七拾参話:30分前行動って早すぎだろ















          「クソ、いまいましい女め。
           私から息子を奪い、あまつさえ勘七郎も橋田屋までも奪う気か」





          少しずつ距離を詰めるお房さんに対し、
          橋田屋の主人がそんなことを言う。















          「子供を抱きながらそんな事を言うのはやめて下さい」

          「バカな、こんな赤ん坊に何がわかる?」

          「覚えているんですよ、どんな乳飲み子でも。
           特に優しく抱かれている時の記憶は……
           勘太郎様がよくおっしゃっていました」





          特に優しく抱かれている時の記憶は、覚えている…………?


















          そこには花がたくさん供えてある祭壇があって、
          キレイな女の人の写真が飾ってあって……










          『……大丈夫さ。お前がいなくともやっていけるさ、私たちは。
           飯も私がつくるし、オシメも……
           まァ、勝手はわからんが何とか取り替える。





           だから、安心していくといい』










          勘太郎と橋田屋は、私が護るよ――――

























          そっか、今の……
          勘太郎さんが幼かった頃の……奥さんが亡くなったときのことなんだ。















          「……それであなたはこんな事をやってるんですか。
           こんな事をして、勘太郎様や奥様が喜ぶとでも?」





          お房さんは、厳しい言葉を橋田屋の主人に投げかける。
          その言葉を受けて、少し間を空けて橋田屋の主人が口を開いた。



















          「……勘太郎は、生まれた時から病弱だった。
           長生きしても人の三分の一がいいところだと医者に言われてな。





           だが、それを聞いて妻は
          『人の三分の一しか生きられないのなら、
           人の三倍笑って生きていけるようにしてあげればいい』と……



          『蝉のように短くても腹いっぱい鳴いて生きていけばいい』と……





           そんなことを言っていた」










          奥さんと、そんな話をしていたはずなのに。
          橋田屋の主人は、実際は勘太郎さんを部屋に閉じ込めて、
          ありとあらゆる手を尽くして生かそうとしていた。















          「……どんな形でもいい、生きていてほしかった。
           勘太郎にも、妻にも……
           …………結局みんななくしてしまったがね」





          そう言って、橋田屋の主人は自嘲するかのように笑っている。














          「…………」





          ――そっか、本当は……
          大切な人に、ただ生きていてほしかったんだ。
          だけどその想いが強すぎたために、道を誤ってしまったのかな。
          いつの間にか、本当にやらばければいけないことを見失ってたのかな。





          私は、そんなことを考えた。




















          そんなとき、未だ自嘲気味な橋田屋の主人に、勘七郎くんが触れる。










          「もふっ」

          「勘七郎……」





          勘七郎くんの行動が予想外だったのか、
          橋田屋の主人は少し戸惑っているように見えた。















          「全部なくしてなんかいないじゃないですか。
           勘七郎は私の子供です、でもまぎれもなく……
           あなたの孫でもあるんですよ」





          うん、そうだよね……
          勘七郎くんがお房さんと勘太郎さんの子どもであって、
          それでいて橋田屋の主人の孫であることは、変わらない……
          変えようのないことなんだよね。















          「だから、今度ウチに来るときは橋田屋の主人としてではなく、
           ただの孫思いのおじいちゃんとして来てくださいね。
           茶菓子くらい出しますから」





          お房さんのその言葉を聞いたとたん、橋田屋の主人は泣き出してしまった。
          そしてそれは、二人の和解を示していた。















          やっぱり、どんな場所でだってお母さんって強い。
          力とかそういうことじゃなくて、何か別の、
          もっと大きな意味で強いと思うんだ。










          「…………もう、大丈夫だね」





          そう思った私は、その場を離れようとした。




















          『お前との約束なら、守るしかないだろーが!』










          「……!」





          そうだ、銀さん……!










          銀さんを置いて……
          …………ううん、銀さんに岡田似蔵を任せて来たんだった。
          どうなったのかな……





          不安になって引き返そうとしたとき、頭の上に誰かの手がふってきた。















          「よォー、なんか一件落着っぽいじゃねーか」

          「銀さん!」





          頭の上にある手は今しがた考えていた銀さんのものだったようで、
          振り返るとそこにはやはり銀さんが立っていた。










          「岡田似蔵は?大丈夫だったの!?」





          いてもたってもいられず、あたしは半ば叫ぶように聞き出す。















          「あー……アイツなら、ちゃちゃっとやっつけたから」

          「ホント!?」

          「ホントホント」





          銀さんの言い方は、いつもみたいにテキトーだったけど……
          でも、こうして無事ここにいるんだもんね。
          きっと、うまく撃退できたってことなんだろうな。

















          「良かった…………」

          「なんだ〜、そんなに銀さんのこと心配だったのかァ?」





          銀さんのこと、心配だったかって?















          「そんなの当たり前でしょ!!」

          「……!」





          私の言葉を聞いて、銀さんは驚いてるようだった。
          でも思ってることを言っただけだから、
          驚かれるようなことは全然ないはずなんだけど……。


















          「…………あーあ、そーやってハッキリ言われると
           なんかむずがゆいねェ」

          「そうなの?」

          「そうなの」





          なんだかよく解んないけど、まあ、みんな無事だったしいいよね!!










          それから、私たちはお房さんと勘七郎くんを途中まで送ることになった。















































          「それじゃあ、私達はこれで。
           あの……本当にお世話になりました。私、このご恩は一生忘れません」

          「俺が人の尊厳、失ったことは忘れてね」






          新八くんたちがお房さんと話している一方、
          銀さんは勘七郎くんと一緒にミルクを飲んでいた。
          ……って言っても、銀さんの方はいちご牛乳なんだけど。















          なんで一緒に飲むの?って聞いたら、
          「さっき約束したから」としか答えてくれなくて。
          まあ、銀さんにとっては大切な約束みたいだから、
          それ以上は追究しないでおいた。





          でも、ずっと気になってたことがあって
          私は思い切ってお房さんに聞いてみることに……。















          「あの、お房さん!
           もし良かったら……勘七郎くんを抱っこさせてもらえませんか?」





          ……そう、ずっと気になっていたことというのは、
          勘七郎くんを抱っこすること。
          あの天パ気味なくせっ毛もふさふさしてそうだし
          抱っこしてみたいなーって思ってたんだよね!










          「はい、構いませんよ」

          「やった!」





          意外にも簡単にお許しを頂けたので、
          私はさっそく銀さんと勘七郎くんの元へ向かう。


















          「おー、
           どうした?お前も一緒に一杯やるか?」

          「やらないって!しかもそれ牛乳だし……。
           そうじゃなくて、お房さんにお願いして勘七郎くんを
           抱っこさせてもらえることになったんだよ!」





          そう言いながら、私は勘七郎くんへと手を伸ばす。















          「……うわ〜、やっぱりフカフカー☆」





          てか、この子も天パ同盟に入るべきじゃね?(え










          そんなことを考えていると、ふと勘七郎くんがすり寄ってきた。















          「わっ、可愛い!」

          「珍しいですね……勘七郎は、あまり他人に懐かないんですが」

          「そうなんですか?」





          ちょっと嬉しいかも!










          私が未だに抱っこしていると、勘七郎くんが銀さんの方をちらっと見る。















          「わふっ」

          「……!
           いい度胸じゃねーか…………」





          でも、私の方からはちょうど角度的に勘七郎くんの顔は見えなくて、
          どんな表情をしているかまでは解らなかった。
          ただ、銀さんはとても悔しそうに顔を歪ませていた。


















          「では、これで失礼します」

          「はい、気をつけてくださいね」





          抱っこしていた勘七郎くんをお房さんに返し、二人を見送った。


















          「…………」




          何か言いたげな銀さんだったけど、
          結局何も話そうとせず、私たちも帰ることになった。
















          「(あのガキ、いっちょ前に俺を挑発しやがって……!!)」





          










          とにかく、無事解決して良かったよね!



















   ♪♪♪ あとがき ♪♪♪

なんか、わけの解らない絡み方で終わった……
結局、ちゃんは色々悩みまくって
本当にやりたかったことを出来なかった、みたいな。
つい最近まで普通の高校生だったので仕方ないですが。
そーゆーのが今後響いてくるという展開に出来れば
もって行きたい気もします。

あー、原作沿いってほんと、難しい……。