〜右の扉〜










          右の扉を開けた敦盛と朔は、当然のことながら、
          見覚えのない場所に立っていた。










          「ここが食堂、という場所なのだろうか」

          「ええ、そうだと思うわ」



          状況を確認しようと辺りを見回す二人。
          そんなとき、朔があることに気付いた。















          「……?」



          その言葉で敦盛も朔が見ている方に視線を向ける。
          するとそこには、食堂の引き戸を少しだけ開けて
          そこから顔をのぞかせているの姿があった。










          「入ってもいい?」

          「え、ええ、もちろんよ。ねえ、敦盛殿?」

          「ああ、あなたの願いを断るなどありえない」

          「ありがとう!」



          そう言いつつ、今度は引き戸を完全に開けてが店の中へ入ってきた。















          「表にある札は一応『営業中』ってなってたんだけど、
           お客さんが入ってる感じがしなかったからさ」



          だからまだ準備中なのかと思い、は中の様子をのぞいていたという。










          「ま、その話は置いといて……
           あたしお腹すいちゃったんだ。頼んでもいい?」

          「ええ、どうぞ」

          「やった!
           じゃあ……生姜焼きにする!」



          嬉しそうに言ったの言葉を受け、
          朔はカウンターの向こうにある調理場に向かう。















          「敦盛殿も行きましょう」

          「え、わ、私もなのか……?」

          「そうよ。あの人は殿方に料理をしてもらうと言っていたのだから、
           敦盛殿にも手伝って頂かないと」



          管理人の言葉を覚えていた朔は、小声でそんなことを言う。
          少々心配になった敦盛であるが、のためでもあるし、
          自分なりにやってみようという考えに至った。



















          「ねぇ、敦盛、朔……今あたしたちは戦の中に置かれてるけどさ、
           たまにはこういう時があってもいいよね」



          が唐突にそんなことを言った。
          扉を開けた先にあったこの世界と、
          自分たちがいた世界は、どこかで繋がっているのだろうか。





          そんなことを考えた朔であったが、ここはあえて気にしないことにした。















          「……そうね、たまにはみんなでのんびりするのも、いいかもしれないわね」



          そうして、に賛同する言葉を口にする。















          「殿は……何か、気になることがあるのだろうか?」

          「え?」

          「あ、いや……すまない、妙なことを言ってしまって。
           だが、何かいつものあなたと違うような気がして……」



          敦盛のその言葉に目を見開く
          しかし、その後すぐにいつもの笑顔に戻った。










          「さすが敦盛!
           隠しきれていないとは、あたしもまだまだだなぁ」



          は、冗談めかしたようにそんなことを言った。
          そんな彼女に、朔がためらいがちに声を掛ける。













          「……何か悩んでいるの?
           敦盛殿も気にしているみたいだし、私もいるのだから
           何かあるならいつでも相談してくれると嬉しいわ」

          「うん……」



          朔の言葉を受けたは、少し間を空けて話し出した。



















          「別に悩みってほどでもないんだけどね」

          「ええ」

          「未来を知っているのに、やっぱり変えられないことってたくさんある。
           それは今までだってずっと感じてきたことで」



          ……そうだ。
          は、あの世界の行く末を知っている。
          だからこそ対処できたことだってたくさんあったが、
          それでもなお変えられないことも同じくらいあった。





          そのことでが哀しんでいるということは、
          既に周りにいる全員が知っている。
          だが、本人は、それを悟られぬよう振舞っているのだが。















          「でも……出来れば、あたしの知っている未来を、みんなに話したくない。
           あたしは、あたしの手で未来を創っていきたいし、
           みんなの未来はみんなの手で創っていってほしいから」



          自分の知っている未来に捕らわれてほしくないのだと、は最後に言った。




















          「殿、私はあなたにかける最良の言葉が何か解らないが……
           その想いは、きっと皆に届いていると思う」

          「……そうね。きっと、みんな解ってくれているわ」

          「敦盛……朔……」



          思いがけず掛けられた二人の言葉に、は一瞬泣きそうになったが
          なんとかこらえることが出来た。















          「ありがとう、二人とも……」



          そう言ったが、一呼吸置いて続ける。














          「あたし、頑張るよ!二人や望美ちゃん、
           他の八葉のみんなと一緒に頑張るから!」



          だから……だから、いつかあの世界が平和になったら。
          今度はあたしも一緒にみんなでご飯作って、楽しく食べようね。















          のその言葉を聞き、敦盛と朔は微笑んだ。








































五月生まれへの指令:食堂の店員になりきれ






(いつも皆を笑顔で支えてくれるあなただから)



(だから私たちも あなたへの協力は惜しまないわ)








































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            遙か十周年記念企画、五月の敦盛&朔Ver.でした!いかがでしたか?
            二人はほんと、癒しキャラですよね……いろんな意味で。
            敦盛は唯一の常識人だし、朔は頼れるお姉さんって感じだし!

            やっぱ3が好きだ…!
            二人ともけっこう哀しい過去を抱えているので
            ルート進んでいるときは、切なかったですね……。
            早く3の長編も書いてみたいです!

            とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
            人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
            宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!

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