七拾弐話:いい意味なら、いくらでもGoing my wayでいて














          そう思ったんだけど、自分は全く動いていないのに
          向かってきた大勢の志士たちが突然吹っ飛んだ。
         










          チーン





          「おーう、社長室はここかィ?」

          「なっ、なにィ!?」










          「これで面会してくれるよな?」















          「アッポォ」

          「ナポォ」



















          「銀さん!!」





          ちょうどエレベーターから出てきたのは、銀さんだった。
          あの大量の志士たちを吹っ飛ばしてくれたのは、どうやら銀さんらしい。
          背中には勘七郎くんと思われる子どももいた。















          「なんだ貴様、何者だ!?」

          「あー?なんだツミはってか?
           そーです、私が……





           子守り狼です」





















          「勘七郎!!」

          「銀さん!!」





          二人の登場にびっくりしたのか、
          新八くんとお房さんがそれぞれの名前を叫ぶ。















          「なんだかめんどくせー事になってるみてーだなオイ
           こいつァ、どーいうこった新八ィ?
           三十字以内で簡潔に述べろ」

          「無理です」

          「それから、なんでお前いつもこーゆー面倒事に関わってんだ
           三十字以内で簡潔に述べろ」

          「嫌です」





          今はそれどころじゃないと思った私は、
          銀さんに対しあえて厳しい答えを返した。










          「銀さんこそどうしてここに?
           三十字以内で簡潔に述べてください」

          「無理だ」





          結局自分も無理なんじゃねーかァァ!!















          「オメー、バカかァァ!!
           わざわざ敵陣に赤ん坊連れてくる奴がいるかァァ!!」

          「なんだテメー、人がせっかく助けてやったのに
           ……ってゆーかなんでこんな所にいんだ?
           三十字以内で簡潔に述べろ」

          「うるせェェ!!」





          あ、長谷川さんがついに(?)煩わしくなったらしい。




















          「あのジジイはなァ、その子狙ってるんだよ!!
           自分の息子がはらませたこの娘を足蹴にしておきながら!!
           テメーの一人息子が死んだ途端、手の平返して
           そのガキを奪って無理やり跡とりにしようとしてんだよ!!」





          妙にテンションの高くなった長谷川さんは、
          まくし立てるように一気にこの状況を銀さんに伝えた。















          「ってか長谷川さん、三十字越えちゃってますよ!」

          「やかましいわァァ!!」





          せっかく注意してあげたのに……!




















          「……オイオイ、せっかくガキ返しに足運んだってのに
           無駄足だったみてーだな」





          どうやら銀さんも状況を理解したようで、そんなことを口にする。












          「無駄足ではない。それは私の孫だ、
           橋田屋の大事な跡とりだ、こちらへ渡しなさい」






          それって、あんたの勝手な都合じゃないの?


















          「まあ、俺としてはオメーから解放されるなら
           ジジイだろーが母ちゃんだろーがどっちもいいが。
           オイ、オメーはどうなんだ?」

          「なふっ」

          「おう、そーかィ そーかィ」





          納得した風なことを言った銀さんは、次の瞬間
          勘七郎くんをお房さんの方に放り投げた。
















          「ワリーな、じーさん。
           ジジイの汚ねー乳吸うくらいなら、
           母ちゃんの貧相な乳しゃぶってた方がマシだとよ」

          「やめてくれません!そのやらしい表現やめてくれません!」










          今の表現はともかく……
          やっぱり、勘七郎くんはお房さんと一緒にいるべきだよね。



















          「逃げ切れるかと思っているのか?
           こちらにはまだとっておきの手駒が残っているのだぞ」

          「とっておきの手駒って……」





          まさか、あの男…………!?




















          私の予想通り、先ほど閉じられたシャッターを綺麗に斬り捨てた岡田似蔵が姿を現した。










          「盲目の身でありながら居合いを駆使し、
           どんな得物も一撃必殺で仕留める殺しの達人……





           その名も岡田似蔵――人斬り似蔵と恐れられる男だ」















          「やァ、またきっと会えると思っていたよ」

          「てめェ……あん時の。目が見えなかったのか?」





          そっか、二人はついさっき会っていたっていう流れなんだよね……
          がそんなことを言ってた気がする。














          「今度は両手が空いてるようだねェ
           嬉しいねェ、これで心置きなく殺り合えるというもんだよ」










          「似蔵ォ!!
           勘七郎の所在さえわかればこっちのもんだ!
           全員叩ききってしまえ!!






          そんなことさせてたまるか!!


















          「銀さん、気をつけて下さい!そいつ居合い斬りの達人です!!」

          「絶対間合いに入っちゃダメだよ、銀さん!!」















          「!!」





          新八くんと私が注意したのにも関わらず、
          銀さんは一瞬のうちに肩を斬られてしまった。










          「むぐっ!!」

          「銀さん!!」





          「!! 勘七郎が!!」

          「しまった……!」





          お房さんの方も、ちゃんと見てるべきだった……!











          彼女の方を見ると、先ほどまでその腕にいた勘七郎くんがいない。
          慌てる彼女に向かって、岡田似蔵が言う。





          「いけないねェ。
           赤ん坊はしっかり抱いておかないと
           ねェ?お母さん」

          「勘七郎!!」










          一瞬のうちに銀さんを斬っただけじゃなく、お房さんから勘七郎くんを奪った……
          こいつ、やっぱりものすごく動きが速い…………。




















          「ククク、さすが似蔵、恐るべき速技……
           あとはゆっくり高みの見物でもさせてもらうかな」










          「悪いねェ、旦那。
           俺もあの男相手じゃあそんなに余裕がないみてェだ……
           悪いがさっさとガキ連れて逃げてくれるかね」

          「……!」





          片膝をつき、額から血を流す岡田似蔵を見た橋田屋の主人は、
          血相を変えてこの場を離れた。
          岡田似蔵のその額の傷は、もちろん銀さんのつけたもの。










          とにかく、早くあのジジイを追いかけなきゃいけない……
          でも、私はまた銀さんを置いてくの…………?















          「新八、神楽……
           もういいからオメーらはガキ追いな」

          「でも!!」

          「いいから行けっつーの いででで










           あとで必ず行くからよ」















          銀さんのその言葉を聞いた私以外のみんなは、
          橋田屋の主人と勘七郎くんを追いかけた。





          だけど、私はその場を動けずにいる。















          「……、俺の声が聞こえなかったのか?」

          「…………聞こえた、よ」

          「だったら新八たちと一緒にガキを追えって」





          勘七郎くんをお房さんのもとに帰すためにも、
          今すぐに橋田屋の主人を追わなければならないことは解る。
          でも……










          でも……私は…………




















          『行け、!!』

          『! 銀さん、でもっ……!』















          





          銀さんは、確かあのとき…………
















          「真選組なら真選組らしく、町の平和でも守ってろ!!」

          「……!」





          まったくもう……















          「銀さんは、ずるいね」





          あのときと同じことを、今ここでも言うだなんて。










          だけど、ありがとう。
          あのときと同じことを、今ここでも言ってくれて。


















          「『あとで必ず行く』っていう約束、
           ちゃんと守ってよね、銀さん!!」





          私は走り出したのとほぼ同時に、そう叫んだ。















          「お前との約束なら、守るしかないだろーが!」





          銀さんも、そう叫んで返してくれた。















          「とにかく、急がなきゃ!!」





          新八くんたちがここを離れてから、少し間が空いてしまった。
          早く追いつかないといけないよね。










          そう思った私は、さらにスピードを上げて走った。
















































          「勘七郎は私の孫だ!
           この橋田屋も私のものだ!誰にも渡さん!誰にも渡さんぞ!!」

          「橋田屋なんて好きにして下さい。でもその子は私の子です」














          「あっ、橋田屋の主人とお房さん!」





          あんなところに……
          今なら、なんとか間に合いそうだね……!




















   ♪♪♪ あとがき ♪♪♪

ここで橋田屋の話も終わるかと思いきや……
後日談っぽいものを入れたくなったので、
あえてここは途中で切ってみました。
次こそ決着がつくと思います!

これが終わったらまた、次の話に進みたいですね^^