〜一番右の扉〜
「全く、めんどくさいな……」
一番右の扉を開けた那岐は、開口一番にそう言った。
……だが、が関わっているのなら、仕方がない。
あの管理人にうまく乗せられた気がしないでもないが、そこは考えないようにした。
「……まずはあいつを捜すところからかな」
全く見知らぬ場所ならばさすがの那岐も戸惑うところだが、
幸いというべきか、ここはよく見知った場所……
現代で自分や千尋が通っており、風早が教師をしていた学校だった。
そのため勝手が解っていた那岐は、を捜すため歩き出したのだった。
しばらく歩くと、誰かが中庭のベンチに座っているのが見えた。
ここからだと後ろ姿だが……間違いない、あれはだ。
そう思った那岐は、そっとその人物に近づく。
「…………那岐さん?」
前を向いたまま……つまりは那岐に背中を向けたまま、は言った。
「よく僕だって解ったね」
彼女は、一度もこちらを見てはいないのに。
どうして自分だと解ったのだろうか。
「……纏っている空気で解りました」
あなたの纏う空気には、特徴がある。
はそう続けた。
「特徴、ね……例えば、どんな?」
なんとなく気になった那岐は、聞き返す。
「本当は優しいのに、それを隠そうとしている。
他の誰かが傷つく前に、自分が犠牲になろうとする」
そんな、空気です。
……那岐は、驚いて何も言えなかった。
自分のことを、この目の前に居るという少女に見透かされている気がしたから。
「…………すみません、妙なことを口にして」
ずっと前を見ていたは那岐の方に向き直り、苦笑まじりに謝った。
「……別にいいけど」
そう言いながら、那岐はの隣に座る。
那岐はあまり人を寄せ付けたがらないから、その行動が、
自分のことを怒っているわけではなさそうだ、とに思わせた。
はほっとして、そっと微笑んだ。
「…………それでさ、何かあったの?」
「え……?」
何だか妙に改まった那岐が、そう言った。
そんな彼の言葉に、は戸惑う。
「何かあったんでしょ。いつもと違うから」
今度は、の方が何も言えなくなってしまった。
普段と変わらないふりをしていたのに、指摘されてしまったから。
しばらく黙っていたであったが、
那岐の無言の催促に対し、事情を話し出した。
「あの、実は……那岐さんに、テレビ出演の依頼が来ているのです」
「テレビ?」
テレビ、という言葉で、那岐の表情が変わった。
管理人の話では、確か自分は俳優として過ごすはずだったが。
テレビなんて、そんな面倒そうなこともやらなければならないのか。
そんな那岐の思いを読み取ったのか、が気まずそうに言う。
「那岐さんは、もともとテレビ出演がお嫌いですから……
私は、ありがたいお話ですが断った方がいいと、申し上げたのです」
ですが社長が、大丈夫だと……。
の声は、だんだん小さくなっていった。
「お話が来ている番組は、司会者と対談方式で進むもののようです」
あまり騒がしいということはないというのだが、やはり那岐はテレビ出演を断るだろう。
はそう思っていたのだが。
「…………仕方ないな」
「えっ……出てくださるんですか?」
「あんまり騒がしくなければいいよ」
本当はテレビなんて面倒だけれど。
を困らせるのは不本意だと思ったのか、
那岐はその話を承諾したのだった。
「学校もさぼれそうだしね」
「あ……そういうことだったのですね」
おかしそうに笑うを見て、那岐も微笑んだ。
「私、この件についてさっそく風早社長に電話でお話してきます」
そう言って、は席を外した。
「って、あいつが社長なのか……」
テレビ出演の話も、無理やりとってきたんじゃないか?
那岐には、そんな疑問も浮かんでいたのであった。
九月生まれへの指令:俳優になりきれ
(まあいいよ、君が哀しまなければ)
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遙か十周年記念企画、九月の那岐Ver.でした!いかがでしたか?
那岐もすごく好きなんですよね!
キャラソンが良すぎるんですよ、那岐は……!
そしてキャスティングが素敵。
やっぱ那岐が一番近くに居る存在ですよね、たぶん。
だからこそ居るのが当たり前になってしまって、
居なくなってしまった後に気付く。その大切さに。
泣けますね……!今すごく4がやりたいです!!
今回、さんは那岐の後輩設定です。
でも社長の陰謀(?)で、マネージャーやってるんですね。
那岐が現役高校生俳優(←何)だから。
てか、風早が社長の時点で(いい意味で)色々大変(笑)
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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