「ねえ、望美〜」
「なーに?お姉ちゃん」
あたしは双子の妹である望美に、ふと聞いてみた。
「将臣って、あたしと望美のこと見分けられるのかな?」
「…………は?」
あたしの言葉を聞いた望美は、ぽかんとしてしまった。
「だーかーらー!
将臣って、あたしと望美のこと、見分けられるのかな?」
「そりゃあ、髪型だって違うし……」
「そんなのウィッグとかかぶっちゃえば解らないでしょ!」
「そうかなぁ……」
望美は煮え切らない答えを返し続ける。
「そうだ、いいこと考えた!
望美、明日出掛ける予定とかある?」
「ううん、明日は一日家で部屋の掃除とかするつもりだよ」
「じゃあ、お願いがあるんだ!」
「明日一日、『望美』を貸して!!」
――翌日。
「これで準備オッケー、っと♪」
メイクもばっちり、お気に入りの服も着たし!
私、望美……じゃなくて、だけど。
カツラもかぶれば、完全に望美だよね!
「すごい、なんか鏡を見てるみたいだね」
「そうでしょ? さすがあたしよね!」
本人に感心されちゃうだなんて、やっぱりなかなかの出来ってことかな!
けど、今回は望美になりきるだけが目的じゃないからね。
「さーてと!
これで将臣が見分けられるか実験よ♪」
「お姉ちゃん……あんまり無茶はしないでね?」
「解ってる解ってる」
あたしは適当に返事をして、足取り軽く隣の家――有川家へと向かった。
有川家の呼び鈴を鳴らすと、インターホン越しに声が聞こえた。
「はーい?」
少しめんどくさそうな感じのするその声は、将臣のもの。
……どうやら、ターゲットは家に居るみたいね。
「あ、将臣くん?
ちょっとお願いがあるんだけど……」
「あー……なんだ、か?」
「違うよ! 私、望美だよ」
「は? 望美、なのか?」
「うん、そうだよ」
一瞬バレたのかと思った……
けど、それを表面に出してしまうなどというヘマはしないっての。
あんまり強調しても逆に怪しいから、
それとなく望美だってことをもう一度伝えとかないと。
「買い物に付き合ってほしいんだけど……ダメかな?」
望美は、あたしよりいくらか柔らかい口調だものね。
ってことは、あたしもいつもより丁寧に話さなきゃならない。
「ああ、別にいいけど」
「本当?」
「おう。用意してくるから、ちょっと待ってろ」
「うん、解った」
ふふっ、将臣ったらまんまと引っかかったわね!
あたしの演技も、まんざらじゃないのかも。
「でも、本番はこれからよ。
一日騙しきって、後でドッキリでしたーってネタばらししてやるんだから!」
騙されたと解ったときの将臣の表情……どんな感じなんだろ。
いつも余裕のある将臣のそんな表情を見れるとなると、楽しみで仕方がないな!
「おう、待たせたな」
「ううん、大丈夫だよ」
そんなことを考えているうちに、将臣が支度を終えて家から出てきた。
「じゃあ、行こっか!」
「ああ」
「ふぅ、思ったより買っちゃったなぁ」
「ったく、お前これ全部衝動買いなんじゃねぇのか?」
「そ、そんなことないよ!」
あれからずっと一緒に居るけど……
どうやら将臣は、まだあたしがだってことに気付いてないみたい。
あたしの変装や演技が完璧ってことは嬉しいけど、
バレないのはバレないで哀しいような気も……
…………ううん、落ち込むのは後。
それより、このまま将臣を騙しきってネタばらししないと!
……なんて、あたしは妙に闘志を燃やしていた。
「もう買うもんはないのか?」
「あ、ううん……
ちょっと、お姉ちゃんにプレゼント買いたくて」
「プレゼントだぁ?」
何を突然、といった感じで将臣が言う。
だから、あたしも望美になりきって事情を説明した。
「ほら、この間お姉ちゃん、推薦で大学受かったでしょ?
そのお祝いに何かあげようってずっと考えてたんだけど、
まだ何もプレゼントできてなくて……」
そこまで説明すれば、将臣も事情を把握してくれたようで、
なるほどな、という言葉を返してきた。
「で、どんなもんやるつもりなんだ?」
「え? えーっと……」
ここは、あたしが欲しいものじゃダメだよね。
『望美が選びそうな』あたしの欲しいものじゃないと……。
「うーん、アクセがいいんじゃないかなって……ペンダントとか」
「あー……確かに好きそうだもんな、そういうの」
将臣も納得してるみたいだし、しっかり望美っぽい答えが出来たんじゃない?
「じゃあ行こう、将臣くん!」
「そうだな」
そうして、あたしたちは一件の雑貨屋に入った。
「うーん、どれがいいかなぁ……」
あたしが悩んでいると、隣に居た将臣が何の気なしに言った。
「別に、お前の好みで選べばいいんじゃねぇの?」
「え? でも、私とお姉ちゃんじゃ好みが違うし……」
まあ、そんなに大きく違うってわけでもないと思うけど、
ばっちり同じってわけでもないんだよね……。
あたしが少し戸惑っていると、将臣が勝ち誇ったような顔で言う。
「どうせ『お前』にやるもんだからな。
『お前』が好きなもの選べばそれでOKだろ」
「……えっ!?」
そ、それってどういう……?
「…………まさか、」
将臣、あたしが望美じゃないってこと……
「お前、望美じゃなくてだろ?」
「……!!」
やっぱり、気付いてたんだ!
「い、いつから……」
「インターホンのときから」
それって最初っからじゃん!!
「なんで言ってくれなかったの!?」
「お前が望美だって言い張るから、乗ってやろうと思ってな。
だいたい、俺は今日一度もお前を『望美』とは呼んでないぜ」
「え、……」
確かに、そうかも……。
「あーもう、そんなことにも気が付かなかったなんて!」
あたしとしたことが……!!
「ちくしょー!」
「観念するんだな」
そう言って楽しそうに笑う将臣。
「俺が、お前を間違えるわけねぇだろ?」
「はいはい、そうですよね!」
どうせあたしじゃ、将臣を騙せませんよ!
悔しいけれど
(将臣の方が何枚も上手ってことでしょ、もう!)
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かなり久しぶりの(?)将臣くん夢でした!いかがでしたか?
実はこれかなり前に書きあがっていたんですが、そのまま置いてあったり……。
久しぶりに読んでみたら割と好きだったので、アップしてみました。
きっと将臣くんは、好きな人は絶対に間違わないと思います。ハイ。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
望美ちゃんの姉な設定も妹な設定も、個人的に好きです^^