「ごちそうさまでした〜!」


今日もすごくおいしかった、と、彼女は兄さんに向かってそう言った。





「燐ってホントに料理上手だね〜」

「い、いやぁ、それほどでも……あるけどな!」

「全く兄さんは……」


ちょっと褒められただけで、すぐ調子に乗るんだから……。





さんも、あまり兄さんをおだてないでください」

「いや、おだてたつもりは無いんだけど〜……
 ちょっとまずかった?」

「ええ、とてもまずいですね」


兄さんが調子に乗って良かったことなど、一度もない。

……まあ、今日はもう寮から出ることもないし
騒ぎを起こすということは、無いだろうけれど。










「それじゃあ、後片付けは僕がやるから
 兄さんは部屋で宿題をするように」

「はあ!? そりゃないだろ、雪男!」

「そんなこと言って、どうせ自分からはやらないだろ」

「なっ、何言ってんだ、俺だって宿題くらい……」


なんて言いながら、兄さんの目は泳いでいる。
自分からやる気がないのは明らかだ。















「とにかく、宿題が終わるまで部屋から出るのは禁止」

「何だよそれ! 横暴だ!」

「横暴でも何でも、
 兄さんにはそのくらいしないとダメだろ」

「お前、俺にばっかキツすぎるって!
 は? だって宿題まだだろ!?」


そう言いながら、さんに目を向ける兄さん。





「残念ながら、あたしは既に宿題終わってま〜す♪」

「何ぃー!?」

「嫌なものは最初にやっつけるタイプなんだよ、昔から」


宿題を「嫌なもの」発言している点は、少し気になるけど……
きちんと終わらせているところは、さすがと言える。










「ほら、兄さん。
 解ったらさっさと部屋に戻って宿題」

「ちぇ〜……」


不服そうにしながらも、ひとまず兄さんは部屋に戻った。















「さて……」


僕は片づけを……





「待って、雪男。
 あたしも手伝うね」

「ああ、すみません」


そうして僕は、さんと一緒に片付け始めた。














「……ねえ、雪男」

「はい」


キッチンに並び、皿を洗い始めてすぐ。
さんが、少し改まった感じで口を開いた。

そのことに気づきはしたものの、僕はあえて普通に返す。





「雪男はさ……何と戦ってるの?」

「……! それは、……」


それは、一体……どういう意味なんだ……?





「みんなの知らないところで、何かと戦ってるよね」

「…………」


さんは、どういうつもりで言っているのだろうか。
まさか、兄さんのことを知って……

……いや、そんなはずない。
そのことを知るのは、理事長と今は亡き養父だけのはず。


だけど、この口調は……
まるで、全て知っているかのような……












「…………さん。
 どういった考えで、その問いを僕に?」


質問に対し質問で返すというのは、
我ながら卑怯だと思う。

だけど、そう簡単に打ち明けることの出来る話でもない。


仮にそれを話すとしても……
まだ知り合って間もない彼女を、僕はよく知る必要がある。















『初めまして、です』


――そもそも、この人については、
解らないことが多すぎる。

理事長が突然連れてきた上に、正十字学園と
祓魔塾にも通わせると言ってきて……





『彼女は、ちょっと事情がありましてねぇ……』

『事情、ですか?』

『ええ、そうです。他の生徒と同じ寮だと面倒なので、
 あなた方の寮で生活して頂きましょうか』


僕と兄さんが、この寮で生活する理由は解る。

けど、この人が……
さんがここで生活しなければならない理由は何だ?


この人は、一体何者なんだ……?




















「戦ってることを否定しないんだ」

「……!」


しまった……

まず先に「何を言っているんですか」
とでも言うべきだったか。


そんな考えを見通しているかのような、
真っ直ぐな瞳でさんは僕を見つめる。





「…………」

「…………」


この瞳……
ごまかしてかわすことは、出来そうにない。










「僕が仮に、何かと戦っていたとして……
 あなたが信用できる相手かどうか見極めないと、話せません」

「……!」


僕の言葉で、さんは一瞬目を見開いた。





さん、あなたは……
 あなた一体、何者なんですか?」

「……あたしは…………」

あなたは一体、どこからやって来て……
そしてここで、何をしようとしているんですか。










「あたしは……
 あたしはみんなを助けるために、ここへ来た」


そう言いきったさんの瞳は、さっきと同じように真っ直ぐで……

明確な理由は無いはずなのに、
何故かこの人なら信じられると思ってしまう。















『あぁ、待ってください奥村先生』

『何ですか?』

『彼女――さんのことです。
 まだ素性は明かせないのですが……
 きっと、あなたの力になってくれるでしょう』















「詳しいことが話せないなら、それでもいいよ。
 でも……先に言っておくね」





































186.あなたと一緒に戦うよ



(あたしがここに来たのは、そのためだから)






 あなたが望むなら、あたしのことは全て話すから。

 だからあたしを信じて、一緒に戦わせてほしい。