〜左の扉〜










          「…………なんだ、ここは」



          左の扉を開けたセフルは、食堂に立っていた。
          だが、その見慣れぬ場所に対し違和感もあって、
          なんとなく不機嫌になっているようだ。















          「確か、ここであの女に接客する、と言っていたな」



          管理人の言葉を思い出すセフル。
          しかしながら、その場にの姿はない。










          「フン、当の本人がいなければ、接客も何もないだろう」



          今しがた開いた扉を、セフルがもう一度開けようとしたとき。
          先に食堂の引き戸がガラガラと音を立てて開けられた。















          「……あれ?セフル?」

          「お前は……」



          引き戸を開けて食堂に入ってきたのは、いわずもがな、
          今回接客するという相手・だった。
          の唐突な登場に、セフルはなんとなく身構えている。










          「どうしたの?珍しく店番なんて」

          「なっ……僕を馬鹿にしているのか」

          「そういうわけじゃないけどさ。
           でも、いつもお館様お館様って言ってばっかりなのに」



          馬鹿にしていないというだが、セフルにしてみれば、
          その口調が気に入らないのだった。
          しかしながら、が本気で自分を馬鹿にしていないことも
          セフルは理解していたりする。




















          「お客様、申し訳ありませんが今日は……」



          話をしていたとセフルのもとに、
          店の奥から出てきたイクティダールが言葉をかけようとしたのだが、
          彼はの顔を見て言葉を止めた。



















          「……失礼、殿だったか」

          「こんばんは、イクティダールさん。
           もしかして今日はもう店仕舞いでしたか?」



          先ほどのイクティダールの言葉を受け、はそんなことを言う。
          だが、イクティダールはそれを否定した。










          「今日は早めに店仕舞いすることになったのだが、
           あなたならば断るのも気が引ける。何か用意してこよう」

          「やった!ありがとうございます」



          イクティダールの言葉で喜ぶ
          そんな彼女を見て少し笑みを浮かべたあと、
          イクティダールは再び店の奥に消えていった。


















          「じゃあ、イクティダールさんが戻ってくるまで話相手になってよ、セフル」

          「なんで僕が……」



          そこまで口を開いて、セフルは言葉を止める。
          扉を開ける直前、管理人に再三言われたことを思い出したのだ。










          確か、ここでの役目を果たさないと
          元の世界には戻れないと言っていたな……。





          少し面倒だと思ったセフルであったが、
          元の世界に戻れないのでは困ったものだ。
          そういうわけで、仕方なくを相手をすることにした。















          「…………」

          「無言ってことは、了解ってこと?」

          「…………好きにしろ」

          「やった!」



          セフルの言葉で笑顔になる
          話相手になってやると言っただけでこのように喜ぶとは、
          やはりこの女は不思議な人間だ。





          いつも感じていることを、セフルはまたここでも考えるのであった。




















          「ねぇ、セフル」

          「…………なんだよ」

          「セフルはさ、あたしたち……
           龍神の神子や八葉たちと、仲良くする気はないの?」

          「は……?」



          のその唐突な、それでいて全く予想外の言葉を聞いて、
          セフルははからずも間の抜けた声を出してしまう。





          龍神の神子や八葉たちと、僕が仲良く……?















          「……フン、そんなことあるわけないだろう」

          「そっか……うん、そうだよね…………」



          困ったような笑みを浮かべてそう言っただが、
          みるみるうちに哀しそうな表情に変わっていった。





          な、なんだ、僕が悪いのか……?










          そんなを見て慌てふためくセフル。
          何を言えばいいのかも解らず、目を泳がせたりしている。




















          「セフル」



          そんなとき、店の奥からセフルを呼ぶ声がした。
          先ほど何か用意すると言って調理場に引っ込んだイクティダールである。















          「セフル、イクティダールさんが呼んでる」

          「わ、解ってる!」



          もちろんイクティダールの声はセフルにも聞こえていたが、
          をこのまま放っておいてよいのか迷っていたため
          その声に対する応答が遅れてしまったのだ。





          だが、当のに言われてしまっては仕方がない。
          とにかく、セフルはいったんイクティダールのいる
          店の奥に行ってみることにした。




















          「これを殿に出してきてくれないか」



          イクティダールはそう言って、
          綺麗に盛り付けられたチャーハンをセフルに差し出す。
          セフルが無言のまま受け取ると、続けてこう言った。










          「セフル、たまには素直になることも大切なのではないか」

          「……何言ってるんだよ」

          「殿が歩み寄ってくれているのに、
           それを邪険にするのはどうかと言っているのだ」

          「なっ……!」



          イクティダールの言わんとしていることがなんとなく解ったのか、
          セフルは顔を真っ赤にして怒り出す。















          「お前には関係ないだろ!」



          そう言い放ち、セフルはチャーハンを持って調理場から出た。




















          「なんか怒ってたみたいだけど……何かあった?」

          「…………別に、なんでもない」



          が心配そうに声を掛けるが、セフルは詳しく話そうとしない。
          これ以上聞いても良くないな、と悟ったは、追究することを諦めた。















          「……とにかく!余計なことは考えずに今はこれを食べろ!!」



          セフルはそう叫んで、持っていたチャーハンとドンッとテーブルに置いた。
          その行動に一瞬驚いて目を見開いたであったが、すぐに笑顔になって言った。










          「うん、ありがとう」





          本人は気付いてないが、セフルもつられて笑顔になっていた。


































五月生まれへの指令:食堂の店員になりきれ






(だいたい、その指令っていうのがよく解らないんだよ!)







































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            遙か十周年記念企画、五月のセフルVer.でした!いかがでしたか?
            セフルも個別ルートがあればいいのにね……なんて思います。
            詩紋くんとの絡みだけじゃ、もったいないよね。

            しかしながらセフルは初書きの上に久しくゲームしてないので
            よく解らなくてゲストでイクティダールさんが^^
            お父さんのようになってしまった(笑)
            
            とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
            人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
            宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!

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