※「君と一緒に。」設定のため、妹が少しだけ出ます。
「こんにちは〜!」
「ちゃん、いらっしゃい!」
「お邪魔します、近藤さん!」
「今日もトシの依頼か?」
「いえ、今日は……」
今日は、総悟くんからの依頼なんです。
「……っていうやり取りを、最近ほぼ毎日してるぞ?
大丈夫か、トシィ!!」
「うるせーよ」
バカでけェ声でそう言ってきた近藤さんを、
俺はテキトーにあしらって手元の書類に目を移した。
「……ん? 何かの報告か?」
「あァ……
最近妙な噂が立ってる旅籠屋についてな」
ホントならに頼もうとしていたが、
先約(総悟からの依頼)が入っているからと言われ……
仕方ねェから山崎に調査させていたものだ。
「必要な情報は、一応書いてあるんだがな。
どうにもの報告書に慣れちまって」
山崎の報告書が、すげェ見づれェと思っちまう。
「それだけちゃんに依頼してきたってことだな!」
「…………まァ、そーなるか」
改めて言われると照れくさいが、事実ではある。
腕もいいしな。
「彼女と話す機会が少なくなって、お前も寂しいだろう」
「別に、んなことたァ……」
「だから総悟の依頼と重なっちまう前に、
早めに依頼しておくんだぞ!」
「……いや、」
実はこれでも、早めに依頼してるつもりだ。
むしろ、こないだまでは直前に頼んでも平気だったのに、
ここ最近は急に総悟の依頼とかぶるようになってきた。
「頼む側にも、タイミングってもんがある」
これ以上早く依頼するのは……
そう考えたところで、近藤さんの方に視線を戻すと。
珍しく真剣な顔をして、何やら考え込んでいる。
「オイ、どーした近藤さん」
「あ、いやァ……俺、思ったんだけどさ」
もしかしてトシ、総悟に先回りされてないか?
+++
「副長ー! 山崎、戻りました!」
野郎の部屋のそばを通りかかったとき、
ザキのそんな声が聞こえた。
俺は野郎にバレないよう気配を消し、
その会話を盗み聞く体勢をとる。
「おう。で、どーだった」
「今回は前調査ってことで、
深くまではつっこんでませんが……」
どうやら、ザキに何か調査させていたらしい。
前調査って言ってる辺り、本調査はこれからだろう。
「あの旅籠屋、ほぼ黒でしょうね」
「やはりそうか」
本調査はこれから、ってーことは……
「引き続き調査しますか?」
「……いや、いい。
あとはに任せる」
「あー、なるほど!
確かに女性客の方が、向こうの警戒も薄まりますね」
「あァ」
思った通り、野郎はさんに依頼するつもりだ。
「だが、そうはさせねェ……」
盗み聞きを切り上げて、俺は静かにその場を離れた。
『はい、です』
「あっ、さん! 俺です!」
『こんにちは、総悟くん』
アドレスの中から目的の番号を引っ張り出し、
すぐさま電話を掛けると。
数コールしたのち、彼女の声が聞こえたきた。
「さん!
俺ちょっと、依頼したことがあるんでさァ」
『ホント? 嬉しいな。
えっと……まず予定の確認をするね』
「はい!」
彼女の言葉を受けて、俺は希望の日程を伝えた。
……野郎がいつ彼女に依頼するかなんて聞いてねェが、
行動パターンはだいたい予想できる。
よって、先回りして彼女の予定を抑えることは容易い。
『その日は空いてるから、お受けできそうです。
あと、依頼の内容を簡単に教えてくれるかな?』
「はい! 内容は……」
そして依頼内容をおおまかに伝え、
俺から彼女への依頼は成立した。
「……これでよし、と」
フッ……
野郎の悔しがる顔が目に浮かぶぜィ!
+++
「こんにちは〜!」
「おお、ちゃん、いらっしゃい!」
「お邪魔します、近藤さん」
いつものように声を掛けてから屯所に入ると、
今日も通りかかった近藤さんが出迎えてくれた。
「もしかして、また総悟からの依頼か?」
「はい」
よく解りましたね、と答えると、
近藤さんは難しそうな顔をして何か考え込んだ。
どうしたんだろう、と思いつつも、
次の言葉を待ってみる。
「いやァな……
総悟が君に懐いているのは、嬉しいんだが」
最近トシが、君に依頼したくても
タイミングが合わんらしくてな。
「君にも都合があるだろうから、強制は出来ないが……
もし良かったら、トシにも声を掛けてやってほしい」
「土方さんに……」
確かに……
最近総悟くんからの依頼が続いていて、
土方さんからの依頼は受けていない。
というか、依頼はしてもらってるんだけど、
何故か毎回総悟くんのと重なってお受けできないんだよね。
「……解りました、あたしからお声かけしてみます」
「おお! 本当か?」
「はい! 依頼を待つだけじゃなくて、
自分から取りに行くのも一つの方法かなと」
ありがたいことに継続的に依頼を頂いてる状況だけど、
そういうプロモーションみたいなことも、必要なのかも。
「トシは今日一日、部屋で書類を片づけるらしいぞ」
「じゃあ、後でお部屋を訪ねてみますね」
「あァ、そうしてやってくれ。
ありがとな、ちゃん!」
そう言ってあたしの頭をなでてから、
近藤さんは颯爽と屯所を出ていった。
「……さてと」
まずは、総悟くんからの依頼だね!
+++
「さん、ありがとうございやした!
今日もすげェ助かりました」
「いえいえ、どういたしまして」
依頼をこなしてくれたさんに、俺は素直にそう言った。
ちなみに今日の依頼は、
「書類の片付けを手伝ってほしい」だ。
危ねェことや重要なことを依頼してくる野郎とは違い、
俺は大した依頼はしていなかった。
それでも「依頼に大きいも小さいもないから」と言って
真摯に取り合ってくれるのが、この人の考える万事屋だった。
「それじゃ、次の依頼をお願いしてもいいですかィ?」
「あ、えっと……
次の依頼は、ちょっと待ってもらってもいいかな?」
ここ最近の野郎の行動は逐一チェックしているので、
俺はこの人が来るたびに直接依頼をしていた。
だから今日もそのつもりだったが、
予想外にいつもとは違う答えが返ってきて。
「先に、仮でお受けしてる依頼があって」
まだ仮だから解らないけれど、
もし決まればその依頼を受けることになるらしい。
「だから、その依頼主さんとお話した後でもいいかな?」
申し訳なさそうに言うさんを見る限り、
俺の依頼が多すぎて嫌になったわけじゃないらしい。
「総悟くんには、ここのところ贔屓にして頂いてて
すごくありがたいんだけど……」
まァ、俺よりも贔屓にしてた野郎の依頼を断ってまで、
先約の俺を優先してくれるような人だ。
その辺はきっちりしているだろうし、
そのことで妙な嘘をついたりはしないだろう。
「……解りやした。
じゃあひとまず、次の依頼は後ほどってーことで」
「うん、ありがとう総悟くん」
笑顔でそう言ったさんは、
「寄るところがある」と言って部屋を出ていった。
+++
もしかしてトシ、総悟に先回りされてないか?
近藤さんにそう言われ、
まさかと思いながらも調べてみれば……
俺の行動を予測し、わざとかぶるように
に依頼をしてることが解った。
(山崎に調べさせた)
「盗み聞きもしょっちゅうしてるっつー話だしな……」
つーか、それに気づかねェなんて俺も落ちたな。
……まぁ今は、そんなことはどーでもいい。
「例の旅籠屋の件……
やはりに頼むのが一番いいだろう」
とは言え、どうやって総悟に先回りされず
あいつに依頼をするか……
そこが悩みどころだ。
「……確か今日も、総悟の依頼を受けてるんだったか」
さっき外から戻ってきた近藤さんが、
そんなことを言ってた気がする。
「総悟の依頼が終わった頃合いを見て、
声をかけてみるか……」
そんなことを考えながら、
俺は再び書類の片付けを再開した。
「あの……土方さん、いらっしゃいますか?」
「……!」
もう少しで書類が全て片付く、というところで、
障子越しに声を掛けられた。
いつもなら「誰だ」と聞き返すところだが、
今日は必要なかった。何故なら……
「…………か?」
「はい」
そこに居るのが誰なのか、すぐに解ったからだ。
「お仕事中にすみません。
今、少しだけお時間いいですか?」
「……入れ」
了承の意を含めてそう言うと、
一声かけてからが入ってきた。
「どーした?
今日は総悟の依頼だって聞いてたが」
「はい、総悟くんからの依頼は今しがた終わって」
終わって、その足で訪ねてきたらしい。
「なんか急ぎの用か?
報告してもらうようなことは、特に無かったはずだが」
言ってから、俺はバカかと思った。
理由は解らねェが、こいつがわざわざ来てくれたんだ。
そんな言い方はねーだろ、と自分でツッコミを入れた。
「いえ、急ぎの用というか……
土方さんにお聞きしたいことがあって」
「なんだ」
「あの、ちょっと唐突なんですけど……
土方さん、何か依頼はありませんか?」
「……は?」
何の脈絡もなくそう言ってきたので、
俺は思わず聞き返してしまった。
いや確かに、「唐突だけど」と断りを入れてはきたが。
「屯所に着いてすぐ、近藤さんと会ったんです」
そのときに近藤さんから、
俺がに依頼したがってることを聞いたらしい。
「確かに、自分から依頼を取りにいくのも
必要なことなのかもって思って」
それに、ずっと贔屓にして頂いてる方の依頼を、
何度も断るのも何か違う気がして。
「それで、あの……
何か依頼があれば、と思って訪ねたんですが」
「……そうか」
急にやって来たときは、何かと思ったが……
近藤さんの言葉があったからとはいえ、
俺を気にしてくれたことは、素直に嬉しい。
「……じゃあ、悪りィが一つ頼まれてくれるか」
「……! はい!」
少し間を空けてからそう言うと、は嬉しそうに返事をした。
+++
「…………っつーワケだ。どうだ?」
「大丈夫です、任せてください!」
部屋を訪ねてから、数十分後。
土方さんの依頼を受けたあたしは、
その詳細について説明をしてもらった。
「お客さんのふりをして潜入ってところで、
ひとつ提案したいんですが……」
「あァ、なんだ?」
「女性の一人旅っていうより、
二人連れのほうが自然な気がするんです」
「……なるほどな」
確かに、と言って、土方さんが頷いてくれる。
「なので、誰かと一緒に潜入するのが
いいかなって思うんですが、どうでしょう」
「そうだな……そうするか」
となると、誰か協力してもらうか、だけど……
「えーと、じゃあ……に手伝ってもらっても?」
「あァ、構わねェ」
「良かった、ありがとうございます」
なら(いい意味で)真選組っぽさがないし、
潜入しててもボロは出ないだろうな。
「確かに、姉妹で旅行っつーのが一番自然でいいだろうからな」
「はい」
土方さんもあたしの意図を理解してくれたらしく、
が数日屯所から離れることを許可してくれた。
「それじゃあ、さっそくですがにこの話をしてきますね」
「俺から話してもいいが、自分で行くか?」
「はい、そうします。
そのまま作戦会議もしたいですし」
「そうか、解った」
そうしてあたしは、土方さんの部屋をあとにした。
+++
「総悟ってさ、なんで最近トシの邪魔してんの?」
とっくの昔に気づいていたは、
なんとなく気になったので総悟本人に聞いてみた。
「そうですねィ……」
考える素振りを見せたあと、
「まァには話してもいいか」とつぶやく。
「……何? ただの嫌がらせじゃないわけ?」
自分から聞いておいて何だけど……
結局いつもと同じ、トシへの嫌がらせかと思ってた。
それで、お姉に依頼しまくってるのかと思ってた。
だけど……
この感じは、何か違う気がする。
「俺も、本気で欲しくなっちまったのさ」
「何を?」
「さんを」
「……!」
さすがのにも予想外の言葉だったので、
必要以上に驚いてしまう。
「確かにずっと、姉上みたいに思ってたが……
最近はなんか違うと気づきましてねィ」
「…………」
「他の男と……特に野郎と話してるところを見ると、
無性に腹が立ってくるんでさァ」
まさか……
総悟が、お姉のことを……?
「……ま、そういうわけなんで」
「ちょっと、総悟!」
「そろそろさんがを訪ねてくると思うんで、
俺はこれで失礼しまさァ」
「総悟!」
の呼びかけをスルーし、総悟はさっさと立ち去っていった。
「…………マジでか」
ちょっと……
マジで何なの、この展開?
土方十四郎VS沖田総悟
(どちらにしろ「義兄」にはしたくないんですケド)