七拾壱話:何をするにもとりあえず、まずはアポを















          「すいませ〜ん、僕はあの……
           関係ないんで帰っていいですか?」

          「神楽ちゃん、さん」

          「おっけー、新八くん!」




















          「御主人様〜、コーヒーの方
           砂糖とミルク、どちらでお召し上がりやがりますか?」

          「やっぱコーヒーは……」










          「「砂糖でごぜーますよな!!」」





          私と神楽ちゃんが投げつけた砂糖が、爆音を立てた。
          次いで、煙幕が辺りに立ち込める。















          「煙幕か!?」





          「おのれ、こざかしい!! ……!
           しまった!!女が!女が逃げた!!
           入り口をかためろ!捜せ!必ずこの部屋の中にいるはずだ!!」




















          「…………」





          なんとか逃げたけど、の話からすれば
          岡田似蔵はこれくらいで目標を逃がすような奴じゃない…………




















          「煙幕ねェ……あんまり俺には関係ないねェ。
           空気の流れがおかしいな、どこからか流れ出てるね。どこかね?」










          「そこか」















          「……!」





          対策を考える間もなく、岡田似蔵は私たちの居場所を察知し、
          間にあった壁を綺麗に斬ってしまった。















          「やっぱり一筋縄じゃいかないってことだよね……」





          さて、どうしたものか…………。
















































          「だから社長に合わせてくれって言ってんだよ」

          「失礼ですがアポの方はとられていらっしゃいますか?」

          「なんだアポって あっ、アレ?北国のフルーツ?
           社長好きなの?青森アポォ」

          「アップルじゃねーよ
          なんでそこだけ英語なんだよ」











          「なんなんだよ、アポとかコポちゃんとかよォ
           こっちは社長に会いてーだけだっつーのにな」

          「あぽっ」

          「そーだよ、最近の日本はな、なにをするにも手続きが面倒で
           フットワークが悪い時代なんだよ」















          「あ゛ーあ゛!
           一体日本はどこへ行こうとしてるのかねェー!!

          「ばぶー!!」

          「すいません、あんまり騒がないでいただけます?」





          「……アラ?ちょっと待って、その子ひょっとして社長の……」















          ドォォン!!















          「! 何?何の音?」

          「! あーー!ちょっと勝手に入っちゃ困ります!!ちょっとォ!!」










          「あぽ」

          「なぽ」


















































          「ギャアアアア!!」

          「もうダメだ!もうダメだ!ごめんなさい!ごめんなさい!」















          「ゼーヒュー
           肺が!肺が痛い!はり裂けそうだ!!
           俺は決めた!今日でタバコとお前らとの付き合いを止める!!」

          「あれ!?神楽ちゃんとさんは!?二人がいない!!」




















          「!危ないから私の後ろにいるアル!」

          「うん、解った!」

          「ぬごををを!!」










          「「!!」」















          「ウソ?ちょっと待って」















          「やっちゃって、神楽ちゃん!!」

          「ぬごををををを!!」











          「待ってェェェ!!まだ僕らいるから!!まだ僕ら……
           つーかさんも止めてェェ!!















          「うおらァァァァ!!」

          「ぎゃあああ!!」










          これでアイツらを巻けるはず……




















          「……!」





          私の考えとは裏腹に、神楽ちゃんの投げた巨大なタンクを
          岡田似蔵は真っ二つに斬ってしまった。















          「なっ……!!」

          「んなバカな!化け物かアイツ!?」





          これは、ホントにやばい相手かもしれない……















          「まともにやり合って勝てる相手じゃない!ここは逃げましょう!」

          「よし!!
           ……アレ?最初から逃げてなかった?」

          「ツッコミはいいから逃げますよ!!」





          確かに簡単に勝てる相手じゃないだろうけど、
          全く敵わないわけじゃないはず。
          どうにかして反撃できるチャンスを作らないと…………



















          「うおっ!!」





          新八くんと長谷川さんが突然叫んだから何かと思ったら、
          二人は屋根に躓いて瓦の上を転がっていた。










          「って、なんてお約束な!?」





          え?そんなこと言ってる場合じゃないって?


















          「ヤバッ!!屋根から落ち……」





          「新八くん!長谷川さん!」














          「ギャアアア!!」
























          「!!」





          「何!姿を消したぞ、奴ら!!」

          「一体どこに!?」










          「あっちを捜すぞ!!」

























          「…………なんとか奴らを巻けたみたいだね」





          屋根にぶら下がってやり過ごした私、神楽ちゃん、お房さんは
          下にあった屋根に着地したんだけど、
          新八くんと長谷川さんは屋根を転がってきてそのまま落下していた。










          「あの……大丈夫ですか?」

          「よかったァ、下に屋根があって」

          「あー、小便ちびるかと思っ「いや、そんなことより本題に入りましょう」

          「って、俺のセリフは強制終了!?」





          長谷川さんがなんかうるさかったけど、無視することにした。(え




















          「でもなんとか無事で良かったです、お房さん」

          「あなた達、一体誰なんですか?なんで私のこと……」

          「あなたですよね?僕らのウチの前に赤ん坊を置いていったのって」

          「え?じゃあ、あなた達……」





          新八くんの言葉に、お房さんは顔色を変えた。















          「安心してください、赤ん坊は僕らが保護してるんで」

          「本当ですか!勘七郎は!勘七郎は無事なんですね!?」

          「わわ、ちょっと!!」





          必死になって新八くんにつかみかかるお房さん。
          そんな彼女を宥めながら、私も口を挟む。















          「それで、やっぱりあの子の母親はあなたなんですよね?」

          「はい……」

          「どうしてこんなことになったか、教えて頂けませんか?」

          「僕もさんの意見に賛成です。
           それくらい聞く権利ありますよね、僕らにも」

          「…………」





          それから、お房さんはこれまでのことを簡単に話してくれた。



















          お房さんの家は貧しくて、働き口を探していたんだって。
          そうして出会った仕事が、橋田屋の主人の息子・勘太郎さんのお世話。
          勘太郎さんは幼少の事から病弱で、ほとんど寝たきりだったとか。










          いたずら好きで使用人たちを困らせることもあったけど、
          お房さんにも友人のように接してくれる勘太郎さんに
          お房さんもだんだん惹かれていった。















          橋田屋の主人は勘太郎さんを長生きさせることばっかり考えてて、
          でも勘太郎さんはそうは思っていなかった。
          短い命でもいいから、おもいっきり生きたかった。





          そんな彼の力になりたくて、お房さんは彼と一緒に屋敷を出て。
          二人でしばらく暮らしていたんだけど、
          勘太郎さんの病状が悪化してしまったらしい。



















          『ようやく見つけたと思ったら、この様だ。
           私の元におとなしくいれば、
           こんなに病気が悪化することもなかったのに』





          橋田屋の主人も、色々嫌味を言ってきたみたい。
          その後、勘太郎さんは連れ戻されてしまい、
          お房さんは、彼が亡くなるまでずっと会わせてもらえなかったという。















          勘太郎さんが連れ戻されるとき、
          お房さんのお腹に子どもがいることも知られてしまったんだって。
          おろせって言われたけれど、やっぱりそんなことも出来なくて、
          勘七郎くんを生んで、これから育てていこう……





          …………と決心したところに、橋田屋の主人が再び現れた。
          それで、勘七郎くんを跡取りにしようと狙ってきて、今に至るらしい。




















          「……あなた達にはすまないことをしたと思っています。
           私の勝手な都合でこんなことに巻き込んでしまって」

          「……お房ちゃん、アンタ若いのに苦労したんだねェ。
           しかし、賀兵衛って野郎はとんでもねェ下衆野郎らしい」

          「でも、このままにしておいていいはずないです。
           その下衆野郎をどうにかしないとなんですけど……」





          でも、一体どうすればいいんだろう……。




















          「下衆はそこの女だ」

          「!!」





          私たちの会話を遮るように、橋田屋の主人が現れた。










          「私の息子を殺したのは、まぎれもなくその女。
           その女さえいなければ私の橋田屋は安泰だった」

          「どうしてそう言いきれるんですか?」

          「どうしてだと?解りきったことだろう」





          こいつ…………。




















          「次の代にこの橋田屋を引き継ぎ、
           そうして私の生涯の仕事は完遂するはずだったんだ。
           それを、そこの貧しく卑しい女に台無しにされたんだよ私は」

          「悪いのは本当にお房さんだと思ってるんですか?」

          「その女以外に考えられんだろう」

          「そんなことない。
           あなたには、見えていないだけ」





          大切なものが、こいつには見えてないんだ……。




















          「フン、小娘が。
           私がこれまでどんな思いをしてこの橋田屋を護ってきたかわかるか?
           泥水をすすり汚いことにも手を染め、良心さえ捨ててこの店を護ってきた。
           この私の気持ちがわかるか?」

          「勘太郎様は、あなたのそういうところを嫌っていました。
           何故そんなにこの店に執着するのですか?お金ですか?権力ですか?」





          言いたい放題な橋田屋の主人に、お房さんも疑問をぶつけたようだ。
          だけど、橋田屋の主人は何も解っていない。















          「女子供にはわかるまい。
           男はその生涯をかけて一つの芸術品をつくる。
           成す仕事が芸術品の男もいよう。
           我が子が芸術品の男もいるだろう。人によってそれは千差万別」










          「……!」





          橋田屋の主人がしゃべるのと同時に、私たちの周りのシャッターが閉じられてゆく。





          このままじゃ、完全に閉じ込められる…………




















          「私にとってそれは橋田屋なのだよ。
           芸術品を美しく仕上げるためなら、私はいくらでも汚れられる」

          「そんなの絶対間違ってる!!」





          一斉に向かってくる志士たちを前に、私は構えを取った。











          こうなったら、やるしかない……!




















   ♪♪♪ あとがき ♪♪♪

橋田屋の話の続きでした!いかがでしたか?
今回はなかなかキリが良くならなくて……
妙に長くなってしまいました。
申し訳ないですが^^;

さてさて、銀さんも登場しましたし
そろそろ解決させたいと思うのですがね!
どうだろう…頑張ろう!(カラ元気