「ヅラ!」
「ヅラじゃない、桂だ」
「今日は重要な行事がある。
夕方から夜にかけて空けといてくれよ!」
そう言うと、ヅラは思案顔になる。
「今から出掛けるつもりだったのだが、
夕方には帰ってくればよいのだな?」
「そうだな……」
ヅラが居たんじゃ、堂々と準備もできないしな……
「あァ、夕方までは出掛けてていいぞ」
「わかった、では行ってくる」
「気をつけろよ!」
「ありがとう、すぐ戻る」
ヅラの姿が完全に見えなくなったところを見計らって、
あたしは隣にいるエリザベスに向き直る。
「それじゃ、あたしもヅラへのプレゼント買ってくるな!」
『行ってらっしゃい、』
「あァ」
「ただいま戻ったぞ!」
「あ、さん!」
「お帰りなさい、さん!」
あたしがアジトに戻ると、
その場にいた攘夷志士たちが声を掛けてくれた。
「おう! ところでヅラはもう帰ってきたか?」
「いえ、まだ帰ってきてないですね……」
「……そうか」
まだ帰ってきてないのか……。
まァ、用があって出ているんだからな。
きっと長引いているんだろう。
『お帰りなさい、』
「おう、エリザベス!
悪かったな、長いことここを空けてしまって」
『気にしないで』
ヅラがいないときは、
あたしがこのアジトで指揮を任されているんだが……
プレゼントを買うのに、思いのほか時間が掛かってしまった。
「さん、パーティの準備はおおむね出来ました」
「そうか、ご苦労だった!
あたしの方も準備は完璧だ」
「あとは桂さんが帰ってくるだけですね」
「そうだな」
あとは、主役の登場を待つのみだ。
「みんな、それまでは休んでいていいぞ!
あたしも少し休むことにする」
「はい!」
「わかりました!」
「…………」
あれから数時間たったんだが、
ヅラのやつ、まだ帰ってこないなァ……。
「なんだかんだで、もう夕方だ」
――あたしとの約束、忘れてないよな?
縁側でそんなことを考えていると、
いつの間にかそばに居たエリザベスが、隣に腰をおろした。
「なァ、エリザベス……
ヅラは、ちゃんと帰ってくるよな?」
『心配ない。
桂さんは、約束と記念日を大切にするから』
「そうだよな……」
『もう……あたしを待たせるな……!』
『すまなかった、。もうお前を待たせたりしない』
『必ずだぞ……?』
『あァ、約束する』
「あのとき……約束、したもんな」
「……ん、……さん!」
ん……なんだ?
名前を呼ばれているような……
「さん!
桂さんが帰ってきましたよ!」
「何っ! 本当か!?」
「はい!!」
というか、いつの間にか寝てしまったのか……
いや、そんなことよりも!
「よし! 打ち合わせ通り、パーティを始めるぞ!!」
「「「「「「「「「「オォー!!」」」」」」」」」」
「桂さん! お誕生日おめでとうございます!!」
「そういえばそうだったな……
ありがとう、礼を言う」
ヅラの奴、どうやら忘れていたようだな。
サプライズは成功だ!
「さァ、桂さん! 今日は飲みましょう!!」
「ヅラ! 今夜は騒ぐぞ!!」
「……あんまり飲みすぎるなよ」
「あたしは、酒は苦手だから飲まん!」
「それならいいが」
そんなこんなで、ヅラの誕生日を祝いつつ
みんな思い思いに過ごしていった。
「ふぅ〜……」
一通り騒いだところで部屋を抜け出したあたしは、
縁側に座って少し休憩することにした。
「みんなと騒ぐのは楽しいんだが……
酒を飲まされるのは、勘弁してほしいところだ」
部屋を抜け出してきたのは、
酒を回避するためという理由もある。
「」
「なんだ、ヅラか」
「ヅラじゃない、桂だ」
「バカだな、『ヅラ』ってのはあだ名だろ?」
「バカじゃない、桂だ」
いつも思うんだが、絶対にこのフレーズ気に入ってるよな。
いや、今はそれよりも……
「ヅラ」
「どうした?」
「ほら、これ。プレゼントだ!」
部屋から持ち出していたそれを、ヅラへ手渡す。
「お守りか」
「あァ、あたしとお揃いだぞ!
ちなみにあたしは、刀に付けた」
「そうか……では、俺もそうしよう」
「真剣に選んできたんだが……」
気に入ってくれただろうか……。
「お前はバカだな」
あたしの不安を知ってか知らずか、
ヅラはそんなことを言ってのけた。
「バカって、お前にだけは言われたくないぞ!」
せっかくプレゼントあげたってのに、なんて奴だ!
「俺は……お前のくれたものなら何でもよい」
「……!」
「たとえ何もなくても、お前が居れば」
「……」
急にそんなこと言うなんて、ずるいだろ……。
「あたしも、ヅラがそばにいてくれれば……」
「ほう……では、これはいらないか?」
「……!」
これは……
『銀時ィ! これ可愛いと思わないか?』
『はァ? お前こんなもん欲しいのか?』
『かわいいじゃないか!』
『そうかねェ』
「前に、銀時と見たブレスレット……」
「あいつに聞いたんでな。買ってきた」
そのために出掛けていたのか?
「しかし店に行ったら売り切れたと言われてな。
少し遠出して、別の店で買ってきたんだ」
だから帰りが遅かったのか……。
「ありがとう、ヅラ……
もらっていいか?」
「もちろんだ、お前に買ってきたんだからな」
「……ありがとう」
落とさないようにそっと、
あたしはそのブレスレットを受け取る。
「でも、なんで突然コレ買ってきてくれたんだ?」
今日は、あたしではなくお前の誕生日だぞ?
「今日は俺の誕生日でもあるが……
俺とお前が、出逢った記念日だからな」
「……!」
そういえば、そうだった……
「ヅラ、お前……」
「気に入ってくれたか?」
「あァ、もちろんだ!!」
そう答えてから、ふいにヅラの背後へ目を向けると……
みんなが騒いでいる部屋から、
そっと顔を覗かせているエリザベスの姿がある。
『桂さんは、約束と記念日を大切にする』
そう書いてみせたエリザベスに、
あたしは口パクで「その通りだな!」と答えるのだった。
口には出さないけれど、いつも思っていること。
(お前のそんなところが大好きだぞ!)
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桂さんとの短編、修正しました。
あまり書かない口調のヒロインにしたかったのですが
ノリで押し進めていた感がありますね……
まあ、個人的には気に入っております。