『ねえ、瞬兄……さん、見なかった?』

『いえ、見ていませんが……何か用でもあるのですか?』

『ううん、そういうわけじゃないけれど……』
























朝ごはんのとき以来、さんを見かけていないの。
みんなも知らないって言うし……

気にし過ぎかもしれないけれど、もし何かあったらって思ったら――……








「……彼女に限って、何かある方が確率的に低いでしょう」

戦向きの力を持つ彼女のことだ……

その辺の弱小怨霊に負けることなど到底考えられないし、
それは相手が人であるならば、尚更のこと。





「ゆきは心配のしすぎなんですよ」

そう思いはするものの、俺はこうして彼女を捜し回っている。





「全く……」

ゆき以上に、俺は心配性のようだ。
それを実感しながらも、なんだか悔しくて自然と歩調を速めるのだった。















「……!
 あれは…………」

宿の中を歩き回ったが、なかなか彼女が見つからない。
もしかすると外に出ているのだろうか、と思い始めたそのとき……

庭の木の根元にある人影が、目に入った。










「…………見つけた」

やはり、彼女だった。





「う、ん……すー……すー……」

近付いて様子をうかがってみると、
木の幹に寄りかかり気持ちよさそうに眠っている。





「…………幸せそうな顔をしていますね」

こちらの気も知らないで……。

そう考えたものの、きっと疲れているのだろう……と思い直した。





「戦向き、ということは……それだけ身体にも負担がかかっているはず」

となれば、こうして日中から眠ってしまうのも無理はないのかもしれない。
俺たち八葉とは別の使命を与えられたこの人の、背負うものは計り知れないのだ。










「……仕方ない」

あまり長居をすると風邪を引いてしまうかもしれないが、
今は、もう少しだけ……





「ゆっくり休んでください……さん…………」



























「すー……すー……」

「…………」

あれからしばらく経ったが、彼女は一向に起きる気配を見せない。

……実はそろそろ起こそうと何度か思い立ったものの、
あまりにも気持ちよさそうに眠っているので起こせずに現在に至っていた。





「…………」

俺はそっと、彼女の頬に触れる。





、さん…………」
















+++
















「…………?」

なんだろ……左の頬が、あったかい……

これは……誰かの、手…………?





「…………」

そう思いながら、薄く目を開ける。





「…………あ、……」

顔が……目の前に…………

しゅ、ん…………










ちゅ




















「……瞬…………」

「……っ!?」

直前に目を開けていたから、キスをされたことはすぐに解った。
一方の瞬はというと、あたしが起きていたことに驚いているらしい。





「っ……さん……
 起きて、いたんですか……いつから…………」

「うん……つい、今……」

まだ眠気が取れず、あたしは目をこすりながら答えた。









「…………起きていたのならば、何故拒まなかったんですか」

少し怒りが混じっているような声で言う。





「だって……拒む理由が、……無いもん」

「……それは、…………」

どういうことだ、っていう顔をしたから、
ちょっと恥ずかしく思いつつも、あたしは答える。





「相手が瞬なら、その……嬉しい、し……」

「っ……、さん…………」

瞬は顔を真っ赤にさせ、それきり何も言わなくなった……
というか、何を言おうか迷っているって感じだった。

……一方のあたしも、(自分じゃわからないけど)きっと真っ赤になっていると思う。











「……ねえ、瞬?」

「は、はい」

「あのさ、瞬ってあたしのこと……」

「っ……待ってください、さん」

瞬が、なんとも思ってない人にキスなんてするわけない。
それは、よく解ってる。

でも、なんか……やっぱどう思ってるのか聞いてみたくて。
思いきってあたしから切り出してみたんだけど、遮られてしまった。





「俺の方から、話したいことがあります」

「……うん」

「ですが、少し待ってもらえませんか?
 今、その……話したいことを、まとめていますから」

「……うん?」

話したいことをまとめてる、って……なんか、瞬らしくないな。
まだ顔赤いし、珍しく慌ててるみたいだ。
(なんて冷静に言ってるあたしだって、実はそんなことないんだけど)





「その……すぐお話ししますから、もう少し待ってください」

「う、うん……解った、ちょっと待ってるよ」

あたしの答えを聞いた瞬は、くるっと身体を反転させ何かぶつぶつ言い始めた。
どうやら本当に、言いたいことをまとめているらしい。










「……あははっ」

未だ真っ赤な顔で真剣に悩んでる姿がかわいくて、あたしは少し笑ってしまった。
でも、考えをまとめることに集中している瞬は、気づいてないみたいだ。





「しょうがない……もうちょっと、待ちますか」

でも、あたしも気は長いほうじゃないから、もうちょっとだけだよ。
もうちょっと経っても瞬がまだ考え込んでいるようなら、そのときは……























その背中に、思いきり抱きついてみようかな?


(そして、「あなたのことが好きです」って 伝えてみるのもいい)