「じゃあ銀さん、行ってくるね」

「おー」


俺はジャンプから目を離さないまま、
出かけるにそう答える。










「おはようございまーす」

「おー」


と入れ替わるようにして新八がやって来た。





「あのー、銀さん……いいんですか?」

「何がだよ」


もったいぶったように言う新八にイラッときて、
思わずジャンプから目を離した。





「いや、さんですよ!
 今日どこに行くかちゃんと聞いてます?」

「あー、んなもん昨日聞いたっつーの。初詣だろ?」

「いや、そうなんですけど……
 誰と一緒に行くか、ちゃんと聞きました?」

「は?」


オイオイなんだその言い方……





「……お妙とか神楽じゃねェのか?」

「姉上はまだウチにいますよ。
 神楽ちゃんも、まだ押入れだと思いますけど」


なんだよそれ……
じゃあ、一体あいつは誰と一緒に行ったんだ?





「…………」


…………いや、待てよ。

確か昨日、酔いつぶれる寸前になんか言われた気が……










『明日初詣に行くんだけど、銀さんも行く?』

『あー? 初詣〜?
 俺は遠慮しとくわー……』

『そっか……解った』


じゃああたし、近藤さんと土方さん、総悟くん、
と一緒に行ってくるからね。










「…………!!」

「土方さんが迎えに来てて、一緒に行ったみたいですよ」

「おいこのダメガネ、それを早く言えっつーの!!」

誰がダメガネだァァ!!
 そもそもアンタがちゃんと聞いてなかったんでしょ!?」


こーしちゃいらんねェ、さっさと追いかけねーと……!










+++










「…………」

「土方さん? どうかしました?」

「あ、いや……悪りィ」


近藤さんたちの待つ神社に向かう道中、
俺はつい、コイツをジッとみちまっていた。





「何か気になりますか?」


気分を悪くさせたかと不安になったが、
どうやらそうでもないらしい。

どこか楽しそうに問いかけてくる。





「……大したことじゃねェんだが、」

「はい」

「お前は、その……着物は着ねェのか」


万事屋をやってるだけあってか、
普段こいつは動きやすい格好をしている。

けど、女ならたまにはシャレた格好も
してェと思いそうなところだが……。





「あー……お正月ですもんね」


すれ違う女の大半はめかし込んでいて、
それを見やりながらが言った。





「頼めば、喜んで着せてくれそうなやつは居るだろ」

「確かにそうかもしれません」


俺の言葉を聞いて、おかしそうに笑った。










「じゃあ……明日辺り、お妙さんに頼んでみます」

「おう」


やっぱ、めかし込みたい気持ちはあんのか。

……そりゃそうか。
こいつ、いつも仕事を優先してるからな。





「着たら見せに来いよ」

「えっ、見てくれるんですか?」

「ま、まァな」


――んなもん見てェに決まってんじゃねーか。

その言葉は、には伝えずそのまま飲み込んだ。










+++










「くそっ……!」

の向かった神社を新八から聞いた俺は、
一歩遅れてその場所にたどり着いた。





「あー、ちょっとお兄さん!
 今さっきここを変な集団が通んなかった!?」

「へ、変な集団?」

「いかにも喧嘩が好きそうな男三人と、
 姉妹が一緒にいる変な集団だよ!」

「……あっ!」


ここに新八が居たら「そんな説明で伝わるかァァ!!」
なんて言われそうだが……

この通行人には、どうやら伝わったらしい。





「お参りするって言って、あの階段をのぼっていったよ」

「マジでか!」


そいつにテキトーに礼を言って、俺はその長い階段を昇り始めた。










「オイオイどんだけ長げェんだよ、この階段……!」


早くしねーとが……!!





「よーし!
 お参り済ませたし、おみくじでも引くか」

「あっ、あたしもおみくじ引きたいです」

も」

「じゃあ行くぞ、ちゃん・ちゃん!」

「はい!」 「はーい」





「あれは……!」


見つけたぞ、!!










+++










!!」

「えっ……銀さん!?」


参拝を終えて移動しようとしたとき、
背後から誰かがの名を呼んだ。

こいつの言う通り、そこには万事屋の姿がある。





「そんなに慌ててどうしたの?」

「あー、いやァ……やっぱ俺も初詣行っとくかー
 って思ってな〜」

「それなら最初から言ってくれればいいのに」

「いやお前、そりゃあ〜……
 さっきはジャンプがいいとこだったんだよ!」





「アレ絶対、たちと行くって後から知ったよ」

「まァ、そうでしょうねィ」


妙に慌てる奴を見ながら、と総悟がそう言った。










「近藤さん、すみません!
 あたしちょっと、飲み物買ってきます」

「飲み物?」

「はい。銀さんすごく汗かいてるので、
 水分摂ったほうがいいかなと思って……」


そりゃあ、あの階段を駆けあがってきたらな。
さすがの奴も、汗だくだろう。





「なので、先におみくじのところへ行っててください」

「いや、俺は構わんが……」


そこで言葉を濁した近藤さんが、俺を見る。





「…………早く追いついてこいよ」


俺はそれだけを行って、に背を向けた。





「はい、すぐに追いつきますね!
 ……ほら、銀さん行こう?」

「お、おう」


2人の足音は、そのまま遠ざかっていった。










+++










「確か、こっちのほうにあったはず……」


俺の手を引きながら、がそうつぶやいた。





「……あっ、あそこだ、自販機!」


にしても……

が俺と2人きりになること、
野郎が許すのは意外だったな。

……まァアイツのことだ。
の意思を尊重〜とかそんな感じだろ、どーせ。










「はい、銀さん」


いつの間にか買ったらしいいちご牛乳を、
が差し出してくる。





「おー、サンキュー」


ここで迷わずいちご牛乳を買うところが、
がデキる女っつー証拠なんだよなァ……

普通、水分摂った方がいいとか言っといて
いちご牛乳なんか買わねェだろ、俺が言うのも何だけど。





はマジで銀さんのこと解ってるよなァ〜」

「そりゃあ、まぁ……
 一緒に住んでそれなりに時間経ってるしね」


はァ〜……

この「一緒に住んでる」っての、最高すぎない?
マジでコイツ、俺を喜ばせるの上手すぎんだろ。










「もちろん、神楽ちゃんのことも解ってきたよ!
 あ、あと、一緒に住んではいないけど新八くんのことも」


ハイ、そうでした!
コイツ、(無意識に)俺を谷底に突き落とすのも上手いんでした!!





「銀さん?」

「あーいや……なんでねーよ」


まァ、神楽や新八と同列にされてるとは言え、
自分のことを解ってもらえてんのは普通に嬉しいか。

相手が他でもないだしな。










「よーし。んじゃあ飲み終わったし、
 アイツらんとこ戻るかァ」

「うん!」


もっとゆっくり飲んで、時間稼いでも良かったんだが……

アイツらのこと気にしてんの、丸わかりだかんな。
あんまり引き留めてちゃアかわいそうだろ。





「……結局俺も、野郎と同じかよ」


コイツのことは、困らせたくねーんだよな。










+++










「土方さ〜ん、いーんですかィ?」

「何の話だ」


移動しながら言う総悟に、
俺はあくまで何でもない風に返した。





ちゃんと万事屋のことに決まってるだろう!」


煮え切らなくなったのか何なのか、
近藤さんまでそんなことを言い出す。





「別に、すぐ戻ってくるんだから心配ねェだろ」

「だとしても、2人きりにするのはどうなんですかねィ」

「そうだそうだ!
 奴だって彼女に惚れてるんだぞ!!」

「…………チッ」


んなこたァ解ってんだよ……
俺だって、できればアイツらを2人になんかさせたくねェ。

だが、あそこで見送らなければアイツを困らせることになる。


そんなめんどくせェ男になる気は、サラサラねーぞ俺は。










「まァトシのことだから、お姉のためってことだろうけど」

「…………」

「それで彼女を野郎に取られたら、元も子もないですぜ」

「フン」


勝手に言ってろ。





「確かにね。
 相手が普通の女だったら、そういう心配も必要だけど」


そこまで言ったが、不敵な笑みを浮かべて続ける。





「生憎、のお姉は『普通の女』じゃないんでね。
 そこは安心していいよ、トシ」

「…………はっ」


違げェねェ。

の言葉に、俺は自然と笑っていた。










+++










「じゃあ、そろそろ帰るか!」

「はーい!」


近藤さんの掛け声に、あたしは元気よく返事をした。


銀さんと一緒に、おみくじの場所に向かうと。
先に行って待っててくれた3人と、すぐに合流できた。

その後は、みんなで揃っておみくじを引いたんだけど……





「大吉狙うとは言ったけど、ホントに大吉とはね。
 は今年も絶好調な気がするよ」

「俺も大吉だったんで、幸先いいスタートでさァ」


、総悟くんの2人はさすがというか、
しっかり大吉を引き当てていて。





「俺は末吉か……なんか微妙だな」

「でもいいこと書いてありましたよ」

「確かに……
 ちゃんの吉も、良さそうな内容だったな」

「はい!」


近藤さんが末吉、あたしは吉を引いた。
そして……










「大凶引けばおもしろいのにって、確かに思ったけど」

「マジで大凶引くなんて、
 土方さんも旦那もおもしろすぎでさァ」


一番後ろを歩く2人を見ながら、
と総悟くんが至極楽しそうに言った。

言われた2人はいうと、明らかに落ち込んでいる。





「だ、大丈夫ですよ、2人とも!
 ちゃんとおみくじ結んできたし……!」


慌てて元気づけようとするけれど、
2人からは何の返事もない。





「どうしよう……」


そんなに大凶が嫌だったのかな……

でも、中身も見せてもらったけど、
そこまで悪いことばかりじゃなかったような?










「何がそんなにショックなんだろう……」










「そりゃあね」

「『待ち人』のところでさァ」

「なんだっけ、確か……」

「『最大の敵は目の前の者にあらず』ですぜ」

「あーそうだ。それそれ」










? 総悟くん?
 もしかして何か知ってるの?」

「いや」

「全然」


内緒話をしてた2人に問いかけるけど、
何も思い当たらないと言う。





「うーん……」


どうしよう……





「2人のことは、ほっといても大丈夫でしょ」

「ホント?」

「ホントホント」


なんか、が言うと
すごくテキトーに聞こえるんだけど……










「それよりお姉、買い出し行くとか言ってなかった?」

「あ、そうだった」


新年になったし、仕事着も少し新しくしたいんだよね。
あと、古くなった得物も新しいのと入れ替えて……





「近藤さんと、総悟は用があるからさ。
 あのバカ2人に付き合ってもらってよ」

「え? でも……」

「けっこう買い込むって言ってたじゃん。
 荷物持ちは必要でしょ」


確かに荷物持ってくれる人がいたら助かるけど、
いいのかな……2人ともあんなだし……。





「心配ないよ、ちょっと待ってて」


そう言ったが、後方に居た2人に何か耳打ちする。
すると、2人が急に猛ダッシュでこちらにやって来た。





「よっしゃ! 買い出し行くぞ、!!」

「荷物でもなんでも持ってやる」

「え? あの……」


急に元気になったんだけど、どうしたんだろう……










、何言ったの?」

「別に何も。
 お姉が荷物持ち居なくて困ってるって言っただけ」

「そう?」


それにしても、ものすごい豹変というか……

まぁ、でも元気になったから
細かいことは何も言わないほうがいいのかな。





「えっと、じゃあ……
 よろしくお願いします、銀さん、土方さん」

「おう!」  「あァ」

「気を付けて行ってくるんだぞ、ちゃん!」

「はい!」


近藤さん、、総悟くんと別れて、
あたしは2人と一緒に買い出しに出かけた。















〜、さっきあの2人に何言ってたんですかィ?」

「別に大したこと言ってないけど。ただ、」

「ただ?」


困ってるお姉を助けてあげたら、間違いなく株が上がるよね。





「そう言っただけ」

「へェ〜(まァ、あの2人になら効果抜群か)」

「いつまでも2人のことで気にしてたら、
 お姉が買い物楽しめないでしょ」

「まァ確かに」


もしかして、『最大の敵』はのことなんじゃ……

と、考えてしまった沖田総悟であった。



















土方十四郎VS坂田銀時


(よくよく考えたら、たかがおみくじだかんな!)

(そうだ、気にするこたァねェ)





(あんなに落ち込んでたクセに、よく言うよ)