「それでは、行って参ります」
「うん、気をつけてね」
「面倒、だな……」
「いいから行くの!」
その日、朝早く二人を迎えに将臣くんがやって来た。
これから出かける三人を、あたしは玄関で見送る。
「じゃあまた後でな、」
「うん。よろしくね、将臣くん」
「ああ、任せとけよ」
そうして、将臣くんに連れられ兄弟は家を出た。
「…………よし!」
将臣くんに二人を連れ出してもらう……
これは、あたしたちが立てた「作戦」の一つだった。
というのも、今日は知盛の誕生日、明日は重衡の誕生日で。
二人の誕生パーティを今日まとめてやっちゃおう!
と思い立ったのが発端。
『せっかくだから、みんなで盛大にやりたいんだけど……』
あたしのその提案に対し、望美ちゃん、将臣くん、譲の三人は
嫌な顔ひとつせず賛同してくれた。
そんなわけで、パーティの準備をする時間を作るため
将臣くんに兄弟を連れ出してもらったのだった。
「さん、おはようございます!」
「おはようございます、さん」
「あ、おはよう、望美ちゃんに譲!」
出かけた三人の姿が見えなくなったのを見計らったかのように、
望美ちゃんと譲が現れる。
どうやら将臣くんと一緒に来て、そばに隠れていたらしい。
「二人とも朝からありがとね」
「いえ、気にしないでください。
それより、先に買い出しに行きましょう」
「うん!」
あたしもすぐに出かける準備をし、二人と一緒に買出しに出かけた。
「じゃあ、さっそく準備しましょうか」
「うん!」
「了解!」
譲のアドバイスにより効率よく買い出しを終え、
あたしたちは家に戻ってきていた。
「分担はどうしましょうか」
「うーん、そうだなぁ……」
とりあえず、望美ちゃんに料理をさせるわけにはいかないし……
「ええと……せっかくだから、あたしは料理担当したいな。
得意じゃないからちょっと心配だけど」
よろしくお願いします、譲先生!
あたしがそう言うと、苦笑しながら「はい、頑張りましょう」と返してくれた。
「じゃあ、お料理担当はさんと譲くんですね。
私は部屋の飾り付けとか、
その他のセッティングとかやっちゃいます!」
「う、うん、よろしくね!」
そう言った望美ちゃんは、鼻歌交じりにリビングの方へ去っていった。
そんな彼女の姿を見てから、あたしたちは顔を合わせて苦笑する。
「とりあえず、望美ちゃんをうまい具合に料理担当から外せたね」
「はい……本当に良かったです」
心底ほっとしている譲を見て
「その反応って裏を返せば失礼なんじゃ?」
と思いつつも、効率よく進められる流れを確認し、
あたしはさっそく準備に取り掛かった。
「……っと、」
あれからいくらか時間が経った頃、ケータイが鳴った。
チェックしてみると、望美からのメールで……
準備がだいたい出来たからそろそろ帰ってこい、とのことだった。
「……なんだ?」
それを二人に伝え、ウチまで戻るか、という話になったとき……
近くから、嫌な気配を感じた。
これは、まさか……
けど、なんでここに……?
「……有川」 「将臣殿、これは……」
知盛と重衡が、ほぼ同時にそう言った。
どうやら、二人も気づいているらしい。
「まさかとは思ったが、お前らもそう感じたか」
だったら気のせいじゃねぇよな。
俺がそう言うと、さっきまでとは違う雰囲気を纏った二人が無言で頷く。
「この方向は鶴岡八幡宮だ……行くぞ!」
「はい」
向かいながら望美にも電話しとくか……。
「……ん?」
料理の方が一段落して、
望美ちゃんと一緒にお皿やコップをセッティングしていると。
どこからかメロディーが聞こえてきた。
「望美ちゃんのケータイ?」
「はい……ちょっとすみません」
そう言ってケータイを手にしディスプレイを見た望美ちゃんは、
「将臣くんからの電話です」と教えてくれたあと、通話ボタンを押した。
「もしもし、将臣くん?」
うん、うん。そう、だいたい準備も出来てきたから、そろそろ帰って……
…………えっ?」
と、将臣くんと会話していた望美ちゃんが、そこで表情を一変させた。
「何それ、どういうこと!?」
将臣くんの言葉に、望美ちゃんは妙に慌てている。
何かあったのだろうか?
「うん、うん……
そうだね、原因は解らないけれど
とにかく私たちもそっちに向かうね!」
そうして望美ちゃんは、電話を切った。
彼女が説明してくれるのを待とうとあたしが黙っていると、
信じがたいというような顔をしながら、望美ちゃんは言う。
「鶴岡八幡宮に、怨霊が現れたみたいです」
「将臣くん! 知盛、重衡!」
鶴岡八幡宮についてすぐ三人の姿を見つけたあたしは、その名を呼んだ。
「おう、、望美、譲。
悪りぃな、忙しいときに呼び出しちまって」
「別にいいって!
それより怨霊ってどういうことなの?」
あたしが問いかけると、将臣くんはその先を目で指して言う。
「どうもこうも、俺たちにもよく解んねぇよ。
嫌な気配がしたから来てみれば、やっぱりなって感じだ」
指し示された先には、確かに怨霊の姿があった。
そこまで手ごわいものではなさそうだが、それでも雑魚というわけでもない。
つまり、戦えばそこそこ手のかかるやつ、といった具合だ。
「とにかく、ここで足止め食らってる場合じゃないですよ」
準備もまだ完全には終わってないし、と、望美ちゃんが言う。
「先輩の言う通りですね」
まだ料理も最後まで出来てませんよ、と譲が続ける。
「そうだね……
こんな奴、さっさと倒して帰らないと!」
既に武器を構えているみんなに続き、あたしも武器を構えた。
「かのものを封ぜよ――……」
その後あたしたちは確実に怨霊を弱らせ、
最後に望美ちゃんに浄化してもらって事なきを得た。
「それにしても、いきなり怨霊だなんてびっくりしましたね〜……」
「本当にね。
せっかく準備してたのに、途中で放り出してきちゃったし」
ほぼ準備できていたとはいえ、まだ途中だったのには違いない。
これから完了させるとなると、さらに時間が必要になってくる。
望美ちゃんからのメールで将臣くんたちは帰ろうとしていたわけだし、
これ以上はごまかすのも難しいだろう……。
そう思ったあたしは知盛と重衡の方に向き直り、事情を説明することにした。
「……というわけだったの」
「そう、だったのですか……」
予想もしていなかった、という顔をしてそう言った重衡。
知盛は相変わらず口に出さないが、
やはり驚いているような雰囲気は感じられる。
「でも、ごめんね。
結局中途半端なサプライズにしかならなかった」
申し訳ないと思いながら、そう言うと。
二人はあたしのそばまでやって来て、
知盛が右手側、重衡があたしの左手側に立った。
なんだろう、と思いながら、二人を交互に見る。
「我々のことを祝おうとしてくださったあなたのその御心こそ、
何よりも嬉しい『ぷれぜんと』でございます」
「それに、宴の席が整うまで待てばよいのだろう?
俺はその間、ゆっくり眠らせてもらうさ」
「重衡……知盛……」
――ああ、もう。
本当にこの二人は、優しい。
あたしはいつも、その優しさに救われていたのだ。
……けど、だからこそ二人のことはあたしが救いたいと思ったし、
だからこそこの先を一緒に生きていこうと決めたのだ。
やっぱりその決断は、間違ってなかった。
あたしは改めて、そんなことを思ったのだった。
「それじゃあ……
さっさと帰って準備の続きしましょう!」
「そうですね」
「だな」
望美ちゃんの言葉により、譲と将臣くんと三人が歩き出す。
――やっぱり仲間っていいよね。
「様」 「」
そんなことを考えていたとき、ふいに名を呼ばれ二人の方を見ると。
「帰りましょう」 「……帰るぞ」
同時に手を差し出されたので、あたしは両手でその二つの手をとった。
「うん、帰ろう!」
あたしたちの家へ。
そして、ちょっと予定が変わっちゃったけれど、
準備を整えてパーティをしよう。
あなたたちが生まれた、大切な日を祝うパーティを――……
今宵は花の宴
(その花は 他でもない《あなた/お前》だ)
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重衡と知盛のバースディ夢でした! いかがでしたか?
とりあえず今回は、うまくお祝いできないパターン?にしてみました。
毎度毎度誕生日を祝うときスムースに行くので、
今回ちょっとうまくいかなかったパターン。
余談ですが、モンブランは勝手なイメージです;