〜右の扉〜










          右の扉を開けた譲は、見覚えのありすぎる場所に立っていた。



          ここは……















          「俺の家だ…………」



          そう、扉を開けた先は、もと居た世界の自分の家だったのだ。
          一体何が来るのかと構えていた譲は、少しばかり拍子抜けしてしまう。










          「……まあ、全然知らない場所よりはいいよな」



          とにかく、まずはさんを捜さないと。





          そう思い、行動を開始しようとした譲だが。















          「こんにちはー!」















          家の玄関の方から誰かの声が聞こえたため、動きを止める。



          この声からして、そこに居るのは…………




















          「こんにちは、さん」

          「良かった、家に居てくれたんだね、譲!」



          譲の予想通り、そこに居たのはだった。
          どうやらアポなしで訪ねてきたらしく、譲の姿を見てほっとしている。










          「こないだ最終回まで書いて、話が完結したでしょ?
           それで次の作品を書いてほしいって言われてるんだけど……」



          どうかな、と続けるに対し、譲も答える。















          「はい、お受けします」

          「ほんと?ありがとう!」



          正直自分に作家としての力があるとは思えないが、
          管理人の話によればここでの自分は紛れもなく作家である。





          それならばと、譲はの話を了承したのであった。















          「それじゃ、さっそく打ち合わせに入りたいんだけど、いい?」

          「はい、どうぞ上がってください」

          「うん!」



          譲に促され、未だ玄関の前に居たは家に上がった。






































          「よし、おおまかな流れは出来たし、今日はこれくらいにしよっか」

          「そうですね」



          二人はあれから数時間ほど話し合い、
          ようやく次回作のおおまかな流れを決めることが出来た。
          集中していたとは言え休憩なしで話し合っていたためか、
          も少し疲れているように見える。















          「さん、軽く何か食べませんか?」



          そんな彼女に、譲はそう言った。
          その言葉を聞いて、とたんにの目が輝く。










          「譲が作ってくれるの!?」

          「ええ、簡単なものになってしまうと思いますが」

          「ううん、それで十分!」

          「じゃあ、少し待っていてください」



          の勢いのある言葉に苦笑しながらも、譲はキッチンに向かった。




















          「本当に、さんって元気な人だな」



          うまくいかなくてみんなが落ち込んでいるときも、彼女だけは前を向いていた。
          どんなに厳しい状況でも、みんなを引っ張っていた。





          だが、そんな彼女にも悩みがあることを、譲は知っているのだ。















          「未来を知ってるって、俺にはよく解らない」



          彼女は、この先の未来を知っている。
          知っていて、それでもその未来を変えられると信じている。





          その想いは決して弱いものではないが、それゆえに、
          哀しい想いをすることも多々あるようだ。



          いつも元気で笑顔の絶えないが、ふと泣きそうな顔をするときがある。
          それが、何よりの証拠だった。











          自分が何か力になれればいいのに、と思うのだが、
          何も知らない自分は、どうすれば彼女が哀しまずに済むのかが解らない。















          「……全く、俺も情けないよな」



          自嘲気味に笑った譲。
          まだ考えたいことはあったが、をこれ以上待たせないようにと
          早足にキッチンを出た。




















          「さん、お待たせしました」



          そう言って譲がに差し出したのは、ホットケーキ。










          「わっ、すごくおいしそう!」



          ホットケーキでこれだけ喜んでもらえるなら、作ったかいがあるな。





          差し出されたホットケーキで嬉しそうにするを見て、
          譲はそんなことを思った。















          「食べていい?」

          「もちろんですよ。冷めないうちにどうぞ」

          「うん、ありがとう!」



          おいしそうに食べるを見て、譲は思った。



          きっと、俺がこの人にしてあげられることなんて数少ないだろう。
          それでも、少しでも力になりたい。支えに、なりたい……。




















          「ねえ、譲」

          「はい」



          ふと、が譲の名を呼ぶ。
          その声音が少し真剣味を帯びていたから、
          譲はそのまま黙っての言葉の続きを待った。










          「いつも、ありがとね」

          「え?」



          一体何についてお礼を言われたのか解らず、
          譲は間の抜けた声を出してしまった。
          そんな彼を見て、は少し笑う。















          「譲は、いつもあたしの悩みを理解しようとしてくれるよね」



          それは、確かにそうだ。
          だが、結局自分は何も出来ていない。
          譲はそれが嫌だった。










          「けど……俺は、あなたの力にはなれていないですよ」



          譲が思ったままを口にすると、は首を横に振った。















          「譲の知らないところで、あたしは譲に助けられてる。
           みんなが居て、望美ちゃんが居て、譲が居るということが
           あたしの支えになってる」

          「さん…………」



          正直、自分が本当に彼女の支えになれているのか自信はない。





          それでも、彼女の瞳はまっすぐで綺麗だから。
          それが本当のことだと、信じることは出来た。








































7月生まれへの指令:作家になりきれ






(これからもあなたを すぐそばで支えていきたい)








































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            遙か十周年記念企画、七月の譲Ver.でした!いかがでしたか?
            おやつ食べるとか、完全に千夜の趣味ですが……。

            やっぱ譲だったらお料理は欠かせないですよね。
            真剣に考えて、結婚するなら譲がいいかもしれない
            この人ほど家事ができる人はいないよね!
            それであたしはお掃除を担当しますよ!(何

            譲の長編とかも、あとで書いてみたいんですがね!
            そしたら望美ちゃんの姉設定とかですかね^^

            とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
            人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
            宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!

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