「あー、やっぱり格好いいなぁ……」


          あたしは、今日もテレビの中に居る人に想いを馳せる。

          ……あ、ちなみにアニメのキャラとかじゃないよ?
          いや、確かにアニメのキャラも好きだけどさ。






          「もう、。また沖田くん見てるの?」

          「うん、だって格好いいんだもん!」


          テレビに釘付けになっているあたしに向かって、
          お母さんは呆れながらそう言った。


          ――お母さんが言った「沖田くん」と言うのは、
          1年前にとあるドラマでデビューした新人俳優・沖田総司さんのこと。

          デビューしてまだ間もないというのに、
          彼は(主に)若い女性から絶大な支持を得ている。



          総司さんはもともと俳優志望だったみたいなんだけど、
          最近はドラマだけじゃなく、様々なジャンルの番組に出演している。

          今度CDデビューするらしくて、
          そのPRのために今朝はニュース番組にも出ているようだった。







          ……まぁ、何だかんだ言ってあたしも総司さんが大好きなわけで。
          だから、そのニュースも食いつくように見ていた。







          「早く用意しないと、学校に遅刻するわよ」

          「はーい」


          総司さんの出番も終わったみたいだし、
          さっさと用意して学校に行かなきゃね。

          そう思いつつ急いで支度を済ませ、あたしは学校に向かった。























          「おはよー、!」

          「ちゃん、おはよう!」

          「ちょっとこっち来てみ?」


          教室に入ると、既に登校していた友達のちゃんが、
          こっちに来いと手招きしてきた。

          何だろうと思って近寄ってみると、彼女は何かの雑誌を手にしていて。







          「じゃーん!」

          「わぁ、総司さんの特集……!」


          その雑誌では、巻頭で総司さんの特集を組んでいるようだ。


          ――あたしは総司さんの大ファンなんだけど、
          そういう雑誌掲載情報とかテレビの出演情報とか、調べるのが苦手で……。

          だから、いつもちゃんに教えてもらっているんだ。
          (ちなみに、今朝のニュース番組もね。)


          その雑誌を見てテンションを上げるあたしに、彼女は続ける。







          「その特集も見せたかったんだけどさ、もっと見せたい記事が他にあるんだよ」

          「え?」


          この流れだから、たぶん総司さん関係の記事だと思うんだけど……

          再び首をかしげるあたしに、ちゃんはとあるページを見せた。






          「これこれ。
           『沖田総司、ファンの家に出張!!』ってやつ」

          「え、……」


          ファンの家に……出張?















          「嘘!?」

          「私も冗談かと思ったんだけど、どうやら本当みたいよ。
           抽選で当たった10人のファンの家に、沖田総司が来るんだって」


          ちゃんの言葉に驚きつつ記事を詳しく見てみると……

          この雑誌に付いている専用ハガキで応募し、
          選ばれた10人のファンの家に、総司さんがやって来る……
          ということが書かれていた。






          「私は他の記事目当てでこの雑誌買ったからさ、
           、応募してみなよ」

          「いいの!?」

          「いいよ、私は沖田総司あんまり好かないし」


          ちゃんは、「あいつ、絶対裏があるよね」って言ってて、
          総司さんに対してあまり良いイメージを持ってないらしい。

          だから、この応募ハガキもくれたんだろうけど……


          まぁ、とにかく応募しなくちゃね!
          当たる確率はきっと低いだろうけど、応募しなきゃ当たるものも当たらないから。














          「ありがとう、ちゃん!」

          「いいっていいって」


          まだ当選したわけでもないのに、
          あたしはその日一日をすごくいい気分で過ごした。

























          ――日曜日、あたしがテレビを見ていると、インターホンが鳴った。

          お父さんは仕事だしお母さんも出かけていて居ないから、
          必然的にあたしが出ることになる。







          「はい?」

          「あ、こんにちは。さんのお宅ですか?」

          「え、あ、はい、そうですけど……」


          何が何だか解らないでいると、その人が何か思いついたかのように言う。






          「あ、もしかして君がちゃん?」

          「は、はい、あたしがですが……」

          「どうも、初めまして。僕、沖田総司です」

          「…………」


          聞き間違い?

          もしかして幻聴かも、と思ったあたしが、
          無意識にインターホンの受話器を戻そうとすると。






          「君、応募してくれたでしょ?
           『沖田総司、ファンの家に出張!!』ってやつに」

          「え? は、はぁ、確かに応募しましたけど」

          「君は当たったんだよ、おめでとう」


          …………。














          「ええっ!?」


          一瞬何を言われたのか解らなかったから、沈黙してしまった。
          けど、当たったってことは……

          総司さんがうちの玄関の外に!?


          そう思ったあたしは、急いで玄関に向かい、その扉を開ける。







          「やぁ、ちゃん。沖田総司です」


          すると、やっぱりそこには
          たくさんのスタッフを連れた総司さんの姿があった。






          「そ、そ、そ、総司さん!?」

          「そうだよ。さっきから言ってるでしょ?」


          再度確認するあたしに向かって、
          総司さんはどこかめんどくさそうに答えた。


          …………あれ?
          総司さんって、こんな人だったっけ?















          「とりあえず、この後まだ二人の家に行かなきゃならないから、
           さっさと進めたいんだけど」

          「え、そんなに一気に出張するんですか!?」

          「僕も暇じゃないからね」


          そ、そっか……そうだよね、人気の俳優さんだもの、
          スケジュールとかも詰まってるんだよね……。


          …………。










          「で、一応この出張の流れとしては、当選した人の家に上がらせてもらって、
           少し話をするってことなんだけど……上がってもいいよね?」


          総司さんがそう言ったけど、あたしは首を横にふった。
          彼の後ろに居るスタッフからは、何故?といった空気が流れてくる。





          「総司さんも忙しいみたいですし……
           あたしは、上がってもらってお話をするなんてしてもらわなくていいです」


          戸惑うスタッフを尻目に、あたしは続ける。






          「あたしは、あなたに会えただけで充分です」


          そう言うと、総司さんは目を丸くした。






          「あ……でも、一つだけいいですか?」

          「…………何?」

          「握手だけ、してほしいです」


          あたしがそう言うと、総司さんは少し間を空けて手を差し出してくれた。
          それが了解の合図だと解ったから、あたしも手を出す。












          「君みたいな子、初めて会ったよ」

          「そう……ですか?」

          「うん」


          何だかよく解らないけれど、総司さんは満足気だから。
          あたしも、それ以上深くは追究しないでおいた。






          「じゃあね、ちゃん」

          「あ、は、はい……
           あの、総司さん、わざわざお越しくださってありがとうございました!」


          あたしがそう言うと、総司さんは再び目を丸くした。
          そして、その後にため息を一つ漏らす。












          「…………はぁ、君って本当に……」

          「はい?」

          「何でもないよ」


          あたしの質問には答えずに、ばいばい、と言って
          総司さんはスタッフの人たちと一緒に去っていった。




















          「…………ちゃんに言ったら、もったいないって言われそうだなぁ」


          でも、たぶんあたしは、総司さんに何かしてほしいわけじゃないんだ。
          活躍する姿を見られれば、それでいいような気もする……。






          「…………さてと、部屋に戻りますか」


          そういえばテレビが付けっぱなしだったかも、
          なんてどうでもいいことを考えながら、
          あたしは家の中に戻っていった。


























          ――数週間後。
          日曜日の今日、あたしはまたテレビを見ている。





          「……そういえば、あの日もこんな風にテレビを見てたよね」


          あの日、というのは、雑誌の企画で総司さんがこの家にやって来た日。

          本当は家に上がって話をしたりする企画だったらしいけど、
          あたしはそれを断った。


          もしかしてあれは夢だったのかも、と思ったりもしたけれど、
          やっぱり本当だったみたいだ。






          ちゃんが持ってきてくれた次号の雑誌に、
          抽選に当たった9人の名前が載っていて。
          ……10人目は、不在だったと書かれていた。

          たぶん、その10人目っていうのがあたしなんじゃないかな。


          そう、他人事のように思っていた。














          「ー、そろそろ自分の部屋も大掃除に取り掛からないと、
          間に合わなくなるわよ」
 
          「はーい」


          年末ということもあって、お母さんは朝から家の中を掃除していた。
          だからあたしも、そろそろ大掃除を始めようかなぁ、なんて思っていたとき。

          インターホンが、鳴った。






          「ー! お母さん手が離せないから、出てくれる?」

          「わかったー」


          お母さんの声に答えて、インターホンの受話器を取ると。

          いつかこの受話器越しに聞いたものと同じ声が聞こえたから、
          あたしは受話器を戻すこともしないで玄関まで駆けていった。






          「ちょっと、?」


          お母さんが不思議そうにあたしの名前を呼んでいたけれど、
          それに答える余裕もなくてそのまま玄関を目指す。

          そして、その扉を開けると。















          「やぁ、ちゃん。沖田総司です」


          数週間前にも見た、大好きな総司さんの姿があった。
          だけど、あの日と違い、今日は彼一人しか居ない。






          「なん、で…………」


          あたしがそうつぶやくようと、彼は意地悪そうににっこり笑って言った。






          「僕、君のことが気に入っちゃってさ。
           これから出かけるから、付き合ってくれる?」


          あたしが何も言えずにいると、総司さんは続けて言った。















          「ああ、ごめん、君には拒否権が無いんだった。
           そういうわけだから、早く出かける支度をしてきてよね」

          「え、で、でもっ」

          「5分以上待たせたら承知しないよ」

          「は、はいっ!」


          総司さんのまとうオーラがちょっと怖くて、思わず返事をしてしまった。
          未だに頭は混乱していて、何が何だか解らないけれど。






          「でも、嬉しい……かも」


          そんなことを考えながら、
          あたしはすぐさま出かける支度に取り掛かった。




















ねぇ、やっぱり


(あなたのことが、大好きみたいです)


























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     総司さん夢でしたー! いかがでしたか?
     やっぱり、何だかんだで総司さん夢は思いつくなぁ……

     これは、わたしが見た夢をもとに書きました。
     ここでは一応、人気俳優にしてみましたが、
     実際は確か、アイドルが家に来るみたいな感じでした^^