歩む速さは、人それぞれだから。
そんなに焦らなくていい、ゆっくりでいい。
だから君が、オレの前では無理をしないで、
本当に笑ったり泣けたり出来るような、そんな二人でいたいんだ――――
「なぁ、! 記念に写真撮ろうぜ」
「記念って……いったい何の記念?」
「いいからさ、ほら!」
唐突に言ったオレに、彼女は少し戸惑っているようだ。
何でもない日だって、君と居れば、それだけで記念日になる。
こうしてたくさん写真を撮って、このアルバムを重くしていこう。
どんなにめくっても終わりが無いような、そしてその代わりに続きがある。
二人の、魔法のアルバムにしよう。
写真を撮ったオレは、再び彼女に提案する。
「これから、どっか行く?」
「うん、そうだねぇ……」
彼女は、行き先を考え始めた。
静かな場所や賑やかな場所、いろんな場所がある。
だけど、オレは何処だっていいんだ。
そこに、君らしい君が居れば、それでいい。
「特に行きたい場所っていうのは、無いかも。
……少し、散歩がしたいな」
その答えは、彼女らしいものだった。
辿り着いたのは、地図にも無いような場所――ちょっとした、野原。
だけど、君が嬉しそうだから、それでいいと思う。
幸せそうに笑う君を、インスタントのカメラを持って、オレは追いかける。
――あのアルバムの続きを、作るために。
ふと、小さな花が目に入った。
「うーん……」
そこに咲いていた花をつんで、君に似合うだろうか、なんて。
オレは、本気で首をかしげてみる。
「、これ」
「わぁ、ありがとう」
結局、その花は彼女の手に渡った。
こんな小さな花で、幸せそうに笑う君。
……そんな君を見て、幸せになるオレが居る。
「なぁ、ちょっと聴いてもらってもいいか?」
君が、唄が好きだと言うから、作ってみたけれど。
単純なオレが作ったから、その唄も単純なものだった。
ひねりなんて、少しも無い、けれど。
「素敵な唄だね」
唄を静かに聴いていた君が言う。
だけどその唄は、実際はその辺によくあるような、ラブソングで。
「私たちにとっては、大切な唄だね」
それでも彼女は、この唄の意図を、読み取ってくれたようだ。
……これは、二人の前だけで特別な唄になればいいんだ。
よくある唄だって、いい。
「強く、ありたいのに…………」
あるとき、躓いた君が、言った。
涙なんて流している暇は無いと、言った。
だから、オレもそんな君に言う。
君が思っているほど、人は見かけほど強くない。
自分で思っているよりも、泣き虫に違いない……そう、オレだって。
「一人で大丈夫だよ。心配しないで」
そんなことは、絶対言わせない。
オレの前では、無理をしないで。
笑いたいときは笑って、泣きたいときは泣いてほしい。
――お願いだから。
「ちょ、ちょっと待って! 何処に行くの?」
嫌がったって、手を繋いで無理やり連れていくよ。
君が笑顔になれるのは、地図にも無いような場所だろうから。
君の大切な犬だって、一緒に連れていく。
「“あなただけに 歌える唄がある”」
そして、しょうがない、と観念した君。
時々口ずさむあの唄を、唄い始めた。
「“僕だけに 聴こえる唄がある”」
なぁ、。
その唄、オレも少し覚えたから。
ちょっとでもいい、一緒に唄わせてくれないか…………。
小鳥が、唄っている……これは、夜明けの合図だ。
「リズム、取ってる……」
小鳥たちは、とっておきの声で、リズムを取っている。
「……あぁ、そっか」
何でもない日にも、小さなドラマがあるんだろう。
特別なことが無くたって、いい。
――小鳥の声は、それを、オレに伝えているようで。
あのとき作った唄――単純なオレが作った、とても単純な唄。
それは、君の涙を止めるためにある。
だから、不安のつのる夜は、そのことを思い出してほしいんだ。
「また、新しい日が、必ずやって来るから」
だから、夜も恐くはないよ。
「オレにとっては、君が居ないことの方が恐いんだ」
君がそばに居ないとき、生きているか解らなくなる、けれど。
新しく迎える今日という日にまた、君を見つけることが出来る。
君を見つけることが出来れば、それだけで……
何でもない日だって、君と居れば、それだけで記念日になる。
だから、そんな君と。
「、出かけよう!」
どんな大きな地図にも無いような場所へ、手を繋いで一緒に行こう。
あの魔法のアルバムに、続きを作るために。
オレが作ったあの単純な唄は、君のための唄。
忘れないで……不安のつのる夜は、思い出してくれ。
君のための唄が、あることを。
「行こうぜ、!」
さぁ、地図にもない場所へ、君と。
離れないように、離さないように……ぎゅっと、手を繋いで。
「平助、ありがとう!」
そう言って、君が笑う。
――――……歩む速さは、人それぞれだから。
そんなに焦らなくていい、ゆっくりでいい。
だから君が、オレの前では無理をしないで、
本当に笑ったり泣けたり出来るような、そんな二人でいようよ。
とっておきの唄
(それは、君のための唄)
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またもやバンプネタでした! いかがだったでしょうか……。
その名の通り「とっておきの唄」イメージ……というか、そのまま……。
……ちなみに、彼女がよく口ずさむ歌は「花の名」です。
せっかくだからバンプがいいと思いまして^^
とにもかくにも、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!