思案していたより先に、一部始終を見ていたらしいトシがお姉に声を掛ける。
「あっ、ひじかたさん!
ひじかたさんが、いっしょにねてくれるんですか?」
「んなワケねーだろ。
俺は寝ねェがお前はもう寝るんだ」
「なんでですかぁ!」
「そんなに酔っ払っといてまだ遊ぶ気か?
騒ぎ足りないならまた後で付き合ってやるから、今日はもうさっさと寝ろ」
「いやですぅ!」と騒ぎ立てるお姉の反論もテキトーに受け流しつつ、
トシはお姉をひょいっと抱きかかえる。
「ひゃあっ! なっ、なにするんですかぁ!」
「強制送還だ」
いわゆる「お姫様だっこ」をされたお姉は抵抗を見せるものの、
トシにはあまり効いていないようだった。
「やだやだ!」
「やだじゃねェ」
「ひじかたさんが、いっしょにねてくれないといやです!」
「寝るのはお前だけだっつの」
そんなことを言い合いつつも、トシはお姉を抱いたままのほうを振り返った。
「オイ。こういうときのために、部屋くらい取ってあんだろ」
「……ああ。これがその鍵だ」
疑問形ではなく確信めいた言い方をしてきたところは、さすがだと思いつつ
は持っていた部屋の鍵を、両手のふさがっているトシのスーツのポケットに入れてやる。
「部屋は6階だ。お姉をしっかり寝かしつけてきてくれよ」
「あァ。すぐ戻る」
そう言い残し、トシはパーティ会場を出て行く。
「、俺の首に手ェ回してつかまってろ」
「……は〜い…………」
そしてお姉はというと……
抵抗することに疲れたのか、さっきまでとは打って変わって静かになっていた。
「おっ、オイ、ちゃん……トシに任せて大丈夫なのか!?」
「は? 何のことです?」
「いや、だって……
あんな可愛いちゃんと二人きりで部屋にだなんて……危険でしょォォォ!!!」
「危険なのはアンタの頭だよ」
一人で変にテンション上げてる近藤さんにバッサリ言ってやる。
「でもでもォ!
もし俺が、あんな状態のお妙さんと二人で部屋に居たら絶対ぐはぁっ!!!」
近藤さんが全てを言う前に、お妙のパンチが炸裂していた。
「お、お妙さん……
今日もいいパンチでした……ガクッ…………」
近藤さん……安らかにお眠りください。by
(って、まだ死んでないからね!? by近藤)
「とりあえず、バカは放っておいて……
私たちは、もう少しパーティを続けましょうか」
「そうだね……
頃合いになったら、ウチらもお開きにしよう」
未だ戻ってこないドSコンビを気にする者はおらず、
もう少しこのパーティの余韻に浸ることにしたたちだった。
「よし……
ほら。部屋に着いたぞ、」
に指示された通り部屋に来た俺は、
さっきまで抱きかかえていたをベッドにおろしてやる。
だが、俺の首に回した手をがほどく気配は無かった。
「…………オイ、? どーした?」
「…………」
話しかけても反応は無いが、寝ちまったってワケでもなさそうだ。
さて、どうするか……と、考え始めたとき。
「土方さん…………ありがとう、ございます…………」
が、小さな声で言った。
「あたし……今……すっごく、幸せです…………」
少したどたどしいが、さっきより言葉はハッキリしてる。
『あたしを……一人にしないで…………置いて……いか、ないで…………!』
『もうお前は一人じゃない。
今だって……俺がいるだろ…………?』
「あのとき……土方さんが……そばに、居てくれた……から…………」
ありがとう…………
「…………」
そう言った直後……
の手が緩むのを感じ、回されていたそれをほどいてゆっくり寝かせてやると。
「…………寝ちまったか」
既にもう、は夢の中だった。
そんなコイツの頬にそっと触れて、俺は言う。
「…………俺はずっと、お前のそばにいる」
おそらくもう俺の声は届いてないだろうが、微かに笑った気がした。