夏休みも半分が終わり、残すところあと二週間となっていた日。
          今日は活動があるから、みんなが生徒会室に集まっていた。




















私立薄桜鬼学園――十時間目 この道を共に、歩いてゆく























          「…………というわけで、来月に開催する学園祭の準備と、
           それから同じく準備をするため学校に来ている生徒たちの対応。

           今日からしばらくそれをやってもらうからね」

          「はい」

          「了解!」


          あたしは、今日の活動についての説明を生徒会の面々にしていた。


          薄桜鬼学園の学園祭は、来月半ばに開催される予定だ。
          うちの学園祭はクラスや部活など、団体であれば模擬店も自由に出せる。

          だから、夏休みであるにも関わらず、
          最近は多くの生徒がその準備のためによく登校していた。











          「で、うちは何を出すんだ?」

          「それを決めなければ、準備にも移れない」
  
          「よーし、何か案出してくか」


          左之、一、新八がそんなことを話し出した。






          「ホストとか!」

          「なんでだよ」


          新八が出したその案に、左之がすかさずツッコミを入れている。







          「あ、あの……生徒会だし、そういうのはあまり良くないのでは……」


          新八の案を少し微妙に思ったのか、千鶴がおずおずと意見を出した。
          新八は、そうか?いい案だと思ったんだけどな、と笑っている。













          「まぁ、オレは新八っつぁんの意見も面白くていいと思うけど。
           さんは何かいい案ないか?」


          みんなのやり取りが面白くて完全に見物人のようになっていたあたしに、
          平助が声を掛けた。






          「うーん……あたしは、普通の喫茶店でいいと思うけど。
           学園祭って、色々と移動して疲れるだろうしね」


          去年、一昨年もたくさんの人で賑わっていたし。







          「人も多いから、座れるところも少なくなってくる。
           だから、喫茶店っていう名の休憩所みたいなものがいいな」

          「おー、なるほど! さすがさん」


          平助は本当に感心したようで、にこにこ笑っていた。
          つられて、あたしも少し笑ってしまう。






          「俺も会長の意見に賛成です」

          「わ、私も先輩の案がいいと思います!」


          ついで、一と千鶴が賛同してくれた。







          「まぁ、それが妥当だろうな」

          「じゃあ、そうすっか!」


          満場一致といった感じで、生徒会の出し物は喫茶店になった。















          「じゃあ、平助、千鶴、新八、一はうちでやる喫茶店について
           話し合いしててくれる?」

          「さんと左之さんは?」

          「あたしと左之は、総司と一緒に予算について相談するから」

          「なるほどな」


          自分だけ名を呼ばれなかった左之が、やっと合点がいったという顔をしている。


          ……新八も会計だけど、
          おそらく喫茶店の企画を立てる方が向いていると思うし。平助も同じね。

          で、暴走する可能性のある二人を止めてもらうように、
          千鶴と一も……というところだ。



          ガラッ


          あたしがそう考えていたときに、生徒会室の扉が開かれた。







          「、これ土方さんから予算についての連絡」


          そう言って、扉の向こうに居た総司は一枚の紙を見せながら入ってきた。









          「解った、ありがとう」

          「土方さんが言うには、ここの予算は削ってもいいんじゃないかってことだけど」

          「うん……結局は去年も余ったし、
           別のところに移動させた方がいいかもしれない」

          「僕はここに移動すべきだと思うけどね」


          あたしは、総司が持ってきた書類を見ながら、さっそく予算について相談し始めた。















          ――――総司は、あれから少し……ほんの少しだけ、真面目になった。

          前よりは、ちゃんと生徒会の仕事もしてくれる。
          ……理由は、解らないのだけれど。







          「いや〜しかし、と総司もや〜〜っとくっついたよなぁ」


          予算について相談しているあたしたちをずっと見ていたらしい新八が、
          唐突にそんなことを言う。






          「ちょ、ちょっと新八……!」


          何か言い返したいのだが、あたしには焦ることしかできない。


          ……総司に好きだと伝えてから、あたしたちは付き合いだした。
          誰にも言っていないはずなのに、何故か生徒会の面々にはバレている。










          「まぁ、確かにじれったかったよなぁ……見てる方としては」

          「つーかオレは、二人がお互い好きだったなんて知らなかったぜ」


          普段はこういった類の話に興味の無さそうな平助まで、会話に入ってきた。
          これでは、話をそらしてごまかす……というのも難しい。






          「俺は気付いていた」

          「わ、私も気づいてました」


          一がぼそっと恐ろしいことを言ったと思ったら、続いて千鶴も同じことを言ってきた。






          「あ、あたしたちの話はいいから。みんな早く、自分の仕事に移って」


          このままこの話題で展開されるのも恥ずかしくて仕方がないので、
          それぞれの仕事に移るよう言ったのだけれど……。















          「喫茶店の相談は明日に回して、今日はと総司の話しねぇか!?」

          「おっ、いいねぇ」


          新八がそんなことを言い出し、何故か左之も楽しそうに同意している。






          「そんな話しないでいいって! 早く自分の仕事に移ってよ」


          早く別の話に移ってほしいという願いからか、
          あたしは半ば叫んでいる状態になっている。






          「おー、さんが赤くなってるのなんて初めて見た」

          「平助君、そういうこと言ったらだめだよ!」


          物珍しそうにしている平助を、千鶴が注意する。















          「けどよ、に惚れてた奴らは可哀想だな」


          いつの間にか二人がくっついてるんだから。
          左之はそう続けた。






          「あ、あたしに惚れてる人なんて居るわけないでしょう。
           左之、冗談にしては笑えないよ」


          まだ恥ずかしいのをこらえ、あたしは怒ったように左之に返す。











          「ここに居るけど?」


          すると総司が悪ノリして、至極楽しそうな笑みを浮かべてそう言った。






          「そ、総司!」


          恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだ。
          言い返す言葉はまたもや見つからず、ただ総司を睨むことしか出来ない。

          全く、いつもは歯止め役の千鶴や一まで何も言わずに見守ってるし……。


          あたしがため息をついたと同時くらいに、突然引き寄せられた。






          「ま、僕はを誰にもあげる気はないけどね。 もちろん君たちにも」


          あたしの肩を抱き、総司はそう言い放った。
          それが本当に恥ずかしくて、あたしはまた真っ赤になってしまったのだ。






          「あーあー、見せつけられちまった〜」

          「いちゃつくなら外でやれって」


















          「…………り、…………よ」

          「…………も…………ね」


          ……と、そのとき生徒会室の扉の向こうから話し声が聞こえた。

          この声は、もしかして…………


          ガラッ!







          「きゃっ!」

          「何っ!?」


          …………やっぱり。







          「何、じゃないでしょう?」

          「……」

          「こ、こんにちはー……」


          例の、情報通の友人たちが居た。
          どうやら……いや、絶対に、二人は立ち聞きしていたのだろう。






          「ってことで、ごめんー!」

          「さよならー!」


          そして二人は一目散に逃げる。






          「待て!」


          だが、それを逃がしてあげられるほど今のあたしに余裕は無い。















          「やっぱりうちらの仮説は当たってたじゃない!」

          「も早く教えてくれればいいのにー!」


          友人たちは、逃げながらもそんなことを言ってきた。






          「う、うるさいっ!
           それに、二人の仮説は間違ってるからね」



          「「え?」」


          全力で逃げる気満々だったと思われる二人が、
          あたしの言葉を聞いて立ち止まった。






          「ど、どういうこと?」

          「だって、沖田くんはのこと好きなんでしょ?」


          焦っている二人を見て、あたしは言った。






          「結果的には当たってたかもしれないけれど、
           やっぱり間違ってたんだよ」


          それだけを言って、あたしはもと来た道を引き返した。















          「何なの?」

          「さぁ……」


          その仮説は、覆された。
          総司があたしを好きだった、というのは、結果論。


          …………本当は、あたしが、総司のこと好きだったんだ。
          いつから好きだなんて、考えても解らないのだけれど。






          「…………それでも、総司が好きだから」














          「僕もだよ」


          目の前には、生徒会室を飛び出したあたしの後を追ってきたらしい総司が居て、
          そう、答えてくれた。

          あたしの大好きな、あの優しい笑みを浮かべて。






          「戻ろうか、

          「……うん」


          差し出された手を、あたしは取って歩き出した。
          その手は、やはりあたたかかったのだ……――――



















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