「花梨ちゃん、落ち着いていけば
昨日みたいに封印が出来ると思うよ」
「はい……きっと封印してみせます。
だからさん、力を貸してください!」
「任せて!」
「、俺もいるから一人で無茶するなよ」
「……! ……はい、勝真さん!」
花梨ちゃんや八葉のみんなだけに、戦わせたりしない。
あたしだって、出来るはずだ……
牡丹の姫は……戦向きなんだから…………!
――直後、手にしていた扇が強い光を放った。
「……!」
この光は……!?
「どうした、!」
「さん、大丈夫ですか!?」
よく解らない……
勝真さんや花梨ちゃんの声が、遠くに聞こえる……
牡丹ノ姫ヨ…………
「これは……」
また、あの声が……
牡丹ノ姫ヨ……
アナタハ、ヨリ強イ力ヲ身ニ付ケマシタ…………
「た、確かに、前よりは力を付けたと思います。
自分でちゃんと制御できるようになってきたし……」
モウ、私ガ力を制御スル必要ハ無イデショウ……
「え……?」
力を、制御……?
牡丹ノ姫ノ力ヲ、全テアナタに授ケマス…………
「……!」
まぶしい……!
力ノ使イ方ヲ、決シテ誤ラナイデ下サイ……
牡丹ノ姫…………
…………
「……!!」
「……――! ――!」
な、に……? 呼ばれてる…………?
「!!」
「……!
か、つざねさん……」
「……どうやら、大丈夫そうだな」
あれ? あたし、一体……
「……さん、突然動かなくなっちゃったんですよ」
「花梨ちゃん……」
「ホントにもう大丈夫ですか……?」
「う、うん、もう平気だよ」
それに……
「それに、あたしも“牡丹の姫”として
パワーアップした気がするの」
「そうなんですか!?」
「うん……だから、
さっさとあの怨霊を弱らせて封印しちゃおう!」
「はい!」
…………。
なんだか、前よりも自分らしく戦える気がする……
「さん、術を使いましょう!」
「了解!」
行くよ…………
「――……牡丹乱舞!!」
ザアアッ……!!
「今だよ、花梨ちゃん!」
「はいっ!
めぐれ、天の声 響け、地の声――彼のものを封ぜよ!!」
よし、今回も封印できたね!
「どうして……どうして怨霊を封印したの?」
「えっ、だって、怨霊が帝に悪いことをするから……
封印しないと怨霊が暴れるでしょう?」
「……あなたが封じてしまっては、怨霊はもう動けない。
怨霊を封印してはいけなかったのに。京に静寂を招くため――
怨霊はこの場所にいなくてはならなかったのに」
静寂を招くとは、京に平和をもたらすってことだろうか。
でも……
「千歳、一体どういうことなのか説明してくれないかな?」
「あなたたちは四神を得て、四神に祈り、力を与えた。
そして、私がこの場所に置いた怨霊を封印してしまった」
「それは、四神の穢れや怨霊があなたのせいだってこと?」
「…………そう。京にはそれが必要なの。救われるために……」
救われるために怨霊を……?
「千歳……お前、院に取り入って京を穢していたのか」
「あ、あのさ、千歳には千歳なりの目指すものがあったんでしょ?
もう少し解りやすく説明してほしいんだけど……」
勝真さんが怒っているのが解ったから、あえてあたしは話をそらした。
ここで言い合いをしたって、始まらないのは解りきっているからね……。
「無駄だ、姫。何を言っても互いに話は通じぬ」
「そんなの、深苑が決め付けてるだけだよ」
「違う、それが現状なのだ。
千歳殿、あちらの神子や姫には言っても解らぬ。
あれらのやり方は千歳殿とは違う」
千歳……そして深苑にも、何か目的や考えがあるはずなんだ。
だけど、それが全く解らない…………。
「京を救うための道は、一つではないのだ。
お主らには、それが解るまい。
だが、紫はお主らを信頼しておる。だからお主らをとめることもできぬ。
お主らに手を貸すことは、もうできないのだ。私は違う道を見つけた」
「ここにいても、もうどうにもできない。……戻らなくては」
「では、帰るがいい。力を貸してやろう」
「……! 待って……!」
止めようとしたのに、千歳と深苑の姿は既になかった。
「千歳! 深苑くん!」
花梨ちゃんが叫んだものの、二人は行ってしまった。
それと入れ替わりで、今度はアクラムが現れる。
「フフ、どうした、神子に姫。
怨霊を二体も封印したというのに、浮かぬ顔をしているな」
「お前は花梨さんのためにはならないようだ、
捨て置くわけにはいきません!」
「アクラム、あなた……
(何が起こってるのかアクラムなら知ってるかも。
でも彰紋くんは怒ってる……)」
「花梨ちゃん、ダメ元でアクラムに聞いてみよっか」
「……! はい、さん」
あたしは少し迷っていた花梨ちゃんに、耳打ちをした。
「彰紋くん、コイツに聞きたいことがあるから、
少し時間をもらってもいいかな?」
「お願い、彰紋くん」
「……あなた方がそうおっしゃるなら、少しの間は待ちましょう」
「ありがとう」
それにしても、いつも温厚な彰紋くんまで怒らせるなんて、
コイツある意味、すごいのかも……なんて。
「ほう、よく仕込んであるな」
「…………!!」
って、やっぱりムカつくなコイツ!
でもここで怒ったら意味ないし、我慢よ、!!
(花梨ちゃんだって怒るの我慢してるんだもの!)
「……教えて、アクラム。どうしてあの二人をかばうの?」
「知りたいだろうな。
だが、なぜそれをお前たちに教えねばならない?」
「……!!」
「…………アクラム、また力づくでやってもいいんだよ?」
扇を構えたあたしを見て、アクラムは楽しそうに笑った。
(ってか、笑うな!)
「京の気が分断されていることを、お前たちは理解しているか?
なぜ怨霊を倒しても、
封印しても京の気が清浄にならないか解っているか?」
「おい、。本当にコイツの言葉に耳を貸す必要があるのか?」
勝真さんも勝真さんで、相当怒ってるみたいだなぁ……
「危なくなったら話もやめますから。もう少し、時間をください」
「…………解った」
「さすがは賢いな、牡丹の姫」
「それは、ありがとう」
あたしは、思いっきり皮肉の気持ちを込めて
アクラムにお礼を言った。
「神子、姫、お前たちは知るだろう。
帝と院に憑いていた怨霊が隠してきたものを、見るだろう。
京の陰気と陽気を分けているものが何か、その時、初めて知るだろう。
それを破壊せぬ限り、五行の力は正しく流れず、
陰陽の平衡は保たれないだろう」
「どうしてそんなことを私たちに教えるの?」
確かに、コイツは質問されたからって素直に答えるような奴じゃない。
何か、コイツ個人の目的があるのだろうか……。
「花梨さん、その男を捕らえましょう。
何か不穏のにおいがします」
「俺も彰紋に賛成だ」
「フッ、八葉とは言っても、四人では話にならぬ。
神子、姫、お前たちにはまだやらねばならぬことがある。
立ち止まっている暇はないぞ」
言うだけ言って、アクラムはまたいつものように姿を消した。
「アクラム! 消えた……。
『立ち止まってはいられない』……その通りかもしれない」
それは、あたしたちだって痛いほど理解していることだった。
「でも、とりあえず怨霊は封印できたし、今日はもう帰りましょう」
「そうだね」
その後、あたしたちは紫姫のお邸に戻った。
アクラムが言ったことについて紫姫と話をして、
京がどのような状況なのかをおおよそ掴むことが出来た。
紫姫が言うには、和仁親王や時朝さん、シリン、千歳、
そしてアクラムは敵と見なしていいって。
でも、それだと深苑も敵になるわけなんだけど、
紫姫も生半可な気持ちで言っているんじゃないんだろう……。
そして、色々と話を整理した結果……
あたしたちは、明日から四方の札探しをすることになった。
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