〜左の扉〜










          左の扉を開けた永泉は、見慣れぬ場所に少々戸惑っていた。















          「ここは……」



          辺りを見回してみるが、どうやらここには自分しか居ないらしい。





          一体どうしたら……。















          「あっ、永泉さん、ここに居たんですね」



          焦り始めた永泉に声を掛けたのは、だった。
          どうやら、彼女は永泉を捜していたらしい。










          「殿……」

          「今日は、次の連載の相談をする予定でしたよね?
           さっそく始めましょう」

          「は、はい、そうですね」



          何が何だか解らない永泉であったが、ひとまずの指示に従うことにした。



































          「それで、次の連載についてなんですが……」



          あれからと色々話しているうちに、
          永泉はこの世界での自分の立場をなんとなく理解した。





          どうやら自分は定期的に発行している書物に物語を載せ、
          そこでその物語を展開させているようだ。



          そして、少し前まで書いていた物語を終え次に書く物語の相談をするため、
          自分の担当をしているが訪ねてきたという。















          「さて、どうしましょうか……
           前回は友情ものだったので、
           出来ればあまり似通っていない内容がオススメなんですが」

          「そ、そうですね……」



          次回作の相談、と言われても、永泉はもともと作家ではない。
          自分の作品であると言うが前作についても知らないわけだし、
          どうしたものかと悩み始めた。





          だが、管理人の話によればその辺は心配いらないとのこと。
          それを信じ、永泉も真剣に次回作について考える。










          「うーん、どんなのがいいですかね……」



          向かいの席に座っているも、一緒になって考え込んでいる。
          そんな彼女の様子を見て、永泉は思いついた。















          「あの……とある少女が、異なる世界に飛ばされてしまう、
           というのはどうでしょうか?」

          「異世界に飛ばされる……つまり、トリップですね」

          「は、はあ」



          トリップという言葉がよく解らなかった永泉であるが、
          どうやら自分の意見はに通じているようなので
          そこは気にしないことにした。










          「割と書かれる内容ですけど、
           そのネタで永泉さんが書く話、読んでみたいです!」



          きっと素敵な物語になるはず!と力説する
          そんな彼女を見て、永泉も微笑んだ。















          「でも、異世界って言っても色々ありますよね。
           どんな異世界にするとか、希望はありますか?」

          「ええ……平安の世に飛ばされる、という風にしたいのです」

          「なるほど、歴史をさかのぼる感じですね」



          なんだか和風な雰囲気でいいかも、とも永泉の意見に賛成する。
          続いて二人は、おおよその流れをどうするかという相談に入った。















          「……という流れで書きたいと思います」



          せっかくなら、殿の身に起きたことを書にしてみたい。





          そういった思いから、永泉はこのような次回作を提案し、
          流れもそのようにしたいとに説明したのであった。




















          「いいかもしれませんね!それで、永泉さん……
           最後はどうするか、だいたい決まっていますか?」



          完全に形にはなっていないとしても、
          少しは結末を考えておかないと進めづらくなるかもしれません。





          のその言葉に、永泉は言葉をつまらせた。















          「結末、ですか……」



          この物語は、の身に起きたことを書にしようと思ったもの。
          だが、の物語はまだ終わりを迎えてはいない。
          まだ、京も救われてはいない…………。





          そう考えると、一体結末はどうしたらよいのだろうか。
          永泉は悩み始めてしまった。




















          「永泉さん、あの……
           今すぐに結末を決めなくても大丈夫ですよ」



          あまりにも永泉が悩んでいるので、そんなことを口にした
          だが、結末をある程度決めておかなければ、ということも
          永泉はきちんと納得していた。










          「すみません、殿。
           もう少しで思いつきそうなのですが……」



          何かのどまで出掛かっているような感じなのに、それが出てこない。
          永泉は歯がゆく思った。


















          「……永泉さん、ちょっと出かけませんか?」

          「え?」



          の突然の申し出に、間の抜けた声を出してしまった永泉。
          わけが解らず黙っていると、がもう一度言った。










          「気分転換にもなりますし、ちょっと出かけませんか?」



          ああ、そうか。
          彼女は、自分を気遣ってそんなことを言ってくれたのだ。





          やっと彼女の言葉の意味を理解した永泉は、静かに頷いた。















          「ところで永泉さん、一つ聞いてもいいですか?」

          「はい」

          「この次回作……主人公は、異世界に飛ばされたこの女の子ですか?」



          にそう聞かれた永泉は、少し間を空けて答えた。















          「…………いいえ、その少女に恋をした僧です」







































七月生まれへの指令:作家になりきれ





(私はあなたに 恋をしているのです)








































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            遙か十周年記念企画、七月の永泉さんVer.でした!いかがでしたか?
            永泉さんはすごく真面目に仕事しそうなので
            こんな感じになりました……
            なんだか甘くないですね、文才なさすぎる自分……^^;
            
            実は、連載にある「牡丹の姫」という存在が生まれたのは
            永泉さんで長編を書きたいと思ったからです。
            結局ゲーム借りた関係で2から連載やってますけど…。

            とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
            人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
            宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!

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