五拾参話:大切なことだってけっこう忘れずに覚えているもの
「えっ? 記憶喪失?」
『そうそう! さっき桂さんが土方さんと総悟くんに追われて
バイト先から帰ってきたんだけど、』
「(二人に追われたのか、桂さん……
…………ってかバイトって何のこと?)」
『その前に、記憶喪失になった銀さんに会ったんだって!』
の長過ぎる話を要約すると、こうだ。
なんでも、交通事故に遭った銀さんが記憶を失くしてしまい、
その記憶を呼び覚ますために新八くんや神楽ちゃんが
江戸中を歩き回っているらしい。
『てか、それってもう7巻の話なんだよね〜』
「マジでか! 6巻の話すらに聞いてないのに
すでにぶっ飛ばしてるって感じ!?」
『そうなんだよねェ……』
そんなハイスピードで展開してんの!?
『……でも、さすがにハイスピードすぎる』
も同じことを思っていたらしく、そうつぶやいた。
「……何か気になるの?」
『うん……原作が進むスピード、やっぱり速すぎる。
この銀魂の世界自体に、何か起きてるのかもしれない』
「え? 何かって何……?」
そんなシリアスなことなの……?
『トリップものでよくあるじゃん、
ヒロインが別世界に行ったことで歪みが生じるみたいなやつ』
「確かにそんなドリもあるかなぁ……」
まさか……
「まさか、私たちのせいで
この世界に歪みが生じたって言いたいの?」
『……そういう可能性も否定できないでしょ?』
そんな…………
『だって、この間の煉獄関の話だって本当はもっと先のはず。
でも思ったより早かったし、』
「…………」
『それになんて言うのかな……危険な話ばっかり
関わるように設定されてるっていうか』
「危険な話?」
『そうだよ』
銀魂の漫画の、日常的な話にはあまり関わってないってこと……?
『私は攘夷志士でこっそり活動してるワケだから、
そんなに大きな危険は無いと思うんだ』
「……うん」
『だけど、真選組隊士のは
それだけいろんなことに関わる機会が多い気がする』
「まァ、確かに」
『……気をつけて』
「!」
…………。
「大丈夫だよ、私を誰だと思ってんの」
『…………そうだね、黒蝶のだもんね』
「そうそう!」
もしの言う通り歪みが生じたのならば、それを直せばいいだけ。
「じゃ、とりあえず記憶喪失だっていう銀さんに会ってみるね」
『うん、そうしてあげて』
「確か、銀さんたちはお妙さんのところにも行くだろうって
は言ってたよね……」
『例えるならば、この世界を上から見下ろしている誰かに、
危険な話に関わるように操作されている感じだよ』
はそんなことを言ってたけど……
それは、あくまで例えだからね。
「このちゃんがやられるワケないっしょ!!」
そんなの返り討ちにしてやらァ!!(誰?
「何をしてんだてめーは……」
「いや、あったかそうだったんでつい寝ちゃって……
あのコレお土産にハーゲンダッツ買ってきたんで
みんなで食べてください」
「溶けてドロドロじゃないスか!
アンタ一体何時間こたつの中にいたの!?」
ピンポーン
「あら? お客さんかしら」
「僕が出てきますよ」
「はーい」
「あっ、新八くんこんにちは!」
「さん!」
「銀さんが記憶喪失で大変だって聞いたんだけど……」
「(そ、そうか!
さんに会えば銀さんも記憶を取り戻すかも!)
こっちに来てください、さん!!」
バタバタ……
「まァ、新ちゃん。 どうしたの、そんなに慌てて」
「姉上、さんですよ!
銀さんはさんのこと好きみたいですから、
会ったら記憶を取り戻すかも!」
「ええェェ!!
お前もちゃんのこと好きだったの!?」
「オイてめーゴリラ、『も』ってどーゆーことだ
今すぐに説明しろ」
「おっ、お妙さん、落ち着いて……!」
「私の可愛いちゃんを狙う獣がそんなにいるのか? あ?」
「銀さん! さんが銀さんのこと心配して
ここまで会いにきてくれましたよ! ほら!」
「……?」
「あ、あの、えっと……
私は真選組隊士のだよ。
銀さんには剣術を教わったの」
「剣術…………」
『ねぇ、銀さんって剣術、出来るよね?!
教えて!お願い!!』
「………………」
「銀さん、何か思い出しそうですか!?」
「銀ちゃん、思い出せ! 思い出したら結婚してくれるって
が言ってるヨ!!」
いや言ってないよ神楽ちゃん!!(焦)
「結婚……?」
『、結婚してくれ!!』
「う、う……ぼ……僕は……僕は……
…………俺は、」
「銀ちゃん!」
「銀さん!」
「銀さっ……」
ガボ
ドサッ
「……姉上、なんですか? それ」
「卵焼きよ。今日は甘めにつくってみたから」
「なんでこの状況で卵焼きィィ!?」
「だって銀さん甘いもの好きだから、何か思い出すかと思って。
それに可愛いちゃんを狙うなんて許せねーからな」
「本音が出てるからァァ!!」
そ、そういえばお妙さんの料理はいろんな意味でやばいんだっけ……
「いや〜、なかなか個性的な味ですな、この卵焼……
ブッ」
ドサッ
「「君達は……誰だ?」」
「「「…………」」」
ふりだしに戻ったァァァ!!!
(そしてなんか余計なのが増えたァァ!!)
「……すみません、色々手をつくしてくれたのに
結局、僕はなんにも……」
「やめてくださいよ〜、銀さんらしくない。
銀さんは90%自分が悪くても残りの10%に全身全霊をかけて
謝らない人ですよ」
「そうネ、ゆっくり思い出せばいいネ。
私達まってるアルから」
てか事実だとしても酷いくないか……!?(焦)
(……アレ、そーいえば近藤さんは何処に……?)
「と、とにかく、今日はもう家でゆっくり休んだ方がいいよ。
今日は歩き回って疲れてるだろうしね」
「さんの言う通りですね、今日はもう休……」
「「「…………」」」
ちょ、辰馬さん、万事屋銀ちゃんにつっこんでるゥゥゥ!!??
家がボロボロなんですけどォ!!
(やじ馬の人の話によると、なんか飲酒運転だとか……!?)
「……どうしましょ、家までなくなっちゃった」
「……もう、いいですよ。僕のことはほっておいて」
「「「!!」」」
「みんな帰るところがあるんでしょう?
僕のことは気にせずに、どうぞもう自由になさってください」
「銀さん?」
銀さん、何を言い出すの……?
「きけば君達は給料もロクにもらわずに働かされていたんでしょう。
こんなことになった今、ここに残る理由もないでしょうに」
新八くんと神楽ちゃんが未だにここにいるのは、
あなたに人を惹き付けるものがあるからだよ……。
「記憶も住まいも失って僕がこの世に生きてきた証は
なくなってしまった。でも、これもいい機会かもしれない」
「いい機会……?」
「ええ、みんなの話じゃ僕もムチャクチャな男だったらしいし
生まれかわったつもりで生き直してみようかなって」
「ぎ、銀さん、何言って……」
「だから、万事屋はここで解散しましょう」
……!
「ウ……ウソでしょ、銀さん」
「やーヨ! 私、給料なんていらない酢昆布で我慢するから!
ねェ、銀ちゃん!」
「銀さん、待って!!」
解散なんてダメだよ……!
「すまない、君達の知っいてる銀さんはもう僕の中にはいないよ」
そんなっ…………
「銀さん、ちょっと待って!」
「無理ヨ! オメー社会適応力ゼロだから! バカだから!」
「待って銀さん、解散なんてダメだよ!!」
「銀ちゃん!」
「銀さァァァん!」
銀さんっ…………!