「…………」


          船の真ん中って言うと、
          だいたいこの辺りだと思うけど……

          さっきみたいに行き止まりがあって、
          解りやすい部屋があるわけでもない。





          「ひとまず、不審な場所の目星をつけないと」


          そう考えつつ、あたしは風の流れが違う場所を探った。













9周年記念企画――第二話 二つ目の調査





















          「うーん……」


          船の中腹に着いてすぐ、風の流れを探っってみたけど……
          正直、目ぼしい場所を特定できないでいる。





          「……おかしい」


          風の流れが違う場所があれば、いつもすぐに解るのに。

          ……いや、違う。
          確かに場所は解るんだけど、一つ所じゃないっていうか……





          「これは、たぶん……移動してる?」


          そうなると、この付近で「風の流れが違う」理由は、
          不審な物じゃなくて人だってことになる。

          この船に溶け込んでいない人……
          つまり、あたしたちと同じ侵入者だ。










          「…………」


          今この船全体で、風の流れが違うのは六ヶ所。

          前方で見つけた、銃のしまってある部屋と
          その近くに居る銀さんで二ヶ所。

          後方にあると考えられる不審な物と、
          そこに向かった土方さんでさらに二ヶ所。

          そして、ここに居るあたしと……
          近くにもう一か所、合わせて六ヶ所だ。





          「近くにもう一か所……
           それが、人である可能性が高い」


          元からこの船で行動してる攘夷志士じゃない人。
          土方さん、銀さん、もちろんあたしでもない。

          だったら、いったい誰……?





          「とにかくその『誰か』を調べれば、
           ここでの調査は終わりだよね」


          土方さんもまだ後方に居るとなると、
          調査がうまくいっていないのかもしれない。

          ここを先に調べておけば、銀さんと合流して
          後方に向かってもいい気がするし……





          「よし……行こう」


          そんな結論に至ったあたしは、「近くのもう一か所」……
          風の流れが違うところを目指すことにした。




















          「…………」


          ……やっぱり移動してる。
          間違いない、あたしが調べようとしているのは「人」だ。





          「こっちに向かってきてるみたい……」


          このまま進めば、会えるはずだけど……















          「…………アレ?」


          さっきまでこっちに向かってきてたはずなのに、
          誰も居ないし気配も感じられない。





          「一体どこに……」


          ……いや、待って。
          急に風の流れが変わって、あたしの後方に……!

          まずい、と思い、慌てて振り向くと……





          「……!!」


          そこには、予想だにしていなかった人の姿があった。










          「よォ、……
           お前とはつくづく、縁があるみてーだなァ」

          「しん、すけ…………?」


          なんで、晋助が……この船に…………?





          「何てことはねェ、お前と同じだ。
           俺もここで、調べてェことがあってな」

          「……調べたいこと?」

          「あァ」
 
 
          まさか、この船で活動する人たちを
          取り締まるためじゃないだろうし……

          だとすると……





          「ここで活動している攘夷志士たちの何かが、
           晋助にとってマイナスになってるの?」

          「さすが、察しがいいな。その通りだ」


          いつものごとく楽しそうに、晋助は言った。










          「こいつらどうも、鬼兵隊を名乗ってるらしくてなァ」

          「……! 
           でも、鬼兵隊って晋助たちの……」

          「あァ。
           まァ名乗るくらいなら、勝手にやらせておくんだが」


          ここの攘夷志士たちは、鬼兵隊の名前を使って
          色々な組織に協力を仰いだりしているらしく……





          「俺たちが動きづらくなったら困るだろう。
           だから、事の真相を確かめに来たってワケだ」

          「そう、なんだ……」


          確か、晋助の下には相当な手練れも居たはずだけど……
          けっこう自分で動くことも多いのかな。

          晋助には悪いけど、ちょっと意外……。














          「お前はまた……真選組にでも頼まれて調査か」

          「う、うん」


          下手に嘘をついても仕方ないと思い、
          あたしは素直に答える。





          「今日も土方さんと……
           あと、銀さんにも来てもらってる」

          「そうか……奴も来てんのか」


          あたしの言葉に、晋助はまた楽しそうに笑った。










          「晋助はもう、調べ事は終わったの?」

          「そいつを聞いてどうする?
           まさか、ついでに俺を捕まえでもする気か?」

          「…………」


          確かに、土方さん――
          真選組としては、そうしたいだろうけど……

          ここは敵地の上に、あたしたちは今、みんな散り散りだ。





          「今日ここに来た目的は、晋助を捕まえることじゃない。
           あくまで船内の調査だし、それに……」


          それに、船の前方では銀さんが攘夷志士相手に戦ってる。
          これ以上余計な騒ぎは起こさないほうがいいだろうし……





          「それに、悔しいけど……
           あたし一人じゃ、晋助には勝てない気がする」

          「クッ……己の力量をしかと見極めているか。
           本当にお前は、他の女どもとは一味違げェな」


          褒められてるのに、そんな気がしないんですけど……
          ……いや、そんなことより。










          「今、銀さんが船の前方で攘夷志士と戦ってるの。
           侵入者が居るっていうことは、知られちゃってるし……」


          侵入者捜索の手がここや後方まで来るのも、時間の問題だ。





          「まだ今なら、難なくここから撤退できると思う。
           調べ終わってるなら、早く退いて」

          「ほう……何故、それを俺に教える?」


          さっきまでの楽しそうな表情が一変、
          あたしを探るような目で見つめてくる晋助。

          けど、なぜかそれが怖いとは思わなくて……
          あたしも、その目をしっかりと見つめ返し答える。





          「……その真意はどうであれ、
           何度か協力してもらったのは事実だから」

          「だから俺を助けるっつーワケか」

          「助けるっていうか……あたしはただ、」















          「侵入者が他にも居る可能性がある!
           ここいら一帯も調べるぞ!」

          「あァ、解った!」















          「……!」


          もう、ここにも攘夷志士が……!?






          「どうやら、一足遅かったようだな……ククッ」

          「わ、笑ってる場合じゃないでしょ!」


          ほんと、銀さんといい晋助といい、のん気な……
          ……って、あたしもこんなこと言ってる場合じゃない!





          「とにかく、早くここを離れないと……!」

          「……、お前は船の後方に向かえ」

          「えっ?」


          どういうこと……?





          「この船の前方に銀時、中腹にお前が居る。
           とすれば、後方には残る土方が居るんだろう?」

          「……!」


          あたしのこと察しがいいとか言ってるけど、
          晋助だって相当頭がキレる気がする……。





          「銀時が暴れてんなら、前方には行くべきじゃねェ。
           ならば残るは後方だ。後方で土方と合流しろ」

          「晋助は……どうするの?」

          「俺か? 俺ァ……」


          楽しそうな表情を崩さず、
          晋助は、すっと滑らかな動きで刀を抜く。





          「鬼兵隊の名を使って色々やってくれた連中に、
           礼をしようと思ってたところだ」

          「……! 晋助!」

          「じゃあな、……また会おうぜ」

          「晋助!!」


          呼び止めても、全くこちらを振り返らず……

          晋助はそのまま、
          先ほど攘夷志士の声がしたほうに走っていった。















          「晋助……」


          どうしよう……
          あたしも晋助を追いかけて加勢するべき?





          「でも……」


          組みやすい銀さんや土方さんならともかく、
          晋助については、戦う姿を見たことすらない。

          そうなると、逆に足を引っ張ってしまう可能性もある……。





          「それに……
           晋助はこの混乱に乗じて、撤退するつもりかもしれない」


          ……やっぱりあたしが一緒に居たらよくない。
          だったら……






          「言われた通り、今は後方に行って土方さんと合流しよう」


          そう結論を出し、あたしは船の後方に向かって走り出した。










          「晋助…………」


          どうか、晋助が無事に撤退できますように……!