六拾七話:愛の形は人それぞれ















          「……アレ?土方さん、お出かけですか?」





          屯所の廊下を歩いていると、
          近藤さんと総悟くんが私服で出て行くのが見えて。
          その後から土方さんもやって来たから、なんとなく聞いてみた。










          「いや……ちょっと、とっつぁんとの仕事でな」

          「松平様と?」






          でも、なんで私服?











          「内容は、詳しくは教えてもらってねェんだよ」

          「へェ〜、そうなんですか」





          ま、でも近藤さんや総悟くんもいるみたいだし、
          ちょっとくらい難しくても大丈夫なんじゃないかなァ?















          「とにかく……
           俺たちは一日屯所を空けるから後は頼んだぞ、

          「解りました、任せてください!!」





          重要人物が三人も屯所を留守にするんだもんね……
          気を引き締めていかないと!










          「じゃあ、行ってくる」

          「はーい、行ってらっしゃーい!」





          そうして土方さんは、先に表に出ていた二人と一緒に出かけていった。



















          「それにしても、松平様とお仕事なんて
           よっぽど重要な内容なんだよね……」





          と、私は思ってたんだけど…………















































          …………夕方、三人が何故かずぶ濡れになって帰ってきた。















          「って、あんたら何やってきたんですかァ!
           なんか重要なお仕事しに行ってたんじゃなかったんですか!?」





          ずぶ濡れになって帰ってくるとか、意味わかんないんですけど!!










          「ちゃん、落ち着いて!
           とりあえず、三人には着替えてもらわないと
           屯所のあちこちがびしょびしょになっちゃうから。
           俺もものっそいツッコミ入れたいけど、今は我慢するよ

          「あ、そ、そうですね!さすが山崎さん☆」





          でも、ホントにツッコミ入れたくてうずうずしているのが
          手に取るように解るんですけど……!















          「というワケなんで、三人とも即刻着替えてきてください






          山崎さん、ツッコミ入れるのめっちゃ我慢してるゥゥ!?










          …………そして山崎さんの変な剣幕に負けたのか、
          三人はタオルで簡単に水分をふき取ったあと、素直に自分の部屋に向かった。



















          「……あっ!そのままじゃ風邪引いちゃうから、
           ついでにお風呂に入ってきた方がいいですよォォ!!」





          今しがた思いついた提案を、私は三人の背中に向かって大声で叫んだ。











































          「…………で?いったい何をしてきたらそんな風になるんですか?」

          「…………」





          ずぶ濡れで帰ってきた謎について、今、
          私は風呂上りの土方さんに問い詰めているところだったりする。










          …………あ、ちなみに土方さんをチョイスしたのは、
          一番答えてくれそうだったから。
          近藤さんは何故か黒こげ(!?)だったし、
          総悟くんも機嫌が悪そうだったしねェ〜。





          うん、でも土方さんもさっきから黙ってばっかりなんだよねェ……
          何か考え込んでるようにも見えるけど。










          「土方さーん!私の話、聞いてますか?」

          「…………」





          私がそう言うと、土方さんはゆっくりこちらを見る。















          「なァ、……一つ、聞いてもいいか?」

          「何ですか?」





          土方さんがこんなにしんみりしてるのも珍しい、なんて
          私はそんなことを考えた。















          「お前は……愛ってやつを、信じるか?」

          「へ……?」





          何を考え込んでいるのかと思えば…………










          愛!?





          土方さん、どうしちゃったんですか!?










          ものっそい茶化したい気持ちでいっぱいなんだけど(オイ
          土方さんの纏う空気を考えると、とてもそんなこと出来ない。
          ……でも、茶化したりからかったりしたい!(コラ





          いや、そんな葛藤している場合じゃなかった。
          黙ってたらダメだ、土方さんの質問に答えないと……。















          「私は……愛って、あると思いますよ」





          こんな質問をしてくるくらいだ、
          もしかするとこの人は、愛なんて無いんだとか
          そんなことを考えているのかもしれない。










          「愛って、色々あると思うんですよ……
           異性に対するものだけじゃなくて。
           家族に対するものとか、友達に対するものとか」





          もちろん、好きな人に対するものもあるよ。















          「少なくとも、土方さんは近藤さんとか総悟くんとか、
           真選組の仲間を守ろうとしてますよね?」

          「ま、まァな」

          「だったら、それは仲間に対する愛なんじゃないでしょうか?」





          愛の形なんて、その人次第だから。














          「土方さんが愛を信じられないなら、これから知ってくれればいいです」





          ただ、愛なんて無いとは思ってほしくない。










          「愛っていうものは目に見えないから、不確かなものですけど……
           ちゃんと、あると思います」










          私の言葉を黙って聞いていた土方さんは再び考え込み、そして言った。














          「俺は……愛なんて、幻想なんだって思った。
           そんなもの、存在しないんじゃねェかってな」





          やっぱり、そんなこと考えてたんだな……。















          「……けど、お前がそこまで言うなら、無いと決め付けることはしない」

          「土方さん……」

          「ありがとな、

          「え?あの……」






          唐突にお礼を言われたから、言われた私自身よく解らなかった。
          だけどおそらく、私の言葉に対して……だと思う。



















          「……土方さんは、『これだけは絶対守りたい!』ってもの、ありますか?」

          「絶対守りたいもの?」

          「はい」





          私には、そういうのたくさんあるけどね。
          家族とか友達――とか、真選組のみんなとか。
          今じゃ、江戸に住んでる人も全部とか……
          そんな大それたことまで考えちゃってる。















          「…………ある、と思う」





          少し間を空けて、土方さんは答えた。










          「じゃあ、それを守っていけば、
           愛ってこういうものなんだ、っていつか解るかもしれませんよ!」





          それが好きな女の子とかだったら、一番いいんだけどねェ……
          私がそこまで要求する筋合いも無いだろうし。















          「絶対守りたいものがあるなら、それを守っていってください」

          「…………」

          「それで、いいんだと思います」

          「…………そうだな」





          私だって、そんな偉そうなこと言える人間じゃないんだけどね。




















          「じゃあ、土方さん。
           私あと数枚書類が残っているので、部屋に戻りますね!」

          「あァ……解った」














          …………アレ?
          結局どんなお仕事だったのか、聞いてないし!










          「…………ま、いっか」





          意外にも簡単に諦めのついた私は、そのまま自室に戻った。







































          『土方さんは、「これだけは絶対守りたい!」ってもの、ありますか?』










          「絶対守りたいもの、か…………」





          それは、俺にとっては、……たぶん、お前のことだ。










          お前が無茶をすれば、いてもたってもいられなくなるし、
          こないだのターミナルの一件なんか……
          砲撃が放たれたとき、お前を失ったらって考えて、そして心臓がつぶれるかと思った。





          ……例えばお前が悩んでるときも、力になってやりたい。














          『絶対守りたいものがあるなら、それを守っていってください』















          「フッ……守ってやろうじゃねェか」





          お前に害をなす全てのものから、守ってやるよ。




















          『じゃあ、それを守っていけば、
           愛ってこういうものなんだ、っていつか解るかもしれませんよ!』










          そうだといいけどな、と思いながら、
          俺も自分の仕事(つーか今日の始末書)に取り掛かった。




















   ♪♪♪ あとがき ♪♪♪

例の、マヨラ13様のお話にちょっとだけ介入!
いかがだったでしょうか!
サブタイトルが、何だかちょっと素敵な件(何

とりあえず、一緒についていくというほど
介入したくはなかったので、こう、微妙に……
という感じになりました。
土方さんが愛を幻想だと思ったままでは困るので
(作者的に/裏事情
ちゃんに語ってもらいました。

ちょっと考えてみたけど、愛って色々ありますよね。
極端な話、夢小説も、一つの愛の形ではないでしょうか?
好きだから、書くんだもんね。それって愛だよ!(何

なんか変なあとがきですね……すみません!
次は、またもや少し原作を飛ばすと思います。
やっとこさ九巻……かな?(遅せェェ!!