「みんな、お待たせ!」


あたしの手をぐいぐい引っ張りながら、
お妙さんがみんなに向かったそう叫んだ。





、綺麗ヨー!」

「そ、そうかな……」

「はい、すごく似合ってます!」


着替えてきたあたしの姿を見て、
神楽ちゃんと新八くんが褒めてくれた。

ちょっと恥ずかしかったんだけど、
やっぱりその言葉は嬉しくて……

不思議と、笑顔になっていた気がする――……












思い出のアルバムを心に――第二話 祭りの夜、闇に邂逅



















「やっぱりお祭りと言ったら、女の子は浴衣よねェ〜」

「姉御は浴衣着ないアルか?」

「私はいいのよ、今日もどうせ仕事だから」


万事屋に来てくれたお妙さんに、
あたしは浴衣の着付けをしてもらった。

……なんで突然浴衣を着ることになったのか、というのは、
これから受ける依頼が関係していたりする。





「…………」





「それより、神楽ちゃんこそ浴衣着てみない?」

と一緒にお祭り行けるなら着てもよかったけど……
 そうじゃないなら、必要ないアル」

「まあ、残念ね」





「…………」





今回、依頼主に依頼されたのは、数日前……

その人は知り合いづてにあたしの名刺を入手して、
連絡してきてくれたみたい。

依頼主と、その旦那さん……
ご夫婦で万事屋まで来てくれた。





『今度かぶき町で行われる祭りで、出店をやるんですが……』

『いつも手伝ってくれる友人たちが、みんな用があるとかで
 なかなか人手が集まらないんです』



そのご夫婦は、毎年行われるそのお祭りで
毎年出店をやっているらしい。
(ちなみに、普段は定食屋さんを営んでいるとのこと)

でも、毎回手伝ってくれてた人たちが、
今年はいろんな都合で集まれそうにない……

そこで、あたしに手伝いをお願いしに来たという。







『最低限の人数は、かき集めることが出来たので……
 あと一人くらい、いてくれると助かるんです』

『先日知り合いに、あなたがいい仕事をしてくれると聞いて
 それで訪ねてきたんですよ』



と、そんなやり取りの末に今回依頼を受け、
お祭りのお手伝いをすることになって……

依頼主の指示もあったので、
こうして浴衣を着ているというわけだ。












「……あ、そうだわ、ちゃん! 
 まだ時間ある?」

「はい、まだ大丈夫です」

「じゃあ、せっかくだからちょっと写真撮りましょうよ」

「姉御ォ!
 私もと一緒に撮ってヨ〜!」

「いいわよ」


そんなこんなで……
何故か撮影会?のようなものが始まってしまう。





「…………」











「……あっ、お妙さん、神楽ちゃん、ごめんなさい。
 依頼主との待ち合わせもあるので、そろそろ出ないと」

「あら、そう?
 残念だけど、仕方がないわね」

「私たちも後での手伝う店、見に行くネ!」

「うん、ぜひ!」


さてと……





「じゃあ、お仕事行ってきます!」

「「「行ってらっっしゃーい!!」」」



















「送ってくれてありがとう、銀さん」

「気にすんなって」


行きはともかく、帰りは遅くなるし危ないんじゃ……

というお妙さんと神楽ちゃんからの意見もあり、
あたしは銀さんにお祭り会場まで送ってもらっていた。






「帰りはどんくらいになるんだ?」

「えーと……
 片付けとか考えると、3時間後くらい……かな」

「3時間後な。
 解った、じゃあそんくらいに迎えに来るわ」

「うん、ありがとう」


そうして銀さんが、原チャリで走り出す……

……のかと思いきや、
何故かそこから動く様子が見られない。

何か忘れ物かと思って、声を掛けようとすると、





「……、その浴衣すげェ似合ってんな。
 またたまに着てくれよ……かわいーし」

「ええっ!? あ、あの、」

「……じゃーな」

「あっ、銀さん…!?」


既に走り出していた銀さんは、
片手を上げて答えてくれたけど……

原チャリを止めることはなく
そのまま走り去ってしまった。










「……でも、そっか……良かった」


浴衣に着替えたあと、銀さんずっと黙ってたから……

もしかして似合ってないんじゃないか、
って心配してたんだけど。

そういうわけでも、なかったみたい。





「……よし、お仕事がんばろう!」


気分の浮上したあたしは、
やる気満々で待ち合わせ場所に向かった。


















「じゃあ、さん。
 さっきの打ち合わせ通り、売り子をお願いね」

「はい!」


依頼主と落ち合うと、他のお手伝いさんたちも加え
今日の作業の流れについてみんなで打ち合わせをした。

定食屋さんと営むだけあって、
調理をメインで行うのは依頼主のご夫婦。


あたしは料理が苦手だし、万事屋としていろんな人と接してきたので
売り子さんのほうがやりやすいかも……

そんな話を事前にしてはおいたので、
そのままその担当になったようだ。










「……でも、ごめんなさいね」

「え?」


お勘定台の整理整頓をしてたら、
依頼主の奥さんが唐突に言った。





「よく考えたら、さんだってまだ若い女の子だものね。
 誰かいい人と、お祭り参加したかったんじゃないかしら」

「えっ!?」


少し意地悪に笑って奥さんがそう言うので、
変に焦ってしまった。





「その浴衣だって、その人に見せたかったでしょう?」

「え、い、いや、あのっ……
 そ、そもそも『いい人』なんて居ませんし!!」


奥さん、絶対楽しんでる……!





「あら、そうなの?」

「そうなんです……!!」

「残念ねェ、こんなにかわいいのに」


か、可愛くはないですよ……!

そんなことを思いつつ、
あたしは楽しそうな奥さんの隣でたじたじになっていた。


と、とにかく、そろそろお祭り始まるし、
気合いれてかないと……!
























「……オイ、

「え……?」


無事にお祭りが終わり後片付けをしてる最中、
ふいに声を掛けられて……

誰かと思って顔を上げてみると、
予想もしていなかった人の姿があった。





「しん、すけ……?」


なんで、こんなところに……!

あたしが何も言えないでいると、くくっと楽しそうに笑った晋助は、
何か袋のようなものを差し出してきた。






「……何これ?」

「いいから受け取れ」

「え? ちょっと……!」


反論する間ももらえず、
そのままその袋を押し付けられた。

それを、反射的に受け取ってしまい……

とりあえず中身を確認してみようと袋をのぞき込むと、
何かいいにおいがする。






「これ、……」


お好み焼きだ……。






「お前……確か、それが好きだったよなァ?」

「う、うん。そうだけど……」


なんで知ってるんだろう、この人……
確かに好きだけども、なんで突然お好み焼きくれたの?

そんな風に考え込んでいる間に、
晋助はすたすたと歩き出してしまう。






「あ、ちょっと……!」


……どうしよう。

たぶんこれ、屋台で買ってきてくれたんだろうけど、
いま渡されても困るってゆうか……
(まだ依頼中だし……)













さん。
 後片付けもだいたい終わったから、依頼はここまでで大丈夫よ」

「え? で、でも……」


まだ明らかに途中だし……






「彼のこと、追いかけたほうがいいでしょ?
 あなたの『いい人』なんでしょうし」

「確かに、唐突なお好み焼きの意味が解らないので、追いかけようかと……
 …………って、だから違いますよ!!」


奥さん、さっきから絶対楽しんでる……!
(てか初対面で「俺に惚れてるだろ?」とか言ってきた馬鹿ですよ、あいつ!!)






「まあ何にしろ、気になるなら追いかけたほうがいいわよ。
 本当に、もうこっちの作業は大丈夫だから」


そこまで言われてしまったら、
これ以上、後片付けを続けるのも……。

そう考えたあたしは、奥さんにお礼を言って
もうかなり向こうのほうに行ってしまった晋助を追いかけた。



















「……晋助!」


慌てて追いかけたら、意外とすぐに追いつけた。

もしかして、追いかけてくるのが解って
ゆっくり歩いていたのかも……

……なんて、変なことを考えてしまった。






「どうした? さっきの今でもう俺が恋しくなったかァ?」

「いや、違います」


また意味わかんないこと言ってるし……





「そうじゃなくて、これ……
 なんで突然お好み焼き?」


先ほど手渡されたばかりの袋を見せながら、あたしは言う。





「……まァ、なんだ。
 祭りもろくに楽しめず仕事してたやつへの褒美、ってとこか」


いや、「楽しめず」ってゆうか、自分で受けた依頼だし。

でも、ご褒美って言われると、ちょっと嬉しいような……
結局お好み焼きが好きなことには、変わりないしね。











「……あの、」

「なんだ」

「これ食べていい?」


実は、依頼中は何も食べてなかったから、
お腹すいてたんだよね……

すごくおいしそうだし、このお好み焼き。





「好きにしろ。
 それはもう、お前のモンだしな」


フッと少し笑って、晋助は言った。








「……ついてこい」

「え?」

「いいから来い」

「ちょ、ちょっと……!」


再びすたすたと歩き出してしまう晋助を、
あたしもまた慌てて追いかけるのだった。














「……そこ、座って食え」

「え?」


もしかして、座れるところに連れてきてくれたのかな。
いや、でも、そんな気遣いが出来るようには思えない……

……と、とにかく、せっかくだから食べよう。
冷める前のほうが、おいしいだろうしね。





「じゃあ、……いただきます!」

「おう」


隣に座った晋助に向かって一言言ってから、
お好み焼きに手を付けた。

一口食べてみると、濃厚なソースとマヨネーズに味付けされた
大好きなお好み焼きの味が口の中に広がる。





「……おいしい!」

「ククッ……良かったじゃねェか」


やっぱりお好み焼きはいいよね。
たこ焼きや焼きそばなんかも好きだけど、お好み焼きは格別!

そんなことを考えながら、一口、また一口と
あたしはお好み焼きを食べ続ける。





「お好み焼きくらいで、んな幸せそうな顔しやがって……」





「……え?何か言った?」

「なんでもねーよ」


なんだろう……
ただの独り言かな?











「オイ」

「ん?」

「お前、口んとこにソースついてるぜ?」

「ええっ!?」


は、恥ずかしい……
てゆうか、急いで拭かないと!

えーと、確かティッシュ持ってきてたはず……





「……

「何、……
 …………!?」


名前を呼ばれ、反射的に晋助のほうを見ると……
突然、口元をぺろっと舐められた。





「な、な、な、……!?」


何してるのこいつ……!?





「取れたぜ、ソース」


至極楽しそうに笑って、そう言い放つ。





「え、あの、」


いや、何言ってるの!?
意味わかんないよ……!!












「……俺ァ、そろそろ行くぜ。じゃーな」

「ちょ、ちょっと!」


突然現れてまた突然居なくなるって、どうなの…!?





「ちょっと、晋助……!」

「またな」

「晋助!」


もう一度呼び止めたけど、足を止めることなく
結局そのまま立ち去ってしまった。










「……何だったんだろう、もう」


てゆうか……





「唇……ちょっとあたってた……」


あたしは顔が真っ赤になっているのを自覚しながら、
その原因である人物の後ろ姿を、ただただ見つめていた。