「おーい、ちゃん!」
改札を出ると、ふと名前を呼ばれた。
声のしたほうに目を向けると、
「こっちや」と手招きしてくれる姿があった。
「白石くん、財前くんも……わざわざありがとう」
「気にせんでええて」
「そうっすわ、俺はただの暇つぶしやし」
でも、そう言いながらも、
さりげなく気遣ってくれるのが財前くんだ。
会う機会は少なかったとはいえ、
今までのやり取りでその辺も少しは理解したつもり。
隣に居る白石くんも同じようなことを考えたのか、
目で合図すると優しい笑みを浮かべて頷いてくれた。
「謙也は先に行くー言うてたわ」
「そうなんだね」
「俺らも行きますか?」
「うん!」
二人に続き、あたしも歩き出した。
「そやけどさん、えらい荷物少ないっすね」
「まあ、普通に考えて全部持ってくるの無理だしさ。
最低限だけ持ってきて、他は後から届くようにしといたんだ」
「まあ、それが妥当やな」
歩きながらそんなことを話す。
そうしているうちに、いつの間にか目的地に着いていた。
「何階やったっけ?」
「えーと、……5階、だと思う」
「なんで曖昧なんすか」
「だ、だって一度しか来たことないし!」
あたしたちがやって来たのは、
駅からそう遠くない場所にある、とあるマンション。
ここの一室で今日からあたしは……
否、あたしたちは新生活を始めるのだ。
「あれ、ドアが開いてる……」
そっと部屋の中をのぞいてみると、
バタバタと走り回る音が聞こえた。
「……一応インターホン鳴らしたほうがいいかな?」
「いや、そこは普通に必要ないっすわ」
自分の家やろ、という財前くんの呆れた声は聞こえてたけど、
やっぱなんとなく……ちょっと鳴らしてみよう。
ピンポーン
「はーい……
……って、オイ! なんで自分が鳴らしとるん!?」
「い、いや、なんとなく……」
インターホンの音に気づいて玄関までやって来た謙也くんが、
盛大にノリツッコミを入れた。
「謙也さんと同意見なのは微妙やけど、俺もそう思いますわ」
「微妙ってどーゆーことや財前!」
「そのままっすけど」
「オイ!!」
なんて、二人の漫才(?)がまた始まってしまったのを
白石くんがさっきと同じような優しい顔で見ている。
(てゆーか、白石くんって案外止めに入らないよね。)
「ちょっとぉ、何してはんねん、二人ともぉ!
蔵リンも、眺めてないで止めたってぇな」
騒ぎを聞きつけて中から現れたのは、
色々相談に乗ってもらっていた小春ちゃんだ。
「って、ちゃん!
来てたんなら声かけてほしいわぁ」
「ごめんね、小春ちゃん。
それと、手伝いに来てくれてありがとう!」
「いえいえ、いいのよぉ!
ユウくんとも一緒にいられるしね♪」
「そっか」
それなら良かった、と、小春ちゃんと笑い合った。
「とにかく!
こんな玄関先で喧嘩してたらご近所迷惑やし」
「そやな、早いとこ中に入れてもらおか」
小春ちゃん、白石くんの言葉により、
あたしたちも部屋の中に入った。
「そーいや金ちゃんと銀、小石川は?」
「三人なら買い出しに行ってるわよ」
「オサムちゃんも、昼過ぎには来れる言うてたな」
どうやら、今日はみんな集まれるみたいだ。
久しぶりにみんなで顔を合わせられるから、
ちょっと楽しみだな。
「とにかく、や。
三人が戻ってくるまでに、ここいらの荷物だけでも片付けな」
「そうね、ユウくん!」
「自分が住む場所なんだし、あたしも頑張るね!」
「ええ、その意気よ、ちゃん!」
そんなこんなで、いろんな荷物で散らかっている部屋を、
みんなで手分けして片付けていった。
「みんな、今日はありがと!」
「気にせんでええよ、ちゃん」
「またなんやあったら、いつでも声かけてね♪」
「俺は小春と一緒に呼んでくれるんやったらええで!」
「先輩まじキモいっすわ。
まあ……おもろいことがあれば、声かけたってください」
「困ったことがあれば、助けに来ます」
「遠慮せんでええからな」
「まあ、仲良うやれよ、お二人さん」
「ほなまたなー、謙也! ちゃん!」
「おう、みんなおおきにな!!」
そう言った謙也くんに、みんな手を振って答えてくれた。
「ほな……俺らも、戻るか」
「うん!」
あの部屋が、これから二人で暮らしていく場所なんだ。
改めてそう思うと、
なんだか嬉しくてにやけてしまった。
「なにニヤニヤしてん」
「ううん、なんでもない」
不思議そうにする謙也くんの手を、ぎゅっと握る。
「今日からよろしくね、旦那さま!(笑)」
「お、おおおおう! ま、ま、任しとき!!」
「あはは」
相変わらず照れ屋さんの謙也くんは、
今日もまた顔を真っ赤にしていた。
この場所から、君とこの道を歩いてゆく
(それが本当に嬉しくて、またにやけてしまうのだった。)
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サイト7周年企画・一発目は謙也でした。
今回のコンセプトは、
「現実的に考えて一番自分に合っているキャラは誰か?」
だったらしいのですが、正直テニプリは
未だに誰が一番合っているのか分かりません。
またあとで、別の子でも書いてみたいです。