『全く、お前ってやつは……』
『九郎さんだって、人のこと言えませんよ!』
私にとって、二人は眩しすぎた。
彼らを光と例えるのならば、私は闇。
相対する位置に身を置く存在なのだ。
『ギッシャアァァ!!』
『……!?』
この世界に飛ばされてのち……
怨霊に襲われた私を、助けてくれたのは彼だった。
『こんな所で何をしている』
『え……?』
聞けば、そこは戦場の真っ只中で。
女一人が出歩くような場所ではないという。
『あ、たし……みんなと、はぐれて…………』
唯一口に出来たのは、それ。
『なんだ……迷子か?
とにかくここに居ては危険だ。俺たちと来い』
言われるがままに、私は彼についていった。
その先で、共に飛ばされた望美や譲と再会することも出来た。
『!』
『望美……』
『無事で良かった……
…………まぁ、九郎さんが助けてくれることは解ってたけど』
『え?』
『あ、ううん! 何でもないよ』
それから、望美が白龍の神子であること、譲が神子を護る八葉であること、
共にいた小さな子どもが望美を選んだ白龍であること……
色々なことが、解っていった。
『神子だなんて、御伽話じゃないのか?』
そう言った彼もまた、八葉だった。
それから、神子と八葉は互いの絆を深めていった。
初めは神子に良い印象を持っていなかった彼も、
いつから神子を信頼し、共に戦場で戦うことも厭わなかった。
『九郎さん、やりましたね!』
『あぁ、お前もよく戦っていたな』
比例して、二人の仲も良くなっていった。
――私は無力だ。
望美のように刀を振るうことも、譲のように神子を護ることも出来ない。
ただ、みんなに護られているだけ。
ならば、私がこの世界に来た理由とは?
白龍の神子、そして八葉になるべく在った望美、将臣、譲が
この世界に飛ばされたことは、納得できる。
けれど、私は何故……
どうして飛ばされたのだ。
何の力も無く、何も出来ないというのに。
「どうして…………」
私は、どうしてここに居る…………?
「…………少し、考えすぎたかな」
明日は早いからもう眠らなければいけないのに、
頭が冴えてしまって、それも出来ない。
「気分転換でも、しよう……」
そう思い、私は部屋を出て、庭に降りた。
「…………」
みんな、もう完全に寝静まっている頃。
だから物音などは聞こえない。
ただ、虫の声と風の音だけが耳に入ってくる。
「光と闇、か…………」
今宵は、曇っていて月も見えない。
辺りが、暗闇に支配されている。
……私自身も、その闇に飲み込まれそうだった。
「…………いや、それはないか」
何故ならば、私自身が闇なのだから。
飲み込まれる心地がするのならば、
それは本当は闇と一つになるということなのかもしれない。
『全く、お前ってやつは……』
『九郎さんだって、人のこと言えませんよ!』
「…………」
私にとって、二人は眩しすぎる。
彼らを光と例えるのならば、私は闇。
相対する位置に身を置く存在なのだ。
――もう、二人を見ているのはつらいのだ……。
「このまま、闇と一つになって、消えてしまいたい…………」
そうすることが出来たならば、どんなに楽なことか。
そんなことを思いながら目を閉じると、ふと声が聞こえてきた。
「行くな」
私が、この世界に来て初めて聞いたものと、同じ声。
「九郎、さん……」
振り返ってみると、彼が立っていた。
「闇の中になんて、行かないでくれ…………」
悲痛な面持ちをした彼が、消え入りそうな声でそう言った。
「なんで…………」
何故、あなたが。
どうしてあなたが、そんなに哀しそうな顔をするの…………?
「誰かの気配がすると思って、部屋を出たんだ……」
何も言わない私に向かって、彼は話し出した。
「そうしたら、庭に居るお前を見つけた。
月も出ていない、暗い闇の中に居るお前を」
言葉を続ける彼の顔は、未だ哀しそうなまま……
……いや、今にも泣いてしまいそうだった。
「俺の考えすぎだろうが……
そのまま、お前が消えてしまうような気がした」
やめて、九郎さん。
そんな泣きそうな顔を、しないで……。
「直後、お前が言った。消えてしまいたい、と」
あぁ、あのとき。
彼は既に私を見つけていたのだ。
「だから、本当に消えてしまうのではないかと思って……
思わず、声に出していた」
『行くな』
彼は、そう言っていた。
「俺は……お前の、笑った顔が好きなんだ」
「私の……笑った、顔?」
「あぁ」
心から笑っていたのは、この世界に来てから間もない頃だけ。
最近は、自分でも解るほど作り笑いしかしていない気がする。
「だが、ここのところのお前は……泣きそうに笑っている」
泣きそうに、笑う? 私が……?
「完璧に笑顔を作っているつもりだったか?」
そう問われて、素直に頷いた。
だが、私のその答えを聞いた後、彼は少し笑った。
「そう思っているのは、お前だけだ」
望美も、譲も。
他の八葉のみんなも、朔も、私の作り笑いには気づいていたのだという。
「俺は、そういうことにあまり聡くはない。
だが、その俺でも気付いたんだ」
それほど、私の作り笑いが解りやすかったということ?
「いや……違うな。
俺はお前のことをよく見ているから、気付けたのかもな」
「え…………?」
よく、見ていた…………?
「なんで…………」
少し前につぶやいた言葉と同じものが、口から出た。
「解らない……ただ、お前の笑った顔が好きだから。
それを見たくて、お前のことを目で追っていたのかもしれない」
彼は、自分でも自分の行動が解らないのだと言った。
「お前が悩んでいるなら、遠慮なく相談してほしい……
お前が望む答えを、俺がやれるかは自信がないが」
何故、あなたは。
どうしてあなたは、そんなに優しくしてくれるの…………?
「また、お前が心から笑っている顔を見たいだけなんだ。
俺の我が侭に、付き合うと思ってくれていい」
だから、悩みがあるなら相談しろ。
彼は続けてそう言った。
「…………出過ぎた真似だったか?」
「っ……そんなこと、ない…………」
そんなこと、ないよ…………
『お前が望む答えを、俺がやれるかは自信がないが』
そんなこと、ない。
あなたは、私が欲しかった言葉をもう十分にくれたよ…………。
私のことを、特別な存在だと思ってくれなくとも。
私は彼女には敵わなくとも。
あなたがそう言ってくれるなら、
それだけでここに居る理由になるから…………。
「ありがとう、九郎さん…………」
「…………あぁ、やっとその顔が見れたな」
耐え切れなくなった涙を流しながらお礼を言うと、
彼は、優しく微笑んでくれた。
救いの手
(闇の中に居る私に光をくれたのは、あなた)
“は、九郎さんを助けるために、この世界にやってきたんだよ”
――――望美からその言葉を聞くのは、しばらく先のこととなる。
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わたしが書くヒロインは、大抵みんな戦えるのですが、
(現代からトリップしても戦闘スキル持ってます)
やっぱり、現実はそんなに甘くないのかなーなんて。
突然トリップしたって、戦えっこないですよね。
術を使うだなんて、もってのほか。
そんな女の子の心情を書きたかっただけなのですが
失敗ですね……。もっと精進したいと思います。
読んで頂いて、ありがとうございました!