「…………」
まただ……
また、あの人は哀しそうな顔をしている…………
『景時さんっ!』
『ちゃん……どうかしたかい?』
ある日、どうしても気になったから聞いてみたのだ。
『景時さん……どうして最近、
いつも哀しそうな顔をしているんですか……?』
気付いている人は、居なかったと思う。
(……いや、弁慶さんは気付いていたかもしれない)
私の気のせいだったかもしれない、とも思った、けれど……
『…………』
ふいに訪れた沈黙は、
それが気のせいではないと私に伝えたのだった。
『何かあったんですか?』
『…………』
もう一度問いかけたが、答えは無かった。
『な、なんでもないよ、ただ……』
『……?』
『少し気分が良くないだけなんだ。心配かけてごめんね』
そう言って景時さんは立ち去った。
『…………うそだ』
彼は、嘘をつくのが下手だった。
――それ以来、彼に何度か同じことを尋ねたが、
そのたびに誤魔化されてしまった。
だから、結局何も解らぬままだった。
彼が何かで悩んでいるのは間違いなかった。
ただ、何に悩んでいるのかが全く解らない。
どうしたらいいか悩んで、
元いた世界から一緒にこの世界にやって来た、
私の親友・そして白龍の神子である望美に相談した。
すると、彼女は自分の秘密と共に
彼の抱えるものが何か教えてくれたのだ。
(しかし、それを話す彼女はとても苦しそうだった……)
……景時さんは、ゆくゆくは九郎さんを裏切るのだという。
しかしそれは事情があってのことで、
景時さんが自ら望んでいることでないのも、彼女は教えてくれた。
『私……この逆鱗を使って、何度も時空を越えた。
その中で、いろんな運命を見てきたの……』
そう言って、彼女はいつも大切そうにしている龍のうろこを見た。
『その運命の中の一つ……
その運命では、景時さんは頼朝さんにつくんだよ』
頼朝は、九郎さんが邪魔だと思ったのだろう。
私たちの知る歴史と同じ展開だから、驚くことは無かった。
だけど…………
景時さんが何も相談してくれないことが、私は哀しかったのだ。
『…………』
『ちゃん、どうかした?』
この世界に来たばかりで戸惑っていたとき……
私に声を掛けてくれたのは、彼だった。
『私たち……』
『……?』
『元の世界に帰れるのかな、って…………』
私の悩みを、静かに聴いてくれた。
『すごく不安だよね……でも、大丈夫だよ』
『え……?』
『俺たちも、君たちが帰れるように力を尽くすから……
一緒に頑張ってみない? ねっ!』
少しふざけている風にも見えたけれど、
それが彼なりのやり方だとすぐに解った。
『…………はい、頑張ってみます』
『うん、やっぱり笑顔の方がいいね』
笑みを浮かべながら言ってくれたその言葉が嬉しくて……
私の心は、軽くなったような気がした。
『景時さんも、何か悩みがあったら言ってくださいね』
『え?』
『私も、あなたがしてくれたように
相談に乗ってあなたの力になりたいんです』
今度は私が、と。そう思った。
『うん……じゃあ、その時はよろしくね』
『はい』
あの時のお返しがしたい……。
だから、何か悩んでいるなら力になりたい、それだけなのに。
“なんでもないよ”
彼は、一向に話そうとしない。
――景時さんから何も聴けないまま数ヶ月が過ぎた。
『その運命では、景時さんは頼朝さんにつくんだよ』
望美の言っていたことが、
現実になった。
「…………」
あれから色々あって、現在私たちは平泉に身を寄せていた。
「…………」
部屋に居た私に、遠慮がちに望美が声を掛ける。
「……一緒に時空を飛ぼう」
「え……?」
「だっておかしいよ、こんなこと……」
「…………」
“俺は神子の八葉である前に、頼朝様の御家人だ”
彼の決意は揺るぎなきものだった、けれど…………
どこか哀しそうにも見えた…………。
「は、景時さんの力になりたいんだよね?」
「うん……」
「だったら、もう一度過去に戻って景時さんの力になろうよ!」
でも……
「でも、何度問いかけても“なんでもない”って、
それしか言ってくれなかったのに……」
過去に戻っても、きっとまた同じ……
「また同じ状況にしかならなかったら…………」
私はっ…………
「……確かに、の言う通りになるかもしれない」
「…………」
「でも……はまだ、景時さんの力になりたいんでしょう?」
「……!」
そうだ、私は…………
“私も、あなたがしてくれたように”
あなたが私にしてくれたように……
あなたの力に、なりたい…………。
「やってみなきゃ、解らないよ。ね、一緒に戻ろう?」
「…………」
やってみなきゃ、解らない…………
「…………望美、力を貸してくれる?」
「……! もちろん!!」
そうして私は、望美の力を借りて共に時空を越えた――……
「……――景時さんっ!」
「ちゃん……どうかしたかい?」
「景時さん……どうして最近、
いつも哀しそうな顔をしているんですか……?」
私はまた、あの時空と同じことを聞いた。
「…………」
沈黙も、再び訪れる。
あの哀しそうな顔も、また……。
「な、なんでもないよ、ただ……」
「……」
「少し気分が良くないだけなんだ。心配かけてごめんね」
「…………」
ダメだ……
このままじゃ、何も変わらない……!
「景時さん!」
「……?」
「今すぐじゃなくたっていいです。
話してもいいと思えたら、私に話してください」
私は、ただ…………
「私はただ、あなたの力になりたいんです…………」
ただ、それだけなの…………。
「…………うん。
じゃあ、何かあったら必ず君に相談するよ」
そう言い残し、彼は今度こそその場から去っていった。
「…………」
“必ず君に相談するよ”
「前と、少し違ってた…………」
もしかしたら、私は……
今度こそ彼の力になれるかもしれない。
「景時さん……力に、なりたいだけなんです…………」
ただそれだけを思い、私は目を閉じた。
落ち着いたら、私の背中を押してくれた親友にも伝えよう。
――――私は、絶対に諦めたりしないと。
いつか、きっと
(あなたの幸せを願うから 私は諦めたりしない)
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わたしにしては珍しい(?)景時さん夢でした。いかがでしたか?
好みは人それぞれですので何とも言えませんが、
わたしは十六夜ルートの方が好きですね、景時さん。
ただ、最後のところで、突然EDになってたので驚きました。
その間は、どういう感じだったんでしょうか……。