――とある日。

          土方さんから連絡を受けたあたしは、
          真選組屯所にやって来ていた。





          「ターミナル内で、
           不審な船を見かけたという話があってな」


          その船をしばらく退くんに調べてもらっていたら、
          やはり攘夷志士が関わっていることが解ったらしく……

          明日の夕方、前と同じ要領で
          一緒にその船に潜入し捜査してほしいと依頼されたのだった。





          「今回潜入する船は、前回のとはケタ違いに規模がデカい」


          二人では迅速な調査が出来ないということで、
          あと一人、同行者を加えようというふうに話がまとまり……





          「あと一人はお前が決めろ。でも総悟でもいい。
           お前の組みやすいやつを選べ」


          そう言われ、あたしは少し考え込む。





          「じゃあ、あと一人は――……」














9周年記念企画――第一話 一つ目の調査





















          「…………んで?
           なんで俺がこんな船の中を、こそこそ移動してんだ?」


          ぼやく銀さんと一緒に、
          あたしは船の前方を目指していた。

          ……そう。
          あたしが選んだ「もう一人の同行者」は、銀さんだった。










        
  『オイ……よりによって万事屋かよ、

          『あたしも万事屋です、土方さん』

          
『いや、今そんなボケは要らねェ』


          今ぼやいた銀さん同様、
          土方さんも最初は不服だったみたいだけど……





          
『でも、土方さん以外だと
           やっぱり銀さんが組みやすくて』



          仮に戦うことになったとき、
          組みやすい人のほうがいいかなって思ったんですけど……。

          あたしがそう言うと、土方さんもしぶしぶ了承してくれた。






          
、船内で怪しいところの目星はついてんのか?』

          『ええと……』



          銀さんに問われ、その後はあたしが風の流れを読んで
          船の前と後ろ、真ん中を調べることなり。





          
『お前らは前方を調べろ。俺は後方へ行く』


          三人がそれぞれバラバラになるのは危ない、
          という土方さんの意見を受けて……


          まずあたしと銀さんが前、土方さんが後ろを調べてから
          真ん中で合流し、付近を調べてそのまま撤退……

          という流れになった。















          「怪しい場所ってーのは、この先か?」

          「うん……そうだと思うんだけど」


          周りの様子を探りながら、
          なんとか見つからずに船の前方へとやって来れた。

          場所はこの辺で間違いないと思いつつ、
          銀さんの言葉を受けてその先を覗いてみる。




 
          「……部屋?」


          銀さんが目で指示したほうには、
          ちょっとした小部屋のようなものが見えた。

          それ以外は近くに不審なものも無さそうだし……
          あそこしかないと思う。





          「……あの部屋か」

          「うん」


          引き続き警戒しながらその小部屋に近づき、
          そっと扉を開けて中に入ると。










          「これって……」

          「……この箱ん中、全部銃みてーだな」


          一番近くにあった箱を開け、
          中身を取り出しながら銀さんが言う。





          「こんなにたくさんの銃を、いったい何に……」

          「さァな。だが、ロクなことじゃアなさそーだ」


          確かに、銀さんの言う通りだ。
          とにかく、これを証拠として持ち帰らないと。





          「まさか全部を持ち帰るわけにはいかないし……
           銀さん、どうする?」

          「あー? 別に持ち帰る必要ねーだろ。
           写メでも撮っとけ」

          「えっ」


          写メを?
          でも確かに、写真として残せれば証拠にもなるけど……。





          「ケータイ持ってんだろ」

          「うん、持ってる……」


          でも、大丈夫なのかな……。





          「写メ撮るときのカシャッっていう効果音で、
           誰か気づいたりしない?」

          「んなもん心配いらねーって。
           どうせ気づきゃァしねーよ」

          「ほんと?」

          「あァ、ホントホント」


          なんだか、ちょっとテキトーっぽいんだけど……
          でも、他に方法が思いつかないのも確かだ。

          周りには人の気配も感じられないし、今のうちに……



          
カシャッ!





          「……!?」


          な、なんか、辺りが静まり返ってるせいか
          音がかなり響いた気がするんですけど……!










          「オイ何だ、今の音は!?」

          「小部屋からだぞ!」


          気づかれた……!?















          「ぎ、銀さんっ!
           やっぱりあの『カシャッ』っていう音で気づかれたよ!?」

          「あー、なんか思ったより音デカイんだなアレ

          「そんな、のん気に言ってる場合じゃないよ!
           とにかく、急いで逃げないと…… ……!」


          言い終わるか終わらないかくらいで、
          急に腕をぐいっと引っ張られる。





          「銀さっ……」

          「しっ」

          「……!」


          耳元でそう言われたことで、
          割とすぐ状況を把握することが出来た。





          「…………」


          銀さんはとっさにあたしの腕をとって、
          後ろから抱きかかえるような形で箱の裏に隠れたみたい。










          「音は小部屋の中からだったか?」

          「俺にはそう聞こえたが」


          どうしよう、誰か来た……!





          「……大丈夫だ。じっとしてろ」

          「…………」


          銀さんがまた、耳元でささやく。
          あたしは声を出さずに、小さく頷いた。





          「…………」


          攘夷志士に見つかりそうでピンチなのに……

          銀さんに「大丈夫」って言われると、
          なんだか安心できる…………。















          「人影は無さそうだが……」

          「侵入者だとしたら、まだ近くに居るはずだ。
           とにかくこの付近を捜索するぞ」

          「あァ」


          そんなことを言い合いながら、
          小部屋にやって来た攘夷志士はそのまま出ていった。










          「……どうやら、行ったみてーだな」

          「うん……」


          なんだかんだ言いながらも、銀さんはいつも
          こうやってあたしの力になってくれる。

          あたしはそれが、すごくありがたかったし……
          すごく、嬉しかった。















          「ちょっとここで待ってろ」

          「……?」


          そう言った銀さんが小部屋の入り口まで移動して……
          外の様子を探り、再び戻ってくる。





          「出てってくれたはいいが、
           その辺に攘夷志士っぽいのがうようよしてやがる」

          「えっ……もしかして、潜入したのがバレたのかな?」


          まぁ普通に考えて、銃がしまってある部屋で
          シャッター音なんてするわけないし、変に思うよね……。










          「このままじゃァ、土方くんと落ち合う前に
           捕まっちまうだろーな」

          「どうしよう……」


          戦うしかないのかな……
          でもそうすると、この付近にいる人を一気に倒さないと。

          ただ仮にそれが出来たとしても、別の場所に居る人たちが、
          さっきみたいに駆けつけてくる可能性もある……。










          「……俺が奴らを引きつけとくから、
           そのスキにお前は先に行け」

          「えっ……で、でも!
           それじゃ銀さんが危ないよ!」

          「バッカ、デカイ声出すなって」

          「あっ、ごめん……」


          ……じゃなくて!





          「そんな、銀さんだけ置いていくなんて出来ない」

          「……」


          そもそも、あたしが受けた依頼に協力してもらってるのに、
          銀さんだけ危ない目に遭わせるなんて出来ないよ。












          「……心配いらねェよ」

          「でも……!」

          「後から必ず追いかける。
           だから、お前は先に行ってろ」

          「銀さん……」


          あたしの目を真っ直ぐ見てそう言い……
          銀さんは、ぽんぽんと頭をなでてくれた。





          「…………解った。
           ちゃんと……追いついてね」

          「あァ。お前も気をつけろよ」

          「うん、銀さんも!」


          銀さんなら、きっと大丈夫だ。
          だって、あたしを……一人にはしないでくれると思うから。










          
バンッ!





          「……!? なんだ!?」


          タイミングを見計らった銀さんが、
          小部屋の扉を思い切り蹴飛ばして開ける。

          そのものすごい音により、付近に居た攘夷志士は
          一斉に銀さんのほうを見た。





          「お前ら探してる『侵入者』ってやつですよォ〜」

          「何ィ!?」

          「貴様、この部屋で何をしていた!!」


          堂々と登場した銀さんに、
          攘夷志士たちはそんなことを言っていて……










          「(今だ、。行け!)」


          そんな中、銀さんが目で合図をしてくれる。

          それを確認したあたしは、急いで部屋を出た。





          「っ! な、なんだ今の風は……」

          「そんなことより、今はこの男だろう!」

          「そ、そうだったな! 貴様、いったい何者だ!?」















          「銀さん…………」


          銀さんなら、その辺のやつに負けるはずない……
          きっと約束通り、追いついてくれる。

          だからあたしも、今できることをしないと。





          「船の真ん中辺りを、今のうちに調べておけば……
           土方さんとも合流したとき、すぐに撤退できる」


          そう考えたあたしは、真っ直ぐ前を見据え走り続けた。