ガタガタッ
「やべっ……!」
「ん……?」
何だろう、物音がする……
思い出のアルバムを心に――第五話 いつもそばで大切に想ってくれてる、あたしのサンタさん
銀さんか神楽ちゃんが来たのかな……?
そんなことを考え、眠い目をこすりながら
布団から出るため身体を起こしてみると……。
「えっ…………
サンタさん、ですか……?」
そう、あたしの部屋(として使わせてもらっている部屋)に、
なんとサンタさんの姿があった。
――確かに今日はクリスマスイブだし、
サンタさんが居てもおかしくはないんだろうけど……
「サンタさんは、子どもにプレゼントを配るんじゃ……」
さすがにあたしは、もう子どもっていう年齢でもない。
そんな疑問を、そのままぶつけてみると……
背中を向けていたサンタさんが、
ゆっくりとした動作で振り返って言う。
「あ、あーー……
俺ァ子どもにも大人にも、いい子にはプレゼント配ってんだよ」
そこらへんはちゃんと平等にいくサンタだかんな俺は、と、
銀髪の……ちょっとくせっ毛なサンタさんは続けた。
「そう、なんですか」
でも、サンタさんか……
小さい頃は来てくれてたけど、もうずっと来てなかった。
ちょっと嬉しいかもしれない……。
「……ほらよ、これがお前へのプレゼントだ」
「ありがとうございます、サンタさん。
これは……箱、ですか?」
「あァ」
サンタさんは、手のひらに収まるくらいの小さな箱を手渡してきた。
受け取ってみると、思いのほか軽い。
「なんだか、何も入ってないみたいですね」
「みたい、じゃねーよ。
実際そこには何も入ってねェ」
冗談で言ったつもりだったのに、どうやら本当だったようで。
当たり前だ、と言わんばかりの口調でサンタさんは答えた。
「中身は後でもらえるはずだ。
まァ、楽しみに待ってろ」
「はぁ……
その中身は、どうやって頂けるんでしょうか?」
「その箱を開ければ、もらえる方法が解る」
「えっ」
プレゼントに固執するわけではないけれど……
そう言われると気になってしまうもので、
思わず箱のフタに手を掛けると。
「ちょっ、ちょっと待てって!
そいつァまだ開けちゃダメなんだよ!」
「そうなんですか?」
「おう……
ほらアレだよ、今回ちょっと失敗してお前を起こしちまったが、
本来それは明日の朝、お前が手にするはずだったものだろ」
それは、確かに……
サンタさんが来たことに気づかず朝まで寝ていれば、
これを手にするのは明日の朝だった。
「だから、箱を開けるのは明日の朝だ。
そーゆーワケだ、朝まで待てるな?」
「はい、そういうワケなら朝まで待ちます」
「よォーし、いい子だ」
そう言ってサンタさんはあたしの頭をなでてくれた。
その手はあたしの大好きな手、……だった。
「じゃー、俺ァもう行くかんな。
起こしちまっといて何だが、早く寝ろよ」
「はい……
……あっ、そうだ。サンタさん!」
「ん?」
部屋を出ていこうとするサンタさんを、あたしは慌てて引き留める。
サンタさんは不思議そうな顔をしつつも、足を止めてくれた。
「あの……もしかしてこれから、
銀さんと神楽ちゃんのところにも行きますか?」
「あ、あァ……まァ、そーだな」
サンタさんは何故か、ちょっと気まずそうにしながら頷いた。
「良かった、じゃあ銀さんへのプレゼントと一緒に
渡してほしいものがあるんです」
「渡してほしいもの?」
「はい」
すぐ準備しますので、ちょっと待っていてください。
サンタさんにそう伝え、あたしは筆と紙を取り出し机に向かう。
「何だ? 手紙か?」
「ええ、まあ」
サンタさんが後ろから問いかけてきたけど、
あたしはあえて詳しい説明はせず、ただ頷いておいた。
「……お待たせしました、サンタさん!
用意できましたので、これをお願いします」
「おう」
今しがた書いた手紙を折り畳み、サンタさんへと預ける。
「急いで書いてしまったものですが、
それはすごく大切な手紙なんです。だから……」
“ちゃんと銀さんが読んでくれるように”渡してください。
「…………あァ、解った。
俺に任せてりゃア心配いらねーよ」
「はい!」
良かった……
これなら、“ちゃんと銀さんが”読んでくれるよね。
「んじゃ、今度こそ行くぞ。
来年もいい子にしてりゃァ、また来てやっからな」
「はい、楽しみにしてます!」
そう答えると、サンタさんはまたあたしの大好きな手で
頭をなでてくれて……
その後はごく普通にふすまを開けて、
ごく普通に部屋から出ていった。
「はァ〜〜〜…………」
まさかを起こしちまうとはなァ……
「こっそりプレゼント置いてビックリさせる作戦が、
危うく変質者扱いされるとこだった」
つーか……
のやつ、マジで俺のことサンタだと思ってんの?
「まァ、バレたらバレたで恥ずかしいけどよォー」
バレないってもの逆に寂しいような……。
「……まァ、いいか。
それよりも、アイツが書いてた手紙?だっけか」
ちゃんと俺に渡してほしい、って強調してたからな。
よっぽど重要な内容なのかもしれねェ。
「今のうちに読んどくか……」
そう考え、俺は今しがた受け取った手紙を開いてみた。
“ 素敵なサンタさんへ
あたしのところに来てくれてありがとう、
銀髪のサンタさん。さすがにそんな年齢
じゃないけれど、とても嬉しかったです。
来年も、どうかあたしのところに来てね。
さて、ここからが本題です。明日、あた
しのお気に入りの甘味屋さんで、新商品
が発売されます。ぜひ試してみたいので、
一緒に行きませんか?いいお返事を期待
しています。
追伸 プレゼントもありがとう。まだ
開けていないから感想は言えませんが、
とっても楽しみです。いつもいつも、
あたしが嬉しいと思うことをしてくれて
ありがとう……銀さん。大好きです。
それじゃあ……おやすみなさい。
”
「…………!!」
から“俺”への手紙を読んだ後……
出てきたばっかの部屋に駆け戻り、
そのままの勢いでを抱きしめた。
「銀さんったら……
ダメだよ、最後までサンタさんを演じきらないと」
あー、ちくしょう……
「やっぱ、バレてねーワケねェよなァ〜……」
「うん。銀さんのこと、解らないわけないよ」
つーかそれ、ものすげェ殺し文句なんですけど……。
「ねえ、銀さん。
この箱、今開けてみてもいい?」
「いやお前それはダメだって、明日の朝っつったろーが」
「でも、銀さんだってあたしの手紙、もう読んじゃったのに?」
「ぐっ……
そ、それはそれ! これはこれだ!!」
「そういうの、屁理屈って言うんだよ……もう」
呆れながらも、はそう言って楽しそうに笑った。
「解りました、じゃあ明日の朝、開けるね」
「おう」
「それじゃあ、今度こそおやすみなさい……サンタさん」
「あァ……おやすみ、」
手紙に書いてあったことを聞いたり、
俺からも言いたいことはあったんだが……
また明日も一緒に過ごすんだ。
慌てるこたァねーよな。
“この箱の中身は、いつもそばで
お前のこと大切に想ってるやつ
がくれるはずだ。お前はただ、
待ってればいい”
言いつけどおりちゃんと待ってるからね、……銀さん。
「あっ、おはよう、銀さん!」
「おー、。おはよーさん」
「…………」(わくわく)
「……そんな物欲しそうな目で見なくたって、
ちゃんとやるよ」
「えっ! あたしそんな顔してたかな……」
俺がそう言うと、は少し慌てた。
……つーかコイツ、こーゆーとこホントかわいいよなァ。
「ほら、手ェ出せ」
「手……?」
「違げェって、右じゃなくて左」
「……??」
頭に?マークを浮かべながらも、素直に言うことを聞いた。
そんなの左手をとって、
俺は“箱の中身”を薬指にはめてやる。
「わあ……かわいいリング……!」
「言っとくが、そんないいモンじゃねーからな」
「ううん、値段は関係ないよ。
銀さんがくれた、大切なものだから……ずっと、大切にする」
「…………そーか」
やっぱ俺、一生こいつに敵う気しねーわ。