「あ、あの、一さん……少し、いいですか?」







          出先から戻ると、先日夫婦の誓いを交わした相手――千鶴が、
          少し言いにくそうにしながら俺に話しかけてきた。
          どうしたのかと聞くと、何か悩みがあると言う。















          「何だ?遠慮せずに言ってみろ」







          おそらく彼女は、悩みを相談して俺に迷惑がかからないかだとか、
          そんなことを考えているのだろう。
          新選組で生活し始めた当初も、
          周りに迷惑がかからないようにと、彼女は必要以上に気を配っていた。










          しかし、今、俺に話を切り出したのは彼女自身だ。
          それ故か、少し間を空けはしたもののその悩みとやらを話し始めた。




















          「実は……最近、誰かに見張られている気がして」

          「見張られている、だと?」

          「はい……」







          まだ、新選組に居た頃なら、彼女が見張られていることもよくあった。
          だからそのときなら、それは仕方のないことだ、と言えただろう。










          だが、今の俺たちは新選組に居るわけではない。
          二人で共に歩む道を選び、ここに居るのだ。







          それなのに、見張られているだと……?















          「何故……」







          俺はつぶやくように言ったのだが、彼女にも聞こえていたようだ。
          私にもよく解りませんが、という答えが返ってきた。



















          「一さんと一緒に居るときは、全然そんな感じはしないんです」







          俺が留守にしているとき、
          一人になると誰かに見張られている感じがすると言う。















          「なるべく気にしないようには、していたんですけど……
           やっぱり、少し恐くて」







          一人で居るとき誰かに見張られているなど、恐くないはずがない。
          それなのに、彼女はそれに気づいてもすぐには言わなかった。










          気を、遣わせてしまったようだ……。















          彼女を守りたいと思った自分が逆に気を遣われてしまうなど、
          あまりに不甲斐ない事実ではあった。
          ……しかし、今はそれを気にしている場合ではない。




















          「その“誰か”が何者なのか、見極める必要がある」







          もしかすると、彼女を狙う不当な輩かもしれん。
          彼女はその、とても……き、綺麗だからな…………。



















          「でも、一さん……見極めると言っても、どうやって……?」







          別の場所に意識がいきかけていた俺は、彼女の声ではっとなった。















          ――そうだ、今は彼女の魅力を語っている場合ではない。
          いや、彼女に魅力が無いというわけでは……むしろ、とても魅力的だ。
          それ故、俺と夫婦の誓いを交わしたというのに
          言い寄る男が後を立たないようだからな。
          彼女自身は言い寄られていることに気づいておらず、それも厄介だ。
          かと言って、俺が四六時中そばに張り付いているわけにも…………




















          「あの、一さん……?」







          今度は完全に別の場所に意識がいっていた俺を、彼女が呼び戻した。















          「す、すまん、考え事をしていた」

          「そうですか……良かった、具合が悪いのかと思いました」







          ほっとしたように、彼女が微笑む。










          そうだ、俺は……彼女を、彼女を笑顔を、守りたいんだ…………。















          俺は落ち着くためにゆっくりと深呼吸をし、彼女に言う。




















          「千鶴、その見張っているという“誰か”については、俺に任せてくれ」

          「は、はい。……私も何かお手伝いしましょうか?」

          「いや……必要ない。お前は、普段通りに過ごしていてくれ」







          具体的にどうするのか説明しない俺を、彼女は心配してくれているようだ。
          だが、俺はあえて詳細を話さなかった。
          ……凝った策など、必要ないと思ったから。















          「とにかく、お前のことは俺が守る。安心してくれ」

          「一さん……」







          彼女の手を握り、しっかりと目を見据えてそう言った。















          「私……一さんを信じて、待ってますね」







          そう言った彼女の笑顔からは、ようやく不安が消え去ったように見えた。



































          ――翌日。
          昨日と同じように、俺は出先から彼女の待つ場所までの道を歩いていた。
          ……ただし、昨日と違うのは、己の気配を消していること。










          彼女と共に暮らし始めた当初、己の気配を消して帰った。
          ……いや、わざとではなく、これはもう癖のようなもので。
          しかし、そのせいで彼女を必要以上に驚かせてしまったようだ。
          それ故、出来るだけ気配は消さずに帰るようにしている。







          ……しかし、それもまた難しいことではあったが。




















          とにかく、今日は気配を消して帰ることで、
          彼女を見張っているという“誰か”が何者なのか、見極めるつもりだった。
          だから、彼女には普段通りに過ごしていてくれ、と言ったのだ。















          「早く、千鶴を不安から解放してやらねば……」







          いくらか早足で、しかし気配を悟られぬよう、彼女が待つ場所まで歩みを進める。















          すると、そこに人影があった。



















          「あれは……まさか…………」







          己の目を疑った。




















          「フン……今日は気配を消していたのか。
           いつもはだだ漏れだったから察知できたが、今日は失敗だな」







          そんなはずは、ない。
          俺はあのとき確かに、この男――風間千景を、倒したはずだ…………。










          生きて、いたのか…………?



















          「貴様……何故ここに居る?」

          「決まっているだろう?我が嫁となる者を攫いに来たのだ」

          「嫁、だと?」







          何を言っているのだ、この男は……



















          「一さん?帰ってきたんですか……?」







          俺が考え込んでいると、声を聞きつけたのか、
          千鶴が戸を開けて外に出てきた。














          「え、……風間さん!?」







          彼女も、その男の存在に驚きを隠せないでいる。















          「見つかってしまったか……だが、いい。
           幸せを目指す過程に立ちはだかる障害というのも、一興だからな」







          風間は、何やら一人でぶつぶつと言い始めた。
          ……どうやら、己の世界に入り込んでいるようだ。




















          「一さんっ……どうして、風間さんが?」

          「俺にも解らん」







          一人で浸っている風間の隙を狙い、俺は彼女を守るべくその距離を縮めた。















          「この男……どうやら、生きていたようだな。
           それに、頭の方もおかしい」

          「あ、頭?」







          俺の言葉に、彼女は戸惑っているようだ。
          だが、他に説明のしようもない。




















          「そういった障害を乗り越えてこそ、二人は幸せになるのだ」







          風間は、未だに妙なことを口にしている。




















          「千鶴……俺から、離れるな」

          「は、はい」







          この男がいつ妙な真似をするか解らない。
          俺はその場で、彼女を守るように、
          しかし風間の動きにも対応できるような姿勢をとった。




















          「フッ……どうやら、長々と話し込んでしまったようだな」







          話していたのは、貴様一人だ。














          「ここで貴様を倒し、千鶴を攫ってもいいのだが……
           しかし、それも簡単すぎて興に欠ける。今日はこのまま退くことにするぞ」







          そう言った風間は、そのまま立ち去った。




















          「…………何だったんでしょうか?」

          「解らん……
           とにかく、最近お前を見張っていたのは、あの男だったということだ」

          「え?風間さんが?」

          「ああ」







          嫁がどう、とか言っていたな……
          あの男、未だに千鶴を狙っているということか?















          「あの口ぶりでは、あの男はまたお前のもとに現れるかもしれない。
           俺も出来るだけお前のそばに居ようと思うが、お前自身も気をつけてくれ」

          「はい、解りました」















          ……それ以降、頭のおかしい風間を追い払うことが日常となってしまった。

























こんなことになったのは、






(何故…………?)

































     +++++++++++++++++++++++++++++++++

       あとがきで失礼します!
       友人の伊織に、相互記念として書いてみたけど見事撃沈……!
       薄桜鬼では特に斎千が好きなので書いてみたんですが、
       なんかギャグになりきれないギャグで終わりました。
       しっとりとしたお話はきっと伊織が書いてくれるので、
       あたしはあえてギャグでいきたかったのですがね……。

       で、最近の風間様の暴走がひどい感じなので
       便乗してみたんですが、ダメでしたね……。

       こんなもので申し訳ないけど、伊織にお返しとしてプレゼント!
       もちろん返品もおっけーです。
       (伊織以外の方のお持ち帰りは、ご遠慮ください)
       珍しく(?)ツッコミ側にいる斎藤さんにご注目!
       そして、大好きな「何故」というセリフもちゃんと使ってますよ(笑)