「……ねえ、北城くん。
 昨日、どんな夢見てたの?」


再び歩き出してから割とすぐに、
こいつはストレートに聞いてきやがった。





「……絶対ぇ言わねーっつっただろうが」

「まぁそうなんだけど……でも、気になるし」


気になろうが何だろうが言わねぇぞ、俺は。










「もしかして……
 わたしがどうにかなる夢でも見た?」

「……!」


言われて、俺は思わずこいつの方を見ちまった。





「図星?」

「…………チッ」


あからさまな態度とっちまったな……
クソッ……。










「……ごめん、ほんとは知ってたんだ」

「は?」

「昨日ね……
 たまたま教室に入ってったわけじゃないんだよ」


どういうことだ?





「まぁ廊下を歩いていたのは、たまたまだけど。
 そしたら、教室から声が聞こえてさ」

「声?」

「そう」


、って叫ぶような声が。





「…………」

「ずいぶん切羽詰った感じだったから、
 気になって教室に入ったんだ」


何より、自分の名前が聞こえたわけだしね。





「そしたら顔色の悪い北城くんが居たから、
 びっくりしちゃったよ」


嫌な夢見たって言ってたけど、
わたしの名前を叫んでたし……





「わたしが、例えば……死ぬ夢を見た、とか」

「……!」

「北城くんて割と顔に出るよね」

「……うるせー」


つーか、今の誘導尋問じゃねぇか?
引っかかった俺も俺だけどよ……。










「ありがとう、北城くん」


妙に改まった感じで言って、立ち止まった。
手を繋いでいた俺も、必然的に立ち止まる。





「……なんだ急に」

「いや〜、なんかさ。
 夢の話なのに、すごく気にしてくれたじゃない」


だからありがたいし、嬉しいなーと思って。





「夢の話で、こんなに心配してくれるんだから……」


実際わたしに何かあっても、気にしてくれそうだよね。





「なっ……」


何言ってんだよ……





『っ……!』

…………!!』






「確かに夢の中じゃ、俺はお前を守れなかった……」


……けどな。





「今目の前にいるお前は、絶対ぇ守るぞ」

「えっ」

「そう約束したからな」


繋いでる手を引いて距離を縮め……
その至近距離で、俺はこいつの目をじっと見る。

されるがままのこいつも、俺の目を見つめ返した。





「もう二度と……この手は離さねぇ」

「っ……」


こいつが、息を飲んだのが解った。










「おい、なんか言えよ」

「な、なんかって言われても……」


そう言って顔をそらしたこいつは真っ赤だ。





「逆に聞くけど……
 今の、どういうこと……?」


北城くん、もしかして……
夢と現実がごちゃ混ぜになってる?





「んなわけねーだろ!」

「だ、だって!
 守ってもらうなんて、約束した覚えは……」


まぁ、確かに……





「確かに、それは夢の話だな」

「ほ、ほら!」

「けど」


お前のことは本気で守るし、この手を離す気もねぇぞ。





「北城くん……」

「なんか文句あんのかよ」

「いや、文句っていうか……
 それちょっと、プロポーズみたいだけど……」


はぁ!?





「なっなんでそんな話になんだよ!」

「いやいや、そこで逆ギレするの!?」


お前が変なこと言うからだろうが!





「先に変なこと言ったの、北城くんじゃん!」

「はぁ!?
 俺がいつ、んなこと……」


……いや、待て。
言われてみりゃあ、必要ねぇことまで口走って……










「……!?」

「今さら照れないでよ、もう!」


こいつは繋いでいた手を思いっきり振り払い、
さっさと歩き出しやがった。





「おい、待て!」

「待たない!」


あー、クソッ!










「おい……!」

「…………」


そのまま行っちまうかと思いきや、
名前を呼んだらすぐに立ち止まった。





「……北城くんの言ったこと、」

「あ?」

「すごくビックリしたけど、
 嬉しいって思っちゃったじゃんか……」


なっ……





「でもプロポーズじゃないって言うし……」

「あんなのは違げぇ」

「じゃあ、どういうこと?」


振り返ったこいつが、泣きそうな顔をして言う。





「その、……アレだ! プロポーズだってんなら、
 もっとちゃんとしたタイミングで言うだろ」

「……!」


目を見開いたこいつとの距離を詰めて、
俺は再びその手を取る。





「お前のことは俺が守るし、この手を離す気もねぇ」


今はただ、それだけだ。





「…………うん。ありがと……」

「おう」


俯いて言ったからどんな顔をしてんのかは解らねぇけど、
泣いてはなさそうだし、怒ってる感じももうしなかった。










「……じゃあ、帰んぞ」

「うんっ……」


そうして手を繋ぎ直した俺たちは、また並んで歩き出した。




















163.伸ばした手は 何もつかめなかった


(それは夢の話で。今はこうして、大切なものに手が届く)