『私、ちょっと旅に出るね』


なんでだよ。急にどうしたんだ。





『急じゃないよ、ホントはけっこう前から考えてたの』


旅に出ることを?





『うーん、ちょっと違うかな』


じゃあ、何を考えてたってんだ。

悩みでもあるのか? 
だったら俺に相談しろよ。





『悩みっていうのとも、違う気がする』


何だ……
それじゃあ、いったい何が言いたい。










『自分でもよく分かってないの。
 だからね、それを探すために、旅に出ようと思う』


それは……旅に出ないと探せないのか?





『ここは居心地が良すぎて、見つけられないから』


意味がわからねェよ……。





『うん、私だってよく分からないもの』


ここが……
真選組が嫌になったわけじゃないんだな?





『違う違う、ここは大好きだよ。
 もちろん、みんなのことも』


……そうか。





『探し物を見つけたら、私は必ず戻ってくるから。
 だから、待っててくれる……?』


…………。





『やっぱりダメ、かな……』


いや……










『ここでずっと待ってる……
 だから、気の済むまで探して来いよ』


お前の見つけたいものを。





『ありがとう、トシ…………』
















目を覚ますと、そこは屯所の自室だった。





「…………」


あの時のことを夢に見たのは、初めてかもしれない。





『トシ』


夢の中で俺をそう呼んでいた女は、俺と同じ真選組隊士である
1年前まで、ここで一緒に仕事をしていた。

別に除隊したわけじゃねェが、今はここに居ない。





『私、ちょっと旅に出るね』


あいつはそう言って屯所を出て行った。
何故かは分からない。

納得できなくて問い詰めたりもしたが、
自分でも明確な理由がないようだった。





『じゃあ、除隊じゃなくて長期休暇ってことにしとくから』

『はい、ありがとうございます』



近藤さんはそう言って、あいつを快く送り出した。

俺には、到底そんなことは出来なかった。





『ここは大好きだよ
 もちろん、みんなのことも』



じゃあ、なんでだ……
なんでここから……俺のそばから離れた?





「なんでなんだよ……」










『待っててくれる……?』


ああ、ここで待ってる。

待ってるから、早く戻ってきてくれ……


――……




















その日の夜。

俺は片付けなきゃならねェ仕事もしないで、
なんとなく縁側に座り込んでいた。





「……チッ」


どうにも感慨にふけっちまって、
全く仕事に集中できねェな。





……」


その名前が、無意識に口から出てきた。










「……トシ?」

「……!」


誰も居ないはずだった。
だから、返事がくるなんて思ってもみなかったんだ。





「お前、……」


返事をしたのは紛れもなく……
俺が、ずっと待っていた女だった。





「ただいま、トシ」

「あ、ああ……」


夢じゃねェ、が目の前にいる。





「どうしたの?
 いつもこの時間は、必死に書類と格闘してるのに」

「あ、いや、その、なんだ」


お前のこと考え出したら、
集中できなくなったなんて言えねェし……










「もしかして、寂しかった?」

「……!」


なんで、こんなときに限って勘がいいんだよ……。





「適当に言ってみたんだけど……
 あながち間違いでもなかったみたいだね」

「……チッ」


なんとかごまかせないかとも思ったが、
どうやら無駄なあがきみてーだな。





「俺のことより、お前はどうなんだ?」

「え?」

「探し物とやらは見つかったのかよ」

「あ……うん、おかげさまで」


どの辺が『おかげさま』なのかは知らねェが、
探し物は無事に見つかったらしいな。

まァ、だからこそ帰ってきたんだろうが。










「待っててくれたんだね、トシ」

「俺にはここしか居場所がねェからな」

「私も……私にとっても、ここだけが居場所なの。
 だから、ちゃんと戻ってきたし」

「……あァ」


がそう言いきったことが、嬉しくて仕方がない。


心のどこかで「あいつは帰ってこないんじゃねェか」
なんてずっと思っていた。

情けねェ話だが……ずっと、不安だった。









「これからもよろしくね、トシ」

「あぁ」

言われなくても解ってる。















「…………なァ」

「ん?」

「結局、探し物って何だったんだ?」


そこまでこいつを駆り立てるものだったのか。

あえて聞かないでいたが、やっぱり興味はあった。





「……まァ、無理に言わなくてもいいが」


個人的なことかもしれねェしな。










「えっと……
 私が探してたのは、トシへの気持ちだよ」

「なっ……」


なんだよ、それ……。





「トシのことどう思ってるのか、
 自分でもよく分からなくなっちゃって」


だから、少し離れてみようと思ったの。





「…………」

「旅に出る、というのは一つの手段だった。
 離れられるなら、別の方法でも良かった」


なんだよ、それ……
結局お前は……何が言いたいんだよ。










「えっと、最終的に何が言いたいかっていうと、」


私やっぱり、トシのことが好きなんだなって。





「少し離れてみたらね、
 やっとこの気持ちに自信が持てたから」


だからこうして、帰ってきたんだよ。





「……俺は、」

「うん」

「お前が旅に出るずっと前から、お前のこと好きだった」


1年も会えなくて、どんなにつらかったか……





「うん……寂しい想いさせちゃってごめんなさい」


これからはもう、離れたりしないから。





「ったりめーだ」


もう離さねーよ。

何があってもな。




















君を待つ場所で ずっと君を想っていた


(そんな日々も、今日で終わりだな。)















+++++++++++++++++++++++++++++++

土方さんの短編、修正しました。
なんかこれも、何を書きたかったのか……

まあ確かに、近くに居すぎると見えないこともあるので
離れる選択肢はいいと思うんですけど。

自分の書いたものながら、たまに「???」なときがあります。