「侑士ー」
「なんや」
「明日って暇?」
「まあ……暇といえば暇やなぁ」
学校からの帰り道、あたしは侑士にそんな質問をした。
何かあるん?という侑士の言葉に、「秘密」とだけ答える。
「教えてくれへんのかいな」
「今はまだね!
でも、できれば予定はそのまま空けといてほしいな」
結局あたしはあんまり詳しい説明をしなかったけれど、
侑士は「ほな空けとくわ」と言ってくれた。
「じゃあ、10時に侑士んち行くね」
「俺が迎えに行った方がええんとちゃう?」
「ううん、あたしが行く!」
明日くらいは、自分から迎えに行きたい。
そう思ったあたしは、侑士の申し出を断った。
「……なんか企んどるんやないやろな」
「企んでなんかないよー」
本当は企んでいるけれど、今は秘密だから駄目。
「明日楽しみにしててね、侑士」
ごまかすようにそれだけ言って、家の前で別れた。
「おはよう、侑士!」
「ああ、おはようさん」
朝から元気なやっちゃな、と、頭をぽんぽんたたかれる。
「う、うん! じゃあ、行こう?」
「せやな」
本当だったら、あくびをしている侑士に「寝ぼすけー」とか
いろいろ言ってやりたいとこだったんだけど……
頭をなでられ、そんな言葉も飲み込んでしまった。
「…………」
あたしが頭なでられるのに弱いこと知ってて、
わざとやってるんだ。
そんな風に恨めしく思いつつも、
あたしはすぐに気持ちを切り替える。
こんな素敵な日にそんなくだらないこと、
ずっと気にしてたって仕方ないからね。
「どないしたん?」
急に黙り込んだあたしに、侑士が声を掛ける。
「ううん、何でもない!」
不審に思われないよう、努めて自然にそう答えた。
「それより、早く行こう!」
早くしないと、時間に間に合わないからね。
あたしは不思議そうにする侑士の手をひいて、
目的地まで急いだ。
「映画かいな」
「うん!」
そう、あたしの目的地とは、映画館だったのだ。
「せやから時間を気にしてたんやな」
「そーゆーこと!」
見逃したから次の回……ってなると、
いろいろ予定も狂っちゃうし。
「で、何見るん?」
「うん、これ!」
取り出した前売り券を見せながら、あたしは答える。
「ええやんか、俺ちょうど見たいと思ててん」
「でしょー? さすがあたし!」
なーんて、侑士がこの映画見たがってたことは、
事前に岳人から聞いてたんだよね。
まあ、侑士はラブロマンスが好きだし、
好みが解りやすいっちゃあ解りやすいんだけど……
今回のは、実はラブロマンスじゃないんだよね。
「はよ行かな始まってまうで」
「そうだね!」
なんでこの映画を見たがってたのか……
ちょっと気になるけど、とにかく今は実際に見てみよう。
そう思い直し、あたしは前売り券を入場券と引き換えて、
映画館の中に入った。
「時間ギリギリやんな」
「うん、間に合ってよかったね」
ちょうどあたしたちが席に着いた直後、
館内の照明が落とされた。
“俺たちって、別にすげー仲がいいってわけじゃない。
けどさ……やっぱ、互いを認め合ってるからだろうな”
――同じ道を共に目指して、認め合っているから。
“だからきっと、笑い合っていられるんだろう”
「…………」
侑士が見たがっていたのは、青春ものの映画だった。
全く見ることが無いかと言われれば、そうじゃないけれど、
やっぱりラブロマンス系以外のものを見るのは珍しい。
「……侑士、聞いてもいい?」
「なんや?」
また不思議そうにこちらを見た侑士に、あたしは続けて問いかける。
「……侑士は、なんであの映画を見たいと思ったの?」
ラブロマンス系以外を見たがるのは、珍しいよね。
そこまで言うと、ちょっと間を空けた後で侑士が口を開く。
「せやな……正直言うと、明確な理由は無いねん」
理由が無い?
「映画の紹介しとる記事を読んでなぁ……
見てみたいと思たんや」
何かに惹かれたんやな、と侑士は言って。
本人は気付いているか解らないけれど、とても優しい顔をしていた。
「……そっか」
あの映画に侑士が惹かれたのは、なんとなく解るよ。
「あの映画の主人公たちね、侑士たちに似てるよ」
侑士たちと……
侑士とテニス部のみんなに、似てると思うんだ。
「だから、惹かれたんじゃないかな」
あたしがそう言うと、侑士は少し苦笑いして。
「俺たちは、あんな綺麗な関係やないで」
そう言いながらも、なんとなく嬉しそうだった。
「ねえ、侑士ー」
なんだかしんみりしてしまった空気を変えたくて、
わざと明るい声を出して呼ぶ。
「なんや?」
「少し、ここで立ってて」
それだけを言って、あたしは侑士から少し距離を取る。
そして、思いきり息を吸い込んで叫んだ。
「“俺たちって、別にすげー仲がいいってわけじゃない。
けどさ……やっぱ、互いを認め合ってるからだろうな”
――同じ道を共に目指して、認め合っているから。
“だからきっと、笑い合っていられるんだろう”」
あたしが口にしたのは、映画のあのフレーズ。
「“あたしは……そんな侑士たちの関係を、
一歩後ろに下がって見ているのが好きだった。
仲間(みんな)のことを信じてるけど、それをうまく表せない……
そんな、ちょっと不器用な侑士が好きなんだ”」
「……!」
あたしの言葉に、侑士が目を見開く。
そんな侑士の姿に少し笑ってしまったけれど、
あたしはそのまま言葉を続ける。
「“大好きな侑士が生まれた日を、せいいっぱい祝いたいです!
おめでとう!”」
――本当に、おめでとう。
「…………“ああ、ありがとうな。
俺もお前のことが、めっちゃ好きや”」
“せやけど恥ずかしいやっちゃな”と、
ちゃんと最後のオチも付けてくれた。
“俺たちって、別にすげー仲がいいってわけじゃない。
けどさ……やっぱ、互いを認め合ってるからだろうな”
――同じ道を共に目指して、認め合っているから。
“だからきっと、笑い合っていられるんだろう”
映画の主役とその仲間が、そんなことを言い合っていた後。
彼らと共に同じ部活で過ごしていた少女が、
彼と二人になったときに言った。
“私は……そんなあなたたちの関係を、
一歩後ろに下がって見ているのが好きだった。
仲間(みんな)のことを信じてるけど、それをうまく表せない……
そんな、ちょっと不器用なあなたが好きなんだ”
少女は彼から少し離れた場所に居るから、自然と声も大きくなっていて。
“大好きなあなたが生まれた日を、せいいっぱい祝いたいです!
おめでとう!”
きらきら光る笑顔で、少女が叫ぶと。
“…………ああ、ありがとう。
俺もお前のことがすげー好きだ。
けど、ほんと、恥ずかしい奴だな”
それが照れ隠しだということを、少女は解っていた。
それはまるで 映画のワンシーンのような
(らしい祝い方やけど)
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実は高校の3年間はずっと侑士一筋だったので、
こう見えて(?)けっこう思い入れもあります。はい。
読み返すと結局何を書きたかったのか自分でも謎なんですが(オイ
とにかく、ヒロインが映画と一緒の行動するところが
粋だなぁというのを表現したかった…気がします。