〜左の扉〜










          「ここが神子様の世界でしょうか?」

          「おそらくは、ね。
           しかし、着物と同じで妙に窮屈な場所だね」



          藤姫と友雅が左の扉を開けると、その先は会社のオフィスであった。
          二人はもちろんのこと、もこのオフィスで働いていることになっている。















          「それで、確かと共に仕事をするんだったね?」

          「ええ、あの方はそのようにおっしゃっておりましたが……」



          管理人の言葉を思い出しながら藤姫はそう答えたが、
          見たところの姿はどこにもない。










          「様はどちらにいらっしゃるのでしょうか、友雅殿」

          「さあね……だが、あまり無闇に探し回るのも良くない。
           しばらくここで待ってみるのが、今は妥当なところだろうね」



          いつもなら「もう少しやる気を出してください」と言う藤姫だが、
          ここは扉の向こう――初めてやってきた現代の世界。
          勝手が解らないところからして、
          ここは友雅の意見に従うのが吉と考えた。















          「それでは、少々こちらで様をお待ちしましょう」



          藤姫がそう言い終えた直後、バタバタと足音のようなものが聞こえた。










          「今の音は……」



          今度は言い終えぬうちに、オフィスの扉が開かれた。



















          「友雅さん、いる!?」



          扉を開けて勢いよく入ってきたのは、
          先ほどから二人が捜していた・その人である。
          はここまで走ってきたらしく、少し息が乱れていた。















          「私ならここに居るよ、殿。何か御用かな」



          と反対に、のんびりとした口調で友雅が答える。
          すると、が二人に近づきながら説明を始めた。










          「それがね、新たに取引先になりそうな会社のお偉方が
           急きょウチに来ることになって……
           商談ってほどでもないんだけど、
           社長であるあかねと話したいんだって」

          「まあ……」



          「社長」というものについては解らなかったものの、
          の様子からして何か慌しい事態になっているということは
          藤姫も察したらしい。















          「ここで上手く友好関係を築ければ、取引にも繋がるからって
           あかねはすごくはりきってるんだけど……」



          あかね一人に任せるのはちょっと心配だ、とは続けた。










          「そうですわね……神子様なら心配ないと思いますが、
           お一人でそのような役を背負われるのは大変ですわ」



          藤姫は、とはまた別の心配をしているようである。




















          「う、うん、まあね。
           ……で、友雅さんの出番なんだけど」

          「私の?」

          「はい。
           そのお偉方っていうのが、全員女性なんですよ」



          その会社は社員のほとんどを女性で構成しているらしく、
          今回やって来るお偉方というのも、例により女性なのだという。










          「相手が男だったらあかねでも大丈夫だと思うんですけど、
           女性となるとちょっと心配で……
           それで、友雅さんの出番なわけです」

          「なるほどね」



          なんとなく状況を理解したらしい友雅が頷く。




















          「で、友雅さん……あかねと一緒に、そのお偉方と会ってもらえます?」

          「どうしようかな……」

          「気は乗らないかと思いますが、お願いします!」



          迷っている仕草を見せる友雅に対し、頭を下げて必死に頼み込む
          そんな彼女の姿を見てふっと笑った友雅は、少し間を空けて答えた。










          「いいよ、私も参加しよう」

          「わあ、ありがとうございます!」



          そんな友雅の言葉に、ぱあっと笑顔になって答える















          「初めから素直にお受けすればいいのですよ、友雅殿。
           それでは意地が悪いですわ」

          「はは、これは失礼」



          友雅の気まぐれな態度を、いつものように叱り付ける藤姫。
          そのやり取りに少々和んだであったが、
          再び仕事のときの顔つきに戻る。















          「とりあえず、そのお偉方がもうすぐ来るから
           友雅さんはあかねと一緒に会議室で待機!
           藤姫は、人数分のお茶の用意をお願いできるかな?」

          「任せておきなさい」

          「かしこまりましたわ、様」



          そうして、すぐにそのお偉方を迎える準備が整った。

















































          「はぁ……良かった、うまくいって」

          「そうですわね」



          オフィス内にある休憩室にて、藤姫の淹れたお茶を飲む
          その隣には、今回の功労者である友雅が座っている。










          「一時はどうなることかと思ったけど……
           友雅さんと藤姫が居てくれて良かった」



          は、心からほっとしている様子で話している。
          そんな彼女を見て、二人も満足そうに微笑む。















          「君のお役に立てたなら何よりだよ。
           それに、言われるほど私は何もしていないしね」

          「そんなことないですよ!
           相手のお偉方、ずっと友雅さんに夢中だったじゃないですか」










          「あちらの方よりも、君に夢中になってほしいものだがね」



















          「……え?何か言いました?」

          「いいや、何も」



          友雅のつぶやきは、には届かなかったようだ。















          「藤姫も本当に、色々と走り回ってくれてありがとね」

          「いいえ、様。
           私もあなたのお役に立てて光栄ですわ」



          の言葉で、嬉しそうにする藤姫。
          そんな藤姫を見て、も微笑み返す。















          「さてと!
           明日から忙しくなりそうだけど、みんなで頑張ろうね!」

          「はい、様!」

          「まあ、無理のない程度でね」



































六月生まれへの指令:会社の同僚になりきれ





(私たち、きちんと使命を果たせたのですね)

(まあ、おそらくはね)








































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            遙か十周年記念企画、六月の藤姫&友雅さんVer.でした!
            いかがでしたか?
            二人のやり取りはけっこう好きなんですよね…
            10歳の女の子に叱られる少将っていうのがいいよね(笑)

            藤姫も可愛いし!
            いつか星の一族で共演させてみたいものですv

            とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
            人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
            宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!

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