『だから、オレはお前のことが好きなんだよ!!』






          ――……あれから、およそ一月が経っていた。

          と両想いだってことが解ったものの、
          オレは未だに意地を張って、あいつを怒らせることがしばしば。

          あいつもオレと同じで意地を張るタイプだから、
          前みたいな喧嘩に発展することも少なくない。



          けど、まあ、それでも前よりは素直になれてると思う……
          あいつも、それは同じじゃないかな。




          ただ、やっぱりもう少し優しくしてやれたら、って思うんだ。
          あいつだって、今のままのオレじゃ、きっと嫌だろうから…………。



















          「はぁー…………」


          今日は12月25日……そう、クリスマスなんだ。
          だから、辺りもいつもよりさらに賑わっている。

          そんな中、オレは待ち合わせ場所である駅前まで歩みを進めていた。






          「今日のパーティ、楽しみだね!」

          「本当にね! 彼に告白できるかなー」






          「おかあさん、ぼく、あのゲームがほしい!」

          「まぁ、またゲームなの?」

          「いいでしょ!」

          「仕方ないわねぇ」


          この並木道を歩く人たちも、今日はいつもより嬉しそうで。
          すれ違うのはみんな知らない人だけど、こっちまで嬉しくなってきた。


          ――ああ、早く会いたいな。







          クリスマスの2日前から、学校も冬休みになった。
          だから、毎日ように顔を合わせていたとも、2日は会ってない。


          ……たった、2日なのに。

          オレはお前に会わなきゃ、どこか虚しく感じてしまうんだ。
          だから、今も早く会いたいと思ってる。


          お前に、会いたい…………。














          「……うわ」


          並木道を抜け、街に出る。
          すると、まるでおもちゃ箱であるかのような光景が広がっていた。

          誰かを騙すような、何かを隠すようなイルミネーションが、
          キラキラ光っている。





          「手品みたいだな……」


          そんなことを、考えた。


          今しがた通り過ぎたバスのちょうど向こう側から、クリスマスソングが聞こえてくる。
          たぶん、店で流してるやつだと思うけど……。

          別にオレは、クリスマスソングが特別好きってわけでもない。
          だけど、何故か心があったかくなった。








          『ったく、お前もけっこう嫌味だよな!』

          『平助に言われたくないんだけど!!』

          『平助君、ちゃん、落ち着いて……!』


          終業式の日も、ひょんなことから言い合いになってしまって。
          席の近い千鶴が、必然的に仲介役になっていたっけ。






          『だったら、もっと優しくしてくれても良かったじゃない!』


          そう言われたのは、オレがに好きだって伝えた日だ。







          『喧嘩ばかりじゃいけないこと、お前は解ってるはずだ』


          そうだ、オレだって解ってる。
          だからあのとき、素直になれたんだよ。
















          「…………けど、」


          やっぱり、もうちょっとなんとかしたいって思うよ。

          だから今夜こそ、優しくなれないかな。
          全て受け止めて、笑えないかな…………。



          ……そんなことを考え込んでいたとき、
          どこからか泣き声が聞こえてきた。

          声のした方に目を向けると、
          毛糸の帽子をかぶった小さな女の子が泣いている。







          「おかーさん! わたし、あの星をかざりたいの!」

          「あれは飾れないの、お空のものだから」

          「でもっ……あれがいいよぉ! わぁぁん!!」

          「もう……」


          どうやら、女の子は空にある星をツリーに飾りたいらしい。

          けど、それはどう考えたって無理なことで。
          母親も、なんとかその子をあやしている。

          ……しばらくして、母親は諦めさせることに成功したようだ。
          ようやく泣き止んできた女の子の手を取って、歩き出した。






          「…………でも、確かに綺麗だもんな」


          空を見上げ、オレはつぶやく。
          今日の星空はすごく綺麗だから、あの女の子が飾りたくなるのも解る。



















          「っと、早くしねぇと」


          足を止めていたオレは、再び歩き出した。
          辺りには、オレと同じく待ち合わせをしているらしい人がたくさん居る。


          もうかなり前から待っているのか、
          中には腕時計を何度も気にしている人も。

          赤いほっぺたをして、冷えた手を白い息であたためている。





          …………オレも、早く行かないと。

          待ち合わせの時間までまだ余裕はあるものの、
          あいつをこの寒い中待たせるのは嫌だった。

          だから、なるべく先に着いていたい……。









          ……オレがこんなことを考えている間も、気象衛星はずっと回り続ける。
          時も、同じだ。

          そしてそれは、戻ることはない……どんなに、後悔しても。



          だから……後悔してしまう前に、こんなオレだって、誰かに優しく出来ないかな。
          全て受け止めて、笑えないかな……。


          ――ああ、早く……お前に早く会いたい。




          再びそう思ったのは、きっと、
          待ち合わせをしている人がだんだん減ってきたから。

          いつもより一人が寂しいのは……幸せになりたいからだ。
          周りの人と、自分を比べてしまうから。

















          横断歩道の手前辺りで、肩をぶつけた人が居た。
          その人は慌てて頭を下げていたが、相手はその人を睨んでいる。







          「…………今のは、どっちもどっちだった気がするけど」


          オレはそう思ったんだけど、頭を下げた方の人は、今も必死に謝っている。
          そのおかげか、相手もそれ以上は事を荒立てずに立ち去った。


          謝っていた人がやっとのことで横断歩道を渡ると、
          その先には、待ち合わせしていたと思われる人が立っていて。




          …………ああ、そうか。

          事を荒立てたくなかったのは、大切な人が待っていたからだ。
          それが解ったオレは、妙に納得してしまった。















          「駅前も、飾りとかすごそうだな……」


          ――……今日、この街は、まるでおもちゃ箱であるかのようで。

          オレのことだって、きっとのことだって……
          誰だろうと、そのキラキラ光るイルミネーションで飲み込んでしまうんだ。








          なあ、
          オレはそんなに頭も良くないし、自慢できることも少ないよ。

          毎日いろんなことを思って、感じて、過ごしている。


          お前に対してだって、他の人に対してだって、
          許せずにいる事、解らない事、認めたくない事や話せない事だってある。



          そんな、まだまだガキのオレだけどさ。

          今夜こそ、優しくなりたい。
          全て受け止めて、笑いたいんだ。




          ……自分にも、優しく出来たら。
          そうしたら余裕が出来て、お前ともっとたくさん笑い合えるのかな。












          「…………なんてな」


          珍しく真剣に考え込んだからなのか、少し疲れてしまった。
          これから出かけるってのに、これじゃあちょっと……。





          信号を待ち、思わず苦笑を漏らしていると、辺りに歓声が上がる。
          会話からすれば、どうやら流れ星が見えたようだ。





          「って、オレはまた見逃しちまった……」


          そういうの、いつも見逃すんだよな……。


          悔しくも思ったんだけど、今日はそれでも嬉しかった。
          オレが見ていなくたって、誰かがその流れ星を見たなら、素敵なことだから。

          ――ああ、オレもそんな風に思えるんだ。




          そんな風に思えたと、伝えたくなった。
          誰かに……いや、お前に伝えたいよ、

          ――ああ、早く会いたいな。









          こんな短い時間だけど、色々と考えることが出来た。
          お前のこと、オレ自身のこと……その他にも、いろんなことを。


          それを、早くお前に伝えたいんだ。

          お前は、こんな風に変に考え込んでいたオレを笑うか?
          それとも、もっと違う言葉をくれるだろうか。




          …………いや、もうどっちでもいい。
          とにかくオレは、お前に会いたいんだ。



















          「平助!」


          待ち合わせ場所の駅前に、の姿があった。

          ああ、先に着いていたかったのに、なんて思いながら、
          オレはの元まで走っていった。



























Merry Christmas


(今夜ならきっと 優しくなれる気がするよ)






























   +++++++++++++++++++++++++++++++

      クリスマスネタで平助夢でした! いかがだったでしょうか?

      このお話は、平助の小連載の続きっぽいものです。
      考えていたものと連載のヒロイン&平助の関係が
      割とマッチしていたので、そんな感じに。

      歌詞をわたしなりに解釈したので、変なところもありかもです;