「おはよー」


          背中から声を掛けられ、振り返ってみると。
          馴染みの顔が目に入った。






          「今日は珍しく遅刻じゃないんだね」

          「……それがどうした」

          「別にどうもしないけどさ、単に言ってみただけ」


          朝から嫌味を言われるのか、とも思ったが……

          そういやこいつはそんな小さいことは気にしない奴だ、
          ということをすぐに思い出す。





          「今日の数学、小テストがあるんだって」

          「へぇー」


          正直、数学のテストなんてどうでもいい……。
          どうせ、学校も朝だけ顔を出してサボるつもりだったからな。






          「あたし苦手だから、嫌なんだよね」


          よく言うぜ。
          数学以外は、定期テストだっていつも万点近いだろうに。















          「おーい! に獄寺ー!」

          「おはよう、二人とも!」


          少し離れたところから、
          10代目と山本がこちらに向かって手を振っていた。

          俺の隣に居るこいつは、そんな二人に手を振り返し、言う。





          「そーいや、今日は早く登校して調べ物しなきゃだったんだ」


          宿題に出されたものを友だちと一緒にやる予定だった、と続ける。






          「その友だち、待たせると怖いんだ」


          そういうわけで先に行くね、と言って、
          走ってさっさと行ってしまった。














          「……あれ? ちゃん、あんなに急いでどうかしたの?」

          「…………なんか、友だちと宿題の調べ物やるとか言ってました」

          「そうだったのか。
           せっかく一緒に登校しようと思ったのにな」


          山本の言葉に、「残念だね」と10代目は返した。






























          「……あれ?
           沢田くんと山本くんは居ないの?」


          結局サボることなく、いつの間にか昼休み。

          俺が一人で屋上に居ると、いつやって来たのか、
          がそばに立っていた。






          「10代目はリボーンさんと大切な話があるそうだ。
           あのバカは……部活のミーティングだとよ」

          「ふーん、そうなんだ」


          自分から聞いてきた割には、大して興味もなさそうだ。
          軽く返事をしながら、俺の隣に座る。






          「そうそう、ちょっとこれ見て。
           昨日コンビニで見つけた、新商品のお菓子なの」


          そう言いながら、「期間限定」とパッケージに書かれたお菓子を取り出す。
          既に封は開けてあったから、少し食べた後らしい。





          「味見してみたら意外においしかったから、おすそわけ」


          ちょっと食べてみて、と言いながら、
          そのお菓子の箱をずいっと差し出してくる。

          正直食べたいとは思わなかったが、ここで断ると割と面倒なので
          仕方なく一切れだけ食べてみる。















          「なんだ、意外と……」


          うまい、かもしれない。





          「ね、意外とおいしいでしょ?」

          「……ああ」


          素直においしいと認めるのも悔しいので、それだけ答えておいた。






          「……じゃあ、あたしそろそろ行くね」

          「なんだよ、慌ただしいやつだな」


          まだ昼休みは半分くらい残っている。
          そんなに慌てていくほどでもねぇはずなんだけどな……。






          「図書室で借りた本、返してこなきゃなんだ」


          放課後は用があってすぐ帰りたいから、今のうちにね。

          そう言い残して、はそそくさと去っていった。















          「獄寺くん、お待たせ!」


          購買に寄って昼飯を買ってきたらしい10代目が、
          と入れ替わりに入ってこられた。







          「獄寺くん? どうかした?」

          「あ、いえ……なんでもないです」


          偶然、だろうか。

          は、10代目が来ることが解ったから、
          さっさと立ち去ったんじゃ……。






          「はぁー、お腹すいた。
           リボーンが秘密の話があるなんて言うから、何かと思ったんだけど」


          帰りにあれ買ってこいとかこれ買ってこいとか、
          ろくな話じゃなかったよ。

          不満そうに言いながら、10代目は購買のパンの封を開けた。






          「あ、そうそう。

           山本は昼休み中ずっとミーティングやるって話だったから、
           俺たちだけでお昼食べちゃっていいってさ」

          「そうですか……
           まあ、あんな野球バカ居なくても関係ないっスけどね!」

          「あはは……」


          そんなことを言いながら、
          頭の中ではの行動が少し気になっていた。

          は、10代目や山本を避けてるのか……?



























          「おい」


          いろいろ考えているうちに結局は放課後。
          俺はHRのあと、そそくさと帰ろうとするに声をかけた。






          「どしたの?」

          「聞きたいことがある」

          「聞きたいこと?」


          別に構わないけれど、ちょっと寄りたいところがあるの。





          「急いで行かなきゃだけど、それさえ終われば時間はあるから」


          その後で構わないなら、と言うので、
          俺はと一緒に帰ることにした。

          10代目にその旨を伝え、俺は教室をあとにした。




















          「で、どこに行くんだ?」

          「んー、秘密」


          いつもより速足になっているところからして、
          昼に言ってた「用がある」というのは、まあ、本当のことらしい。

          けど、何をそんなに急いでるのかは解らなかった。





          「着いた」

          「ここか?」

          「うん」


          立ち止まったのは、雑貨屋……みたいな店の前。






          「すぐ終わるから、外で待ってて。
           話はその後に聞くから」


          そう言って、は店の中に消えていった。




















          ――そして、それほど時間も経たないうちに戻ってきた。



          「用は終わりか?」

          「うん、バッチリ。待たせてごめんね」


          そうして俺たちは歩き出す。






          「それで、聞きたいことって何?」


          人気がまばらになってきたところで、から切り出してきた。

          どのタイミングで話し出すか少し迷っていた俺は少し驚いたが、
          気を取り直して口を開いた。





          「お前は……10代目や山本のこと、避けてるのか?」

          「…………はあ?」


          何を言っているんだ、と言いたげには俺を見た。

          いや……つうか、そんな目で見るなよ。
          なんか俺が変なこと言ったみたじゃねぇか。











          「あたし、そんなこと思われるような行動してた?」

          「いや、なんて言うか……
           俺が一人のときしか、話しかけてこないっつうか」


          実は、これはここ最近のことで。
          少し前までは、10代目や山本、俺、の4人で行動することが多かった。


          山本は「女同士でしか話せないこともあるしなー」と能天気に言うし、
          10代目は「いろいろあるんじゃないかな」とおっしゃっていたから……

          それほど気にしたりはしなかったけど。


          今日は何故か、それが妙に気になって……
          こうして、直接聞いているわけだった。












          「もしかして……あたしが最近、みんなと一緒に行動しないから?」


          曖昧に言ったつもりだったのに、無意味だった。
          こいつは全てを見通している。





          「あのね……
           別に、沢田くんと山本くんを避けてるわけじゃないよ」


          もちろん獄寺のことも、と、続ける。






          「そうじゃなくて、最近獄寺がね……楽しそうなの。
           2人と一緒に居るとき、すごく楽しそうなんだ」


          俺が?
          楽しそう、だって……?





          「だから、3人で居る時間を大切にしてほしくって」


          それで、ほとんど俺が一人でいるときにしか話さなかったのか……。















          「でも、そうは言っても一人で居るときは寂しいでしょ?
           だから、そのときは隣に居ようかなってさ」


          そういう意味もあったの、と、は言った。





          「…………そうかよ」


          まさか、その行動が全部、俺のためだったなんて。
          嬉しいと思う面、照れくさい気もする……。

          赤くなる顔を隠そうと片手で覆ってみたが、無意味だったようだ。
          隣に居るは、くすくす笑っている。















          「聞きたいことは終わりかな?」

          「あ、ああ……」

          「良かった。
           じゃあ、次のお話ね」


          そう言いながら、は手荷物をごそごそとあさっている。

          それは確か……
          さっき雑貨屋で買った何かが入っているはずのもの。





          「はい、どうぞ」

          「……?」


          さっき買ったのだと思われる小さな箱を、俺に差し出した。
          訳が解らず動かずにいると、しびれを切らしたが言う。





          「プレゼントだよ、受け取って!」

          「は? プレゼントって……」


          なんで突然……。






          「今日、誕生日でしょ?忘れちゃったの?」

          「あ、……」


          そういえば、そうだったな……。















          「だからこれ、プレゼントね」


          断りを入れてからその箱を開けてみると、ペンダントが入っていた。

          俺のイニシャルがデザインとして入っているし、
          おそらくオーダーメイドだろう。






          「特別に頼んだんだけど、あの雑貨屋さん、
          閉店時間が早いんだよね」


          だから放課後は急いで帰りたかったのか。

          俺はまた照れくさくなった。






          「リングはいっぱい持ってそうだったから、
           あえてペンダントだったんだけど」


          どうかな、と、隣で微笑む。






          「ああ……ありがとな」


          今は、その一言だけを伝えた。






















253.いつも隣に居てくれること 本当は感謝してるんだ


(今度はきっと そう伝えたい)