺の心には いつだってお前だけがいるから)
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遙か十周年記念企画、四月の勝真さんVer.でした!いかがでしたか?
前々から宣言している通り、2で一番な勝真さんv
あの悩みまくっているけどやるときはやる勝真さんが
格好よすぎて好きです。らぶ!私が諭したい人。(何
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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