「土方さんが居るところまでは、もう少し……」


          まだ追いついてこない銀さんも心配だし、
          それに、さっき中腹で別れた晋助も……





         
 『鬼兵隊の名を使って色々やってくれた連中に、
           礼をしようと思ってたところだ』






          「あんなこと言ってはいたけど……」


          晋助はあたしを……
          あの場から逃がしてくれたんじゃないだろうか。





          「なんでだろう……」


          なんでいつも、あたしを助けてくれるの?
          ただの気まぐれにしても、気になる……










          「…………ううん、考えるのは後だ。
           とにかく今は、早く土方さんと合流しないと」


          気が急いてしまうのを、なんとか抑えつつ……
          周りへの警戒も怠らずに、あたしは船の後方を目指した。



















9周年記念企画――第三話 三つ目の調査





























          「……あっ」


          あそこに居るの……土方さんだ!





          「土方さん!」


          たくさん積まれた樽の陰に隠れ、
          向こうの様子を伺っている土方さんが見えた。

          あたしは急いで、でも極力物音を立てず
          その背後から近づき、声を掛けた。





          「……
           頼むから、急に背後に現れんな」

          「あっ、ごめんなさい……驚かせちゃいました?」

          「あァ、もう少しで斬りかかるところだった」


          ……!





          「……バカ、んな顔すんな。冗談だ」

          「な、なんだ……ビックリしちゃいました」

          「声を掛けられる前に……
           気配ですぐ、お前だと解ったしな」

          「そう、ですか……」


          確かにここは敵地で、少しの油断もならない状況。

          神経を張りつめている人の背後から、
          急に声をかけるのはまずかったよね……。


          でも……

          気配だけであたしだと解ってもらえたのは、嬉しいかも。
          こんなときに、少し不謹慎かもしれないけど……。















          「んなことより……お前はなんでここに居るんだ。
           船の中腹で落ち合う予定だったろうが」

          「それはそうなんですけど、色々あって……」


          でも、合流しておいて何だけど、
          説明したら怒られそうな気がしてきた……。





          「あ、あの!
           土方さんのほうは、調査はどうですか?」

          「あァ……ここから、向こうのほうを見てみろ」

          「……?」


          言われるがまま、あたしもさっきの土方さんと同じように
          樽の影に隠れてその先を覗いてみる。





          「……!」


          すると、攘夷志士がたくさん居て……
          どうやらあの倉庫みたいな場所を、見張っいるらしかった。










          「俺が来たときには、もうあんな感じでな。
           明らかに怪しいが、調べあぐねていたところだ」


          そうだったんだ……。





          「あたしはてっきり、
           土方さんも攘夷志士と戦った後なのかと……」

          「…………オイ。
           今お前、『も』って言ったよな?

          「あっ……!」


          しまった、つい……!





          「どーゆーことだァ、
           まさかあの野郎、攘夷志士と派手にやり合ってるんじゃ……」

          「あ、あの、でも!
           銀さんは、あたしが先に進めるようにって……!」


          不可抗力というか、なんというか……!















          「……けど、そーか。それで納得がいった」

          「え?」

          「今しがた、向こうのほうが騒がしくなったからな。
           正直言うと予想はしていた」

          「あ、それはたぶん、銀さんじゃなくて晋助だと……」

          「オイ、今なんつった?

          「あっ!」


          また余計なこと言っちゃった……!?





          「高杉がここに来てて……お前はまた奴に会ったのか」

          「え、ええと……はい。
           晋助は、調べたいことがあったって……」

          「ほう……
           んで、奴も船内の攘夷志士とやり合ってるワケか」

          「は、はい……」


          なんだか、土方さんの機嫌が
          みるみるうちに悪くなってる気がする……。

          と、とりあえず、話を戻さないと!










          「あ、あの、土方さん!
           でも、前方も中腹も調査は終わりましたから!」


          あとは後方の……
          あの倉庫を調べれば、撤退できます。





          「そーか……だが、それが一番難しい。
           あの見張りをどうしかしねェことには……」


          と、土方さんが最後まで言い切る前に、
          向こうから別の攘夷志士たちが慌てて駆け寄ってきた。










          「オイ! 
           船の前方と中腹付近に、侵入者が現れたらしい!」

          「見張りに二人残して、あとの奴らは全員
           その侵入者の対応に向かえ!」

          「あァ!」


          そんなことを言いながら、攘夷志士たちは言葉通り
          倉庫の見張りに二人だけ残して去っていった。















          「……土方さん」

          「あァ……こいつァ、チャンスだ」


          二人だったら、バレる前に気絶させてしまえば何とかなる。

          他の人は銀さんと晋助の対応で手一杯みたいだし、
          加勢が来る可能性も低いだろう。





          「、お前は左の奴だ……出来るな?」

          「はい」

          「俺が合図したら一斉に行く」

          「はい!」


          あたしの返事を受け、土方さんが自身の刀に手をかける。
          あたしもフォークを手に取り……










          「……今だ!」

          「……はい!」


          土方さんの合図で、すばやく見張りに近づいて……





          「ぐあっ……!」

          「かはっ……」


          向かって右の見張りを土方さん、
          左の見張りをあたしがそれぞれ気絶させた。















          「よし……とっととこの中を調べるぞ」

          「そうですね」


          引き続き周囲へ警戒をしつつ、倉庫の中へ入ると。

          前方の小部屋で見かけたのと同じような箱が、
          たくさん置いてあった。





          「ええと、箱の中身は……」

          「……爆弾みてェだな」

          「爆弾?」


          銃に、爆弾……
          やっぱり、なんだか嫌な感じしかしない……。





          「少し持って帰るか」

          「そう、ですね」


          さっきと同じく、この箱の中身全部が爆弾みたいだし……
          やっぱり全て持って帰るのは難しいと思われる。





          「えっと、ケータイは……」


          一応、写メも撮っておこう。

          さっきの反省を生かして、
          音の出る部分を手でおさえつつ……

          あたしは、証拠になりそうな写真を撮った。










          「……よし、こんなもんだろ。
           そろそろ撤退するぞ、

          「…………」

          「ん? どーした」

          「あ、いえ……」


          ただ……





          「土方さんとの調査が、
           一番安全かつスマートな感じだなって……」

          「……先の二人が血気盛んなだけだろ」

          「そう、とも言えますね」


          確かに、勝手なイメージだけど
          銀さんも晋助もスイッチが入ったら止まらなそう……

          あ、で、でも、前に近藤さんが、
          「トシも意外と喧嘩っ早いぞ」とか言ってたような……


          っていうことは、実はみんな似た者同士……かも?










          「お前は、奴らみてーな危険なことはすんなよ?」

          「は、はい」

          「例え調査が失敗したとしても……
           お前が無事なら、それが一番だ」


          そう言いながら、土方さんはあたしの頭をなでてくれる。





          「土方さん……
           …………ありがとうございます!」

          「…………あァ」


          土方さんはいつも、あたしのことをすごく心配してくれる。
          それが本当にありがたくて……そして、嬉しかった。


          










          「んで、野郎は中腹まで来るのか?」

          「銀さんはあたしを追いかけてくるはずなので、
           そうだと思うんですが……」


          でも、中腹では晋助が戦っていたわけだし、
          そこで合流っていうのも危ないのかな……。





          「中腹に向かえば、戦いになる可能性は高い……
           だが、ここでじっとしてても仕方ねェか」

          「今はいち早く銀さんと合流することを考えて、
           合流でき次第、撤退する感じにしますか?」

          「あァ、それがいいだろう」


          そうして、話しはまとまり……





          「周囲への警戒は、引き続き怠るなよ」

          「はい!」


          あたしたちは、船の中腹へ向かった。