『望美さん、さん。あなた方は元の世界へ帰ってください』

          『なっ…なんでですか!
           だって、まだやる事があるんでしょう?

           それを放り出して、帰るなんて出来ません』

          『そうですよ、弁慶さん!!』


          もう、君たちを……君を巻き込むのは嫌なんですよ。
          僕はこれ以上、罪を重ねるわけにはいかない……。






          『もう大した仕事は残っていませんから……
           安心してお帰り下さい』

          『で、でもっ……私はともかく、は………』

          『…………』














          『……君たちをこの戦に巻き込んでしまったのは、僕だ。
           だから、早く普通の生活に戻ってほしいんですよ。

           それが、僕の願いです』

          『弁慶さん……』



          バシッ!















          『!?』

          『な、何をしているんだ、!?』


          望美さんと九郎が驚いていた。
          ……無理もない、さんが突然僕に張り手を食らわせたのだから。






          『ふざけないで下さい。
           ここまで一緒に戦ってきたのに、今さら帰れ?
           そんな事は知りませんよ。あたしは最後まで……

          最後の結末を見るまでは、帰りません』















          『……どうやら、解ってもらえないようですね』

          『そうですね』


          さんは、一度言い出すと聞かないところがある。
          今まで共に旅をしてきた。だから、それは重々承知している。


          だけど、今回ばかりは……僕も譲れない………






          『さん、君は帰りなさい……
           ……いや、君は……帰らねばならない』


          もう、これ以上、つらい想いをしないためにも…………












          『帰りません』
      
          『さん』

          『帰らないったら、帰らない!!』


          まったく……君は本当にいけない人だ………。















          『弁慶さん……
           どうしてそこまで頑なにを帰そうとするんですか?』


          僕たちのやり取りを見かねたのか、望美さんが僕に聞いた。







          『さん……いえ、望美さんも、ここに来るまでは
           平和な場所で暮らしていたのでしょう?
           それを、僕が壊してしまったんです』


          戦に巻き込んでしまったばかりに……。







          『早くその平和な日常に戻ってほしいんですよ。
           大切な人だからこそ……幸せになってほしい………

          解ってください、さん……』









          『弁慶さん……』


          望美さんが僕の名前をつぶやく。
          けれど、さんは何も言わない。















          『……どう、して………』

          『え……?』

          『どうして……そんなこと言うんですか………』
 
          『…さん……?』


          驚いた。
          さんは、人前で泣くなんてことはしなかったのに。
          それなのに、今……



          泣いている?
          僕のせいで?










          『大切な、人だからこそっ……そばに、いたい………
           なのに、どう……して………』



          “解ってくれないのは、あなたの方だよ……”
















          『、さん……僕は………』


          何も言えない。

          泣いてるところなんて見たくないのに。
          慰めてあげたいのに。

          だけど、何も言葉が出てこない……。






          『うっ…っく……嫌、だよっ……べんけい、さん……』

          『さん……』










          『泣かないで………』


          結局出てきた言葉はこれだった。
          何の慰めにもならない、陳腐な言葉。

          だけど今の僕には、もうこれしか言える言葉が無くて……。







          『好きっ……一緒に、いたい………』

          『さん……』


          ああ…どうやら、僕は

          この人には一生勝てないようだ……
















          『……解りました、一緒に行きましょう、さん』

          『……! いいんですか……?』

          『ふふ、おかしいですね。
           一緒に行きたいと言ったのは君ですよ?』

          『それはっ…そうですけど……』


          僕の言葉が予想に反していたようで、さんは驚いていた。







          『一緒に行きましょう……さん』

          『……はい!』


          僕が差し伸べた手を、さんが取ろうとしたとき……















          『ちょーっと待った!私も行きますからねっ!!』

          『望美さん……』


          望美さんが割り込んできた。






          『二人の世界に入るのもいいけど、
           私のこと忘れないでくださいよ?』

          『ふふっ、すみません、望美さん』

          『望美……行こう、みんなで』

          『うん!!』


          それから僕たちは平泉へ向かい、
          攻め込んできた鎌倉方にも、勝つことが出来た。


          そう、すべては
          大切なあの人のおかげ――――――――――


























          「弁慶さん?」

          「あ……さん。お帰りなさい」

          「ただいま、弁慶さん!」


          市に買い物へと出掛けていたさんが、
          いつの間にか帰ってきたようだ。







          「何か考え事でもしてたんですか?」

          「そうですね……ちょっと、さんから
           張り手をくらったときのことを思い出してました」

          「あ、あれはっ……弁慶さんが悪いんですからねっ!」


          ふふっ、ちょっと罰が悪くなったようですね。







          「とても驚きましたよ」

          「確かに自分でもよくやったなぁ、とは思いますが……
           でも、悪いのは弁慶さんなんです!絶対!」

          「そうですね」

          「微塵も思ってないでしょう?
           まったく、もうっ……」


          あのときは、本当に大変でした。
          だけど……















          「だけど、今があるのはあなたのおかげです、さん。
           本当にありがとう」

          「…弁慶さん……」

          「あのときは『帰れ』だなんて言いましたが……
           今は、もうあなたを離したくない」


          僕から離れていかないで……






          「ずっと…一緒にいてくれますね……?」

          「…はい……ずっと、あなたと一緒にいます……」


          僕はさんをそっと抱きしめた。

          さんも、それに応えるように
          僕の背に腕を回してくれた。







          「ずっと…あなたと共に……」





















          「……あ、そういえば」

          「……?」


          さんが、先ほどまで持っていた荷物の中から
          何かを探し始めた。







          「……あ、あった!」

          「何ですか……?」

          「これです!」

          「これは……」


          さんが僕に見せたもの、それは……






          「紫陽花ですよ。近くに咲いていたんです」

          「……綺麗ですね」
 
          「でしょう?弁慶さんと紫陽花って、
           なんだかピッタリな気がして……
           ちょっとだけ、もらってきちゃいました」


          薄く青く色づくそれは……
          本当に綺麗だった。



          今夜は、なんだかいい夢が見れそうですね、さん。

          そう言うと、






          「はい!」


          と、僕の大好きな笑顔で答える君がいた。






























紫陽花の残夢で逢いましょう


(夢の中でも あなたに逢えたら)










































  ++++++++++++++++++++++++++++++++++

     タイトルから丸分かりですが、これは「紫陽花の残夢で逢いましょう」を
     微妙にイメージして書いたものです(曖昧

     弁慶さんって、ネタがたくさんあると思います!
     ってか、無印EDでも十六夜EDでも、最初なんだか
     悲恋くさいところが逆にいいですよ!!