「はーらーだーせーんーせー、いらっしゃいますか〜〜!」





          「おい……もっと普通に呼べねぇのか」

          「あ、原田先生! どうもです」

          「ったく……」


          あたしの行動にため息を漏らしているこの人は、
          うちの高校で数学を担当している原田左之助先生。

          格好よすぎる見た目のためか、男気あふれる性格のためか、
          女子生徒たち……いや、女性教諭たちにも大人気の先生である。







          「で、何の用だ?」

          「解らない問題があるんで、教えてくださーい」

          「解らないって……
           そりゃあ、お前が授業中、真面目にやってないからだろ」


          あたしの言葉に、先生は再びため息を漏らす。







          「真面目にやってるじゃないですか!
           居眠りだってしてないし、先生の話もちゃんと聞いてるし」


          居眠りしている男子連中に比べたら、ちょー真面目じゃないですか。
          あたしがそう言うと、先生は苦笑を浮かべた。







          「確かに居眠りもしてねぇし、俺の話もまあ、半分くらいは聞いてるわな」

          「でしょー!? あたしは至って真面目ですよ〜」

          「変な方向に真面目になったって、 
           授業でやってることは頭には入らねぇよ」


          変な方向、というのは、あたしとしては心外なんだけど、
          先生にとっては、そう思えることみたい。

          まぁ、確かに数学の時間にいろんなこと質問してるけど。
          例えば今日なんかは…………










          『じゃあ、このページにある練習問題をやってみろ。
           とりあえず5分だけ時間を取る。解らなかったら俺に聞くようにな』





          『原田せんせー!』

          『どうした、

          『質問でーす』


          あたしがそう言ったから、
          先生は数学の問題について質問されると思っていたみたい。

          だけど、あたしは全く別の質問をした。






          『せんせー! 愛って何ですかー?』

          『…………はぁ?』

          『だーかーらー、愛って何ですかー?』


          その後、原田先生はものすごくめんどくさそうな顔をした。
          で、明確な答えももらえないまま、あたしの質問はスルーされたのだ!







          「あんな質問にいちいち答えてたら、キリがねぇよ」


          あたしの考えていたことが解ったようで、先生はそんなことを言う。



          …………ちなみに、それ以外の質問では、
          パイナップルはどうやって生ってるんですか、とか
          愛と金はどっちが大切なんですか、とか。






          とにかく、簡単に言えば、
          あたしがいつも数学にあまり関係ない質問をしているので、
          先生は呆れているらしいのである。










          「そういうことばっか考えてっから、
           数式が頭に入っていかねぇんだよ、お前は」


          そうやって悪態をつく原田先生だけど、
          それでも優しいってこと、あたしは知ってるんだ。
















          「…………ま、赤点取られても困るしな。ほら、行くぞ」

          「やった! ありがとうございまーす」


          ほらね。先生は、最後にはちゃんと教えてくれるんだから。







          「……あれ?でも、職員室じゃないんですか?」


          職員室から出てきた先生は、そのままどこかへ移動する感じだ。
          いつも職員室で見てくれるのに、どうしたんだろう?


          またもやあたしの思ったことが解ったらしい先生は、
          ちょっと困ったような顔をして説明してくれた。








          「テスト前だから、中には入れねぇだろ?」

          「あ、そっか!」


          そう、うちの高校では、
          テスト前になると生徒は職員室に立ち入り禁止となるのだ。

          だから、どうやら原田先生は場所を移動してくれるらしい。

          そして、先生に連れられてやってきたのは、数学準備室だった。







          「てか、数学の準備室なんてあったんだ!」

          「……お前、今年何年生になったんだ?」

          「高校3年でーす!」


          3年になろうが、知らないものは知らないんですよー。
          あたしがそう言うと、先生は再び呆れたようだった。














          「はぁー……いつまでも漫才やってたら進まねぇしな。
           とっとと始めるぞ」

          「漫才とは失礼ですね!」


          あたしのそんな抗議も、先生にとってはどうってことないみたい。






          「で、どこが解らないんだ?」


          ……またほとんどスルー状態で本題に入ってしまったからね。






          「え、えーとですね……」


          だけど、あたしも赤点だけは取りたくないので、
          そこからはちゃんと本題に入っていった。






















          「やったー! 解らなかったところ、全部解りました!」

          「良かったな」


          先生の教え方が上手いからですね、と言うと、
          先生はお前が頑張ったからだろ、と言って頭を撫でてくれた。






          「そんな感じで、あたしの質問にも答えてくれればいいんですがね〜」

          「何言ってんだよ」


          先生って、意外にケチかもしれない。















          「…………けどお前、なんでいつも変な質問してくるんだ?」

          「変な質問ってひどいですね!」

          「本当のことだろ」


          そんな即答しなくても!

          ――うん、でも、そうだな…………






          「原田先生なら、答えてくれると思ったからかなぁ……」


          あたしは、数学が苦手。
          別に、嫌いってわけではないと思うけれど、得意じゃない。

          だから、普通の人なら解る基礎も、
          いちいち説明してもらわないと理解できない。



          だけど、そんなあたしにも、原田先生はちゃんと説明してくれる。
          絶対めんどくさいはずなのに、一から教えてくれる。

          そんな先生だから、あたしの質問にちゃんと答えてくれるって
          あたしは自然とそう思ってるんだろうな…………。














          「……愛が何なのか、そんなに知りたいのか?」

          「え? まぁ、そうですね〜」


          みんなで討論しててもいい答えが出ないから、
          知りたいかって言われたら、そりゃあ知りたいかなぁ。






          「じゃあ、教えてやるよ」

          「え、本当ですか!?」


          やった!






          「ただし、教えるのはお前が卒業するときだ」

          「え、そのときまでは、秘密なんですか?」

          「そういうことだな」


          えー、そんなもったいぶらなくてもいいのに。

          あたしがそんなことを言ったら、
          そのくらい待って当然な質問なんだよ、と先生は言った。


          よく解らないけれど、卒業するときに教えてくれるみたいだし。
          急いでるわけじゃないから、それでいいかな?












          「じゃあ、せんせー! あたし、そろそろ帰ります」

          「おー、気をつけて帰れよ」

          「はーい、ありがとうございました〜」


          そうしてあたしは、数学準備室を後にした。




















          「…………相変わらず変な奴だな」


          だけど、その変な奴に惚れてる俺の方が、もっと変な奴だよな。





























答えは、また後で


(卒業を迎えた彼女の、驚く顔が目に浮かぶ気がする)

























   ++++++++++++++++++++++++++++++++

      数学担当・原田左之助せんせーですよ!!(何
      ちょー格好よくないですか、こんな先生いたら!
      絶対職員室に入り浸るな!(オイ

      追記
      これ、公式設定だと何の先生でしたっけ……?
      わたしの好みでここでは数学になっていますが、
      なんか違った気が……^^;