……


          行かないでくれ、……!






























          「……え?」


          将臣くんの、声が聞こえた……?







          「…まさか」


          未練たらしいな……
          もう、そんなのも全て終わりにしよう……。






          「…たとえおまけでも、この懐中時計はあたしの宝物。
           この音色も…大好きだから……」


          最後に聴けて、良かったな……












          「さよなら、みんな……」


          そして、将臣くん………




















          「っ!!」


          え…
          空耳……?






          「! 行くな!!」


          うそ、そんな…まさか……















          「ま、さおみ…くん……?」


          どうして…どうしてここにいるの…!?






          「どうして将臣くんが「!!」

          「っ…!?」


          な、に……?
          将臣くんに、抱きしめられてる……?






          「ちょ…やだっ、離して……!」


          なんでこんなことしてるの……!?






          「やめてよ!
           お姉ちゃんのことが、好きなくせに「違う!!」

          「……!?」


          将臣くんは、あたしの言葉を遮って叫んだ。













          「俺が好きなのは…俺が愛してるのは……
           …お前なんだ………」



          「う、そ……」

          「嘘じゃない、本当だ」


          そんな……









          「うそ…うそだよぉ……」

          「嘘じゃねぇよ……
           信じてくれ……………」


          その声があまりにも将臣くんらしくなくて…
          あまりにも切なくて……

          その言葉が本当なのだと、信じるしかなかった……。












          「お前は…今までずっと苦しんでたんだな…
           気付いてやれなくて、悪かった……」


          将臣くん……






          「死ぬなよ、……
           俺の前から消えたりしないでくれ………」

          「う、ん……」


          頭の中がぐちゃぐちゃだったけれど、
          あたしはかろうじて頷いたのだった………。

















          それからのことは、あまり覚えていない。
          気付くと、いつの間にか家にいた。

          …きっと、将臣くんが連れて行ってくれたんだろうけど。


          とりあえず落ち着けようと、
          将臣くんはあたしをソファに座るよう促した。

          お母さんが、温かい飲み物か何かを用意する様子が
          視界の端で確認できた、けど…



          そこから後の記憶は、ない。




















          「……寝ちゃいましたね、と兄さん」

          「そうだね…」


          顔を泣きはらしたを、すごくつらそうな表情をした将臣くんが
          連れ帰ってくれた。お母さんも、もちろん私も譲くんも安堵した。







          「…きっと、私のせいなんだと思う」

          「え…?」

          「にわざと、将臣くんとの向こうの世界でのことを話したりしたの」

          「先輩……」


          それで、が諦めてくれるならいいなって……。





          「だけど、私の入る隙なんてなかったんだね」

          「………」


          将臣くんの心には最初から……






          「だけがいたんだから……」


          自分のしたことを後悔したのは、
          お母さんが自分のケータイを持って私の元までやってきたとき。

          私はを自殺に追い込む気なんてなかった。
          ただ、将臣くんを諦めてくれたら……










          「そんな軽い気持ちだったの。
           それが、こんなことになるなんて……」

          「せん、ぱい……」

          「もしがいなくなってたら、私は……!」


          私はどうしたら……!












          「……先輩、は帰ってきたんですし、
           それ以上考えるのはやめましょう?」
 
          「譲くん……」

          「大事に至らなかった。それで、いいと俺は思います」


          だけど…あたしは姉失格だよ……。






          「先輩が悪く思っているなら、それをこれから償っていけばいいんです。
           …がそれを望んでいるとは思えませんが」

          「…そっか、そうだよ、ね……」


          ごめんね、……
          これからは…お姉ちゃんが応援してあげるから………。

















      
    「…先輩、一ついいですか?」

          「うん…何?」

          「俺は…先輩のことが好きです」

          「……!」


          があれだけの苦しみを乗り越えたんだ……
          俺だって、負けてられないさ。






          「先輩が兄さんのこと好きだって分かっています。
           でも、それでも俺は諦めません」

          「ゆ、譲くん……」
 
          「最後の最後まで、悪あがきはさせてもらいますよ」


          これが、俺のやり方だから……。










          「……ふふ、わかったよ」

          「…じゃあ、この話はこれで終わりにしましょう」

          「そうだね!」


          むしろ、報われないのは俺と……


         
 私だったんだよ、……。
























          「せんぱーい! ー!
           そろそろ学校に行かないと遅刻しますよー!!」

          「わかってるよー!」

          「ごめん譲くん、今、行くから〜!」


          また、前と変わらない日々をあたしたちは送っている。
          
          …でも、ちょっと違うかな……?






          「おい、。寝ぐせ直ってねーぞ」
 
          「う、うるさいなぁ、将臣くんは!
           そこはさりげなく直すところでしょ?」

          「はっ、俺がそんなキャラかよ」

          「違うでしょうね」


          なんだか、前より将臣くんとしゃべる回数が増えたかな?
          なんて、そんなことを時々思う。






          「あ、やっばーい! 今日、日直だったんだ!!」

          「大丈夫なんですか、先輩」

          「大丈夫じゃないよー!」

          「あっ、先輩! 待ってください!!」












          「…行っちゃったね」

          「まぁ、いいだろ。俺たちはゆっくり行こうぜ」

          「…うん!」





          「…そーいや、あの懐中時計なんだけどな」

          「うん?」

          「お前にあげたやつの音色の方が、俺は好きなんだ」


          え……?






          「やっぱ、自分が好きだと思ったものは
           好きな奴にも聴いてほしいだろ?」

          「……!」


          だから、あたしにはこっちの時計を……。












          「……ありがとう、将臣くん!!」

          「礼なんていらねぇよ」


          それでも、さっきの言葉が嬉しくて。
          あたしは再び将臣くんにお礼を言った。








          
とてもとても苦しかったけれど、それも乗り越えることが出来た。

          自分の力でじゃない、けれど…
          将臣くんが手を差し伸べてくれたから、だけれども…



          それでも、乗り越えることが出来た。
          私は、これからもこの想いを胸に生きてゆく……。





















僕たちの想い


(大切にしていこう、この想いを。これからも、ずっと。)





























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     譲の立場ってつらいよなぁ、と思いつつ
     望美ちゃんの妹って立場もつらいかも…ということで
     思いついたお話です。

     久々に読み返しましたが、急に自殺はないだろって思います。
     でも、まあ、そこまで追い詰められていたってことかな…。