全てに決着がついた後、あたしは銀と共に現代に戻ってきた。

          初めの頃は色々と大変だったけど、銀に順応性があるおかげか、
          割と早く現代の生活に慣れていった。




















          「こんばんはー」

          「ようこそお越しくださいました、様」


          とあるマンションの一室。
          インターホンを鳴らすと、すぐに銀が出てきた。 

          銀は、今はここで一人暮らしをしている。






          「しかし、このように薄暗い道をお一人で……
           道中、何もございませんでしたか?」

          「大丈夫だよ、マンションの下まで
           お母さんに車で送ってきてもらったから」


          現在の時刻は、午前6時くらい。
          とは言っても今は冬だから、まだ外は真っ暗だった。

          それを銀は心配してくれたみたいだけど、
          大丈夫だよ、とあたしは笑って返す。






          「左様でございますか……。
           ですが、やはり私がお迎えにあがるべきでしたね」


          銀は、あたしのお母さんに手間をかけさせたと思っているらしい。
          だから、そんなことを言ったのだ。













          「いいってば。
           たまには、あたしも銀のこと迎えに行きたいから」


          それに、こんな時間に訪ねて来られても、
          お父さんも寝てると思うし、もし起きてこられても説明がめんどくさいし……。





          「様…………
           ありがとうございます」

          「ううん、いいよ」


          やっと銀も納得してくれたみたい。










          「じゃあ、行こっか」

          「はい」


          そうして、あたしと銀はそのままある場所を目指して出かけた。

























          「はぁー、やっぱり寒いね」

          「この季節でございますから」

          「もうちょっと厚着してくるべきだったかな?」


          マフラーを忘れたのは、痛かったなぁ……。






          「様、失礼いたします」

          「え……?」


          何かと思って立ち止まってみると。

          銀が、さっきまで自分がしていたマフラーを
          あたしの首に巻いてくれたのだ。






          「どうぞ、こちらを」

          「で、でもっ! これじゃ、銀が寒いよ」


          マフラーを貸してくれたことは嬉しいけれど、
          銀が風邪引いちゃったりしても嫌だし……。






          「どうか、様……このままお召しください。
           私は歩いているためか、身体が温まってきましたので」

          「銀…………」


          そんな、まだ身体が温まるほど歩いていないのに。
          銀は、あたしが気にしないようにそう言ったのだ。














          「…………解った、ちょっと借りるね」

          「はい」


          銀には、これ以上の反論は良くないかな、と思ったから。
          あたしは、素直にマフラーを借りることにした。

          そのことを伝えると、銀も嬉しそうに笑う。




















          「……あ、そういえばね」

          「はい」

          「昨日の夜、用があって将臣くんと譲の家に行ったんだけど……」










          『あー、もう悔しい!
           将臣くん!こうなったら私が勝つまでやるからね!!』

          『あぁ、いいぜ』






          『…………ずっとこんな感じなの?』

          『はい、夕飯を食べ終わって、ゲームを始めてからはずっと……』

          『そっか……』








          「望美ちゃん、将臣くんとゲーム対決してて。
           すごい白熱した感じだったよ」

          「ゲーム、とは……テレビを使った遊戯のことにございますね」

          「うん、そうそう」


          銀は、現代にあるもののほとんどを覚えてしまっていたりする。






          「譲に聞いたけど、ずっと将臣くんが勝ってるんだって。

           望美ちゃんが勝つ可能性は低そうだけど、
           それでも彼女は勝つまでやるって聞かないみたい」

          「なるほど……
           神子様も、それほどに負けず嫌いな面をお持ちなのですね」

          「うん、本当にね」


          これじゃ、夜中までゲームやってたんだろうなぁ、とあたしが言うと
          銀も少しおかしそうに笑った。






          「まぁ、でも、そんな負けず嫌いな面も持ってる神子だから、
           あたしはついていきたいと思ったのかな」


          あたしと銀が今こうして一緒に居られるのも、
          望美ちゃんのおかげなのだ。










          「ええ……
           神子様には、一生では返せぬほどの恩がございます」



          銀も、同じことを考えたらしい。
          少し間を空けて、そう言った。










          ――向こうの世界で銀と出逢ってから、色々なことがあった。

          初めて見たときは、望美ちゃんが銀と知盛を間違って……
          彼女も動揺していたっけ。


          それから、一度目の運命では銀が自らの心を凍らせて。
          あたしは、銀を助けることが出来なくて嘆いていた。




          そんなあたしに、時空を越えようと言ってくれたのは望美ちゃん。

          時空を越えるということがよく解っていなかったあたしに、
          彼女は自らの秘密と共に詳しく説明してくれた。







          そして…………
          泰衡さんのこととか、鎌倉とのこととか……

          色々なことを乗り越えて、今、あたしたちはここに居る。















          「…………さて、夜更かしの神子様の分まで、ちゃんと見てこなくちゃね」

          「はい、様」


          あたしたちは、少しゆっくりになっていた足を速めた。























          しばらくして、目的地に着いた。

          あたしたちが目指していたのは、
          家からそう離れていない所にある小高い丘だった。






          「様、お手をどうぞ」

          「ありがとう」


          銀に手を引かれて、その丘の一番高い場所まで登る。
          そこからは、鎌倉の町が見渡せるようになっていた。






          「…………すごい、もう起きてる人がいるんだ」


          ところどころ家に明かりが灯っているのを見て、あたしがそうつぶやくと。





          「ふふ……
           神子様のように、夜更かしをされているのやもしれませんよ」


          銀が、冗談めいた感じでそう言った。
          だから、あたしも思わず笑ってしまう。
















          「時間までは、あと少しかな」

          「そうですね……あと数分で見ることが出来るようです」

          「そっか」


          その数分を、あたしと銀は何も話さずに待っていた。
          そして…………







          「わぁ……!」



          あたしたちが、わざわざこの時間に見に来たもの……
          待っていたものが、姿を現した。






          「銀、見て! すごい!」

          「ええ……綺麗な初日の出にございます」


          ……そう、あたしたちが見たかったのは、初日の出だった。

          望美ちゃんが将臣くんと譲の家でゲームしていたのも、
          昨日が大晦日だったから。


          そして、あたしが朝早くから銀を訪ねたのも。
          一緒に、この初日の出を見たかったからだ。










          「すごい……綺麗…………」

          「ええ、本当に……」


          あたしたちは、初日の出に見とれていた。




















          「様」


          まだ太陽が昇りきっていないとき、ふと銀に声を掛けられた。
          何かと思って、あたしは太陽から銀の方へ視線をずらす。






          「様……私は、あの太陽に誓います。
           あなたを、必ずお守り申し上げ……そして、幸せにすると」


          銀の瞳は、真っすぐあたしを捕らえていた。






          「情けない話ですが、私はまだこちらの世界に不慣れです。
           あなたにも、もうしばらくご不便をお掛けするでしょう」

          「…………」

          「ですが、それでもあなたと共に歩んでゆきたいのです。
           私のこの願いを、受け入れてくださいますか?」


          そんなこと聞かれても、もう答えは決まってるよ…………











          「あたしは……あなたと、一緒に居たいよ。
           ずっと、一緒に居て…………」


          ――――これから待ちうける未来を、共に歩いてゆこうよ。







          「はい、様の御心のままに」


           あたしがつぶやいた言葉が聞こえたようで、
           銀は嬉しそうにそう言った。































二人、一緒ならば


(どんな未来だって 乗り越えてゆけるよ)

































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     銀夢でした! いかがだったでしょうか?

     いちおー3の推しは銀って言い張ってるんですが、
     銀夢が無かったので書いてみました^^