総司と原田先生を捜しに行くため、
          あたしたちが教室から出ようとしてドアを開けると。





          「やあ、に平助」

          「「総司!」」


          目の前には、何故か総司の姿があって。
          その唐突な登場に、あたしと平助は揃って驚いた。







          「総司、どこ行ってたの?」

          「ちょっと、買い出しにね」

          「左之先生は?」

          「後から来るよ」


          何が何だか解らなくて質問するあたしと平助に、
          総司は持っていた袋を見せながら淡々と答える。






          「でも、買い出しって、一体なんで……」

          「意味解んねぇよな」


          あたしたちが不思議がっていると、
          総司が至極楽しそうな笑みを浮かべて言う。






          「これはね、と平助が両想いになった記念のパーティに使うものだよ」


          「「はぁ!?」」


          総司のその言葉に、あたしたちは再び声を揃えた。






          「なっ、何言ってんの、総司!」

          「わけ解んねぇよ!」


          第一、なんで両想いとか知ってるの……!?















          「ごめんね、やっぱり気になったから立ち聞きしてたんだ……
           左之先生と一緒に」

          「左之先生もかよ!!」


          すかさず平助がツッコミを入れる。

          って、原田先生にまで知られてるってこと……?


          あたしが微妙な心境になっているところに、
          噂をすればというタイミングで原田先生がやって来た。






          「おい、総司。土方さんも呼んできたぞ」

          「ああ、ありがとうございます、左之先生」


          ちょっと、なんでそこで土方先生が!?















          「聞いたぞ、平助。に言ったんだってな」

          「あ、うん、まぁ」


          平助が、どこか照れくさそうな感じでそう言った。






          「俺も今聞いたんだが、平助をけしかけたのは土方さんらしいぜ」

          「えっ!?」


          原田先生のその言葉に思わず叫んだのは、あたし。






          「なんだ、やっぱりそうだったんだ」


          予想通り、といった言葉を口にしたのは、総司。






          「これ以上、平助が古典の授業に集中してくれなかったら、困るんでな」


          土方先生は、冗談交じりにそう言った。










          「、こいつが古典の時間に何してるか……知りたくないか?」

          「え?」

          「ちょ、土方先生! それ言うの、反則だろ!」


          土方先生が言おうとしていることを、何故か平助は必死に止める。






          「いいじゃねぇか、別に」

          「よくねぇよ!」

          「ったく、成長しねぇな、お前も」

          「余計なお世話だし!」


          何だかよく解らないけれど、土方先生と話す平助が真っ赤になってて
          あたしはちょっと笑ってしまう。



















          「平助くん、さん、おめでとう!」


          そんなとき、また別の人物が教室に入ってきた。
          ……それは、後ろにお千ちゃんと薫先輩を引き連れた雪村さんで。






          「沖田先輩からメールをもらったの。
           平助くん、とうとうさんに好きって言ったんだね!」

          「って、千鶴! なんでオレがこいつを好きなこと……」

          「だって、平助くんってことあるごとにさんの話をするんだもの。
           気づかない方がおかしいと思うよ」

          「そ、そんな……」


          何でもないといった風に答えた雪村さんに対し、
          平助は若干へこんでいるようだ。






          「おめでとう、ちゃん!」

          「あ、ありがとう、お千ちゃん」


          次いで教室に入ってきたお千ちゃんは、
          お祝いよ! と言って、プレゼントを渡してくれた。










          「まあ、良かったんじゃない、

          「って薫先輩、全然感情が込められてないです」

          「仕方ないよ、僕は千鶴に無理やり連れてこられたんだから」


          あたしが反論すると、薫先輩もそんなことを言った。







          「沖田先輩がパーティをすることも教えてくれたから、
           お千ちゃんや薫も連れてきたの」

          「そ、そうなんだ」


          雪村さんは親切でやってくれているから、
          あたしはそれ以上反論することを、とりあえずやめておいた。















          「邪魔をする」


          そう言って教室に入ってきたのは、斎藤先輩だ。






          「一君、なんでここに!?」


          あたしが言う前に、平助が叫んだ。







          「総司から祝いの会を開くと聞いたのでな」


          総司ったら、斎藤先輩まで呼んだの!?






          「人は多い方がいいでしょ?」


          抗議を意味する視線を送ると、総司は何でもないようにそう答えた。















          「遅くなっちまったな!」


          そして、飛び込むように教室に入ってきたのは、永倉先生だ。






          「良かったな〜、平助! 父さんは嬉しいぞ!!」

          「って、新八っつぁん! 誰が父さんだよ!!」

          「おい、何度も言ってるが俺のことは“新八先生”と呼べ!
           まぁ、今なら“父さん”でも可だけどな!!」

          「誰が呼ぶか!!」


          永倉先生のボケ?のような発言にも、平助はしっかりツッコミを入れた。









          「ま、とにかくパーティしよっか」

          「総司、テスト前っつーことを忘れない範囲で頼むぞ」

          「解ってますって、土方先生」


          ……と、そんな妙なテンションの中、(総司いわく)パーティが始まった。

          最初はお祝いとか言ってたけど、
          次第にそれぞれが自由に楽しむものとなっていった。









          「あの、さん」


          そんなとき、窓際に居たあたしに雪村さんが声を掛けてきた。






          「さんに、お願いがあるんだけど……」

          「うん」


          雪村さんがあたしにお願いだなんて、何だろう?
          そう疑問に思いつつも、あたしは彼女の言葉の続きを待つ。






          「平助くん、毎朝遅刻ギリギリでしょう?
           だから、さんに起こしてもらいたくて」

          「え、」


          お願いとは、毎朝雪村さんがやっていたことを、
          あたしに代わってほしいということだった。






          「で、でも、」

          「私よりさんが起こした方が、きっと平助くんも起きると思うから」


          そんな笑顔で言われたら、断れない……。










          「う、うん、解った」

          「ありがとう、さん」


          ……けど、雪村さんだって、あたしに気を遣ってくれたんだよね。
          今まで平助の幼馴染だから、何となく避けてた、けど。

          雪村さんが優しい人だっていうこと、あたしは解っている。






          「あの、雪村さん……千鶴って呼んでもいい、かな?」

          「……!
          ……うん、そう呼んでもらえると嬉しいな」


          私もちゃんって呼ぶね、と雪村さん――千鶴は言った。















          「良かったね、


          千鶴と話していたあたしのところへ、総司がやって来てそう言う。

          ――あぁ、やっぱり総司には敵わないな。



          総司は知っていたんだ。

          あたしが平助を好きだということだけじゃなくて、
          本当は千鶴と仲良くしたかったということも。







          「ありがとね、総司!」

          「どういたしまして」


          総司の答えを聞いたあと、ふと目線を向こうに移すと。
          平助が、永倉先生や原田先生と一緒に騒いでいて。


          しばらくその様子を見ていると、平助と目が合った。
          そのとき一瞬見せてくれた微笑みを、あたしはずっと忘れない。














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