「……あっ、銀さん!」


          船の中腹に向かい始めてから割とすぐ、
          銀さんの姿を見つけることが出来た。

          でも、その後ろには追手の攘夷志士がたくさん居る。





          「おう、どうやらお前らも無事だったみてーだ、な!」

 
          なんて言って、
          追手を倒しつつこちらに向かって来る銀さん。





          「オイ、向こうにも侵入者がいるぞ!」

          「手分けしてかかれェ!」











          「ったく……
           テメェのせいで無事じゃなくなっただろーが!」


          あたしと土方さんに気づいた追手の一部が、
          こちらにも斬りかかってくる。

          それを難なくかわしながら、土方さんは悪態をついた。


















9周年記念企画――終幕 調査のその後

























          「いや、言っとくけど俺のせいじゃねーかんなァ〜。
           俺はちゃんと、自分の担当は全部片付けてきたから。

           これはアレだ、アイツの……」















          「何言ってやがる、銀時。
           てめーの動きが悪いせいだろが」


          そんなことを言いながら、
          急に晋助が銀さんの背後から現れた。





          「高杉……!?」

          「なんで晋助が、銀さんと一緒に……!?」


          てっきりもう、撤退したものかと……。





          「銀時が苦戦してたようなんでなァ、
           ちょいと助けてやっただけだ」

          「晋助が、銀さんを?」

          「あァ。俺ァ別に、こいつがどうなろうと構わねェが
           何かあれば、お前が気にするだろう」

          「えっ……」


          それってまさか……
          あたしのために、銀さんを助けてくれたってこと?

          でも、晋助がそんなこと……。










          「オイ、騙されんなよォ!
           苦戦してたのはこいつで、助けてやったのは俺だかんな!」

          「えっ?」

          「ククッ……
           まァ、お前が信じたいほうを信じればいい」

          「…………」


          なんて言い合ってる間も、
          二人は攘夷志士を相手にしていて……

          確かに数は多いけど、二人とも難なく敵を倒している。













          「ええと……」


          二人には色々聞きたいし、言いたいこともあるけど……





          「土方さん……」

          「……あァ。
           色々問題はあるが、とにかく合流できたんだ。撤退する」

          「はい!」


          するとあたしたちの会話が聞こえたのか……

          銀さんがある程度の敵を蹴散らしたところで
          こちらにやって来る。





          「銀さん!」

          「退くんだろ?」

          「う、うん!」

          「ちょうどあそこに、ターミナルへ降りられる場所がある。
           あそこまで走れ!」

          「はい!」

          「お〜」


          土方さんの指示で、揃ってそこを目指し走り出す。















          「……!」


          そういえば、晋助は……!

          慌てて振り返ってみると、
          まだ攘夷志士と戦っている晋助の姿がある。





          「…………」


          晋助にとって、ここに居る人たちは
          どうってことないのかもしれない。

          あたしが助けに入っても、逆に邪魔かもしれない。


          でも、やっぱり……置いていけない……!





          「晋助!!」


          あたしは晋助に向かってくる人たちをフォークでけん制し、
          その動きを一瞬止める。










          「、お前……」

          
          あたしの行動が予想外だったのか、
          表情に出るくらい驚いているようだった。





          「晋助も撤退するの! 来て!」


          けど、今はそれを気にしてる場合じゃない。
          そう思ったあたしは、その腕を思いきり引っ張る。

          そして走り出すのと同時に、
          追手が来れないよう煙幕を投げつけた。





          「煙幕か……まるでヅラだな」

          「それはそうだよ、これ桂さんにもらったんだから」


          何かあったときに使えって、
          前にもらったことあったんだよね。

          持ってきてて良かった……。















          のやつ、なんで高杉まで連れてきてんのォ!?」

          「言ってる場合じゃねェ! とにかく、全員急げ!!」


          そうしてあたしたちは、
          なんとか船から脱出することに成功したんだけど……


          その直後、近藤さんを始めとする真選組のみんなが現れ、
          あたしたちがたった今、脱出してきた船に駆け込んで。

          あっという間に、攘夷志士たちを残らず捕まえてしまった。





          「何とかうまくいったな」


          船内が騒がしくなったとき既に、
          土方さんが真選組のみんなを呼んでいたらしい。

          本当なら、今回の調査でしっかり情報を集めてから
          後日逮捕に踏み切る予定でいたみたいなんだけど……





          「まァ、これだけ騒ぎになっちゃなァ〜」

          「誰のせいだと思ってんだァ!」


          確かに、これだけ大事になったら
          向こうも警戒して船ごと逃げてたかもしれない。

          作戦を切り替えたのは、正解だったのかも。














          「俺らは、それよりも…… ……!
           オイ、高杉はどこに行った?」

          「え? 晋助ならここに……」


          そうして隣に視線を向けるけど、
          つい今までそこに居たはずの姿が見当たらない。





          「え、何?
           お前、高杉も捕まえる気だったの?」


          アイツならとっくに逃げたけど、と、
          銀さんが何でもないことのように言う。





          「テメェ、気づいてたんならさっさと言えよ!!

          「だってよォ、今回はあの船の調査だろ?
           高杉捕まえるなんて契約外だぜ」

          「そこは臨機応変にやれ!!」


          晋助…………





          「……あたし、ちょっと近くを見てきます!」

          「おっオイ、待て、!」


          土方さんの制止も聞かず、
          あたしはそのまま走り出した。




















          「晋助!」


          気配が感じられない……。

          まだそんな遠くへは逃げてないと思ったんだけど、
          やっぱり、もうこの辺には居ないの……?





          「晋助……
           …………ありがとう」


          たぶん、「お前を助けたワケじゃねェ」とか
          言いそうだけど……

          一言だけでも、お礼は直接伝えたかったな……。










          「わざわざ礼を言いにくるなんざ、本当にバカな女だな……」


          いや、バカなのは俺か。
          呼ぶ声が聞こえたから、慌てて戻ってくるだなんて……





          「……俺らしくねェ、か。クッ……」





















          ――数時間後。

          船内にあった銃や爆弾などの押収、
          攘夷志士の搬送も全て完了し……

          あたしたちも、ターミナルを後にした。










          「今日は、とんだ調査になっちまったな……
           色々と悪かった、

          「い、いえ、そんな!
           元はと言えば、あたしがシャッター音を鳴らしたせいで……」

          「けど、それだってコイツに言われたからだろう。
           お前が気にすることじゃねェ」


          そう言ってまた、土方さんは頭をなでてくれる。
          なんだかまた、それで少しホッとしてしまった。





          「待てよ、オイ。
           それだとなんか、俺が悪いみたいじゃねーか」

          「いや、明らかにお前が悪いだろ!」

          「何言ってんだ、
           俺だって身を挺してを護ったんだぞ!」

          「その前に、写真撮れとか言い出したんだろーが!!」


          確かに、今回のはちょっと危なかったけど……
          不思議と、怖いとは思わなかったな。

          やっぱり銀さんや土方さんと一緒だと、心強いっていうか……
          いい意味で安心して、危険なお仕事も出来る気がする。










          「土方さん、銀さん……いつもありがとう」


          未だ言い合いをしている二人には、
          あたしのつぶやきは届かなかったようだ。

          でも今は……それでいいのかも。

          また今度、別の機会に伝えよう。
          そのときは、晋助にも……




          「ちゃんと、お礼が言えるといいな……」


          そんなことを考えながら、
          あたしは夜空を見上げるのだった。