〜一番左の扉〜
「…………」
一番左の扉を開けた泰明は、無言のまましばらく辺りを見回した。
「…………ここではないようだな」
管理人の説明をしっかり聞いていた泰明は、まずを捜す。
だがはここには居ないと判断し、
泰明は彼女の気配を追って歩き出したのだ。
『初めまして、と申します』
『安倍泰明だ。お前は牡丹の姫と聞く……
神子のためにも、お前の力は必要だろう。よろしく頼む』
『はい!』
『泰明さん、こんにちは!』
『……どうした?神子に何かあったのか』
『いいえ、そういうわけじゃないんですけど……
ただ、泰明さんに会いたいな、と思って』
『私に、会いたい……?』
思えばは、初めて会ったときから少し変わっていた。
兄弟弟子にすら一歩距離を置かれているような自分に、
何の恐怖も抱かず近づいてきたのだから。
だが、そんなともっと共に居たいと思うようになっていた。
何故かは解らない。
自分には感情というものが無いはずなのに、これではまるで……。
『泰明さん、こっちですよ!泰明さん!』
「泰明さん!!」
「……!」
思い出の中の声と、同じ声が聞こえた気がした。
気配を察知し、後ろを振り返ってみる。
「良かった、泰明さん止まってくれて」
歩くの速いから、追いつけないかと思いました。
こちらに走り寄ってきたが、息を切らしながらそう言った。
「すまなかった」
「謝らないでください、私も走るの遅いので」
やっぱり日頃から鍛えておかないといけませんね、と、
は笑いながらそう言った。
「それより、もうすぐ出番ですから
楽屋の方でもう一度演技の練習をしませんか?」
「楽屋?」
「あ、えーと……一時的に待機する場所です」
「そうか……解った」
疑問に思う点が無かったわけではない泰明であったが、
の言うことに間違いはないと思い、そのまま従うことにした。
「それにしても、陰陽師の役だなんて
泰明さんにはうってつけですよね」
そもそもそっちが本業なんですから、とは続けた。
「必要とあらば術も使うが」
「あ、いえ……
術はやらなくて大丈夫ですよ」
「そうか」
「はい、みんな普通の人ですし、
怨霊みたいに私たちに害なす存在もありませんから」
「それなら問題ないな」
「はい」
は、泰明の申し出をやんわりと断った。
「だけど、それも少しもったいないですよね」
「もったいない?」
「はい、そうです」
どういうことだ、と言いたげな泰明に、は続きを話す。
「だって、術を使ってるときの泰明さん、素敵ですから」
「素敵……?」
「はい!」
以前の泰明ならば、の言っている意味が解らなかっただろう。
だが、今の泰明は、なんとなくだがそれが解る。
『お前は、いつも光っているように見える』
『えっ……発光しているってことですか?』
『そうではない』
あのとき……自分には、何故かが光っているように見えた。
の言う「素敵」というのは、おそらくそれと同様のものだろう。
泰明はそう考えた。
「」
「はい?」
「これからもよろしく頼む」
「……!」
泰明の言葉に一瞬目を丸くしたであったが、
すぐ笑顔に戻って言った。
「はい、こちらこそ」
九月生まれへの指令:俳優になりきれ
(光り輝くお前の その隣に)
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遙か十周年記念企画、九月の泰明さんVer.でした!いかがでしたか?
無印では人気ナンバー1ですよね、泰明さん。
個人的に舞一夜のルートが好きなんですが!あれいいよね!
泰明さんは本当に……色々複雑ですよね。
本人がどこまで気にしているのかは、アレだけど。
あー、でも、今度個人のドリ書いてみたいです!
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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